6話:怠さと満腹と苛立ちと
犬猿の仲の二人がビービーワーワー言いながら梓を取り合ってから翌日の朝、彼女はむくりとベットから上半身を起こした。
「う~ん…」
いつも寝ざめの良い梓が今日は珍しく寝起きが悪く眼を何度も擦ってから背伸びをした。
「なんか、ちょっと怠いな。」
少し体に違和感を感じながら梓は階段を下って行った。
「おはよう~母さん。」
「おはよう、梓ちゃん。・・・あら?顔色が悪いけど大丈夫?」
「う~ん、何か胸の方がモヤっとするんだよなぁ~。」
梓は胸元を手で撫でまわしながら少しずつ顔をしかめていく。どこか、梓の動きがどこかぎくしゃくとし始めていた。
「梓ちゃん。朝ごはんできてるけど食べる?」
「いや、ちょっと今日はいいかな。何か食べちゃうと今日は吐きそう・・・。」
「そう・・・じゃあ経口補水液飲む?」
「ん~そうする。」
梓はりんから経口補水液をもらってのそのそと再び階段を上った。その時の彼女はさらに顔色を悪くしてちょっと息苦しそうな呼吸遣いに代わっていた。
「・・・そう言えば梓が女の子になってだいぶ経つわね。」
りんが、そんなことを呟いたと同時に頭の中である一つの現象が女子には起こることを薄々感じ始めながら「あの子がトイレに行った後がこれは心配ね~。」
りんは、一人台所で心配そうにつぶやいた。
「あぁ~。ホントにキツイ。何か、いつも以上にイライラはするし、それなのに腹はいっぱいで食べる気は起きないし、そんでもって体は重いし。何なの!?ホントに。」
梓は枕をポコポコと腕を上下に振り下ろしながら変なうめき声をあげていた。枕を叩いている最中に一つ梓が体を震わせた。
「お花摘みが、近づいてきたな………。さて、行くか。」
梓は布団から起き上がってお花摘みの聖域へ内股になりながら走っていった。そして、中に入って座ってから用を足し始めた。
「ふぅうぃ~あぁぁぁぁ~。」
何処か悦に浸っている梓はここまではよかったのだ。ちょろちょろと流れる音と同時に一滴、二滴とポトポトと別の液体が滴り始めた。
「な、何かまだ終わらないな。い、いったん拭くか。」
トイレットペーパーで梓は湿った部位を拭いた後一応垂れているものの確認をした。
「・・・えっ?」
梓の顔の色がゲーミングカラーの如く変色を始めていく。
「あっ、あっあっあ………いcべいうえいうhぢおあjせrうふぃおjこえふぇjふぉいwヴぉいえをいfj!?!?!?!?」
トイレの中から梓の声にならない悲鳴が家中に響き渡った。
「ご、ごめんね~梓ちゃん。完全に忘れていたわ。」
「これは、忘れられたら困るよっ!!完全にトラウマだよっ!!」
梓は若干の苛立ちを交えながらベットで横たわっている。実際文面では元気そうに見えますが梓はものすっごくだるそうにしています。
「ねぇ、梓ちゃん。」
「何よ?」
「今日の夕飯は鯛とお赤飯でいいかしら?」
「そこまでしなくていいわっ!!」
梓の疲れ切った声が部屋の中に弱弱しく響いた後、彼女は瞼を閉じてスリープモードにモードチェンジした。
自分の部屋の中で疲れ切った梓はある一つの夢を見た。遠く遠く幼いころの夢。
梓の実母である竹中叶たけなかかなうが病室で髪を靡かせていたあの日のことだった。
「お母さん!!」
「あら、梓~元気にしてた?」
「うん!!いっぱいいっぱい元気にしてたよっ!!」
「そっか。ならよかったわ。」
窓の空いた病室でやせこけ始めている頬を無理やり笑顔に変えながら梓に応える。そこから、梓は幼稚園であったことをたくさんたくさん話す。それに叶はできる限り応えていくが、自分の体に入った病魔は刻一刻と蝕んでいく。
そして、無情な時間はここから続いた。
「でねでねお母さん!!・・・あれ?お母さん?」
叶の意識は、完全に遮断された。しかし、死という状況が分からない年齢の梓にとっては母が寝ているようにしか見えていなかった。
梓は眠っている間、涙を流し続けていた。叶が亡くなった後、父親を元気づけるために梓は作り笑いが明らかに増えていった。気が付けば家事を始めていった。
そして自分が女の子になったときに真っ先に思い浮かんだ姿は、母の高校・大学時代にそっくりになっていた。
次の日の朝になって、梓は少しだけ元気になれた気がしていた。
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