第6話
「お嬢様! だまされちゃダメだ!」
扉が勢いよく開かれユゼフが入ってきた。
公爵を指さす。
「こいつは外国の手先だ! お嬢様の技術を盗むつもりだ!」
「ユゼフ!」
ユゼフの指をあわてておろす。
「閣下、失礼いたしました」
護衛の人がひょいとユゼフを持ち上げる。
ユゼフは放せ放せとわめく。
「すみません! すみません!」
とにかく平謝りするしかない。
「……バンデン、わざとその子を入れたね」
公爵が、護衛の人に言う。
「まさか」
バンデンと言われた護衛はしれっと答えた。
「ただ、私も反対ですよ。技術流出を疑うのはこの子だけではありませんし。せっかく友好になった両国の関係に、こんなことで水をさしたくないです」
バンデンさんがこちらを一べつする。
「そうですよね……」
正論過ぎて何も言う気になれない。
公爵も、徹夜明けの勢いに口をすべらしてしまったのだろう。
私もそうだ。
何を連れて行ってくださいだ。
甘えるな、私。
「もう決めました。あなたがたの国には迷惑をかけません。私ひとり、この国を出て身を立てていきます」
特別扱いはされたくない。
公爵のお世話にはならない。
それはプラスの方向でもマイナスの方向でも。
「お嬢様!」
ユゼフが叫ぶ。
「女性が一人で身を立てるなんて、そんなの無理に決まってるじゃないですか!」
「ユゼフ、心配してくれてありがとう。でもそれくらいできないのなら、最初からやめたほうがマシ」
「そんないばらの道を選ばなくても……。お嬢様には幸せを選んでほしいです。そもそもクビがおかしいんです。二人で直談判しましょう!」
「ごめん、決めたんだ」
私はこの好きという気持ちがどこまで通じるのか、命をかけて勝負したいんだ。
「いや、俺が言い出したことだ。どうにかして君を客人として迎え入れる。君のような才能を、野に放すことはできない。君は世間が、いかに不平等で不条理かを知らない。それはわが国でも同じだ。残念ながらね」
公爵がそうおっしゃってくださる。
自分の国のことをそういうなんて、公爵という身分を度外視した発言だ。
それだけ私の身を案じてくださっている。
「公爵閣下、身に余るお言葉です」
公爵がじっと私を見つめる。
少し悲しい顔で。
でも、口元が笑っている。
「はぁ……。本当におもしろい人だ。それが貴女を貴女たらしめるんだろうね」
ははははっと声をあげて笑う。
「わかりました。とはいえ、馬車と宿と護衛の手配だけはさせてください。貴女の生命を守る最低限の提案です」
急に丁寧な言葉づかいで公爵が話される。
真剣に、本当に心配してくれているんだ。
「でも……」
「これは支援であり、投資です。貴女が我が国に来てくださるなら、これくらいのことさせてください」
「俺が護衛になります! お嬢様を守ります!」
ユゼフが会話にわって入る。
「閣下、ありがたい申し出なので受けましょう。ヴェールランド人の護衛がいたら目立ちます」
バンデンさんがそう答える。
「しかしね」
「いえ、そうしてください」
私がそういうと、ユゼフが目をきらきらさせた。
公爵の介入があって関係がおかしくなったら、ヴェールランドはもちろん、私の国にもいいことはない。
これは私が決めたことだ。
絶対に迷惑をかけたくない。
「公爵閣下、ありがとうございます。このご恩、必ずお返しします」
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