第15話 撮影開始

「おはようございます!!」


「おはよー、玲子ちゃん。今日からよろしくね」


スタッフの一人が、玲子に優しく微笑みかける。玲子は、いつになく緊張していた。ドラマ撮影、初日だからだ。モデルの仕事は、もう右も左もわかって、何なら、案内だってできるくらいだったが、俳優の仕事はそうはいかない。カメラがどの位置にあって、セリフが何処から始まって、ストーリーとはまるで違うシーンから始まってゆく…等々…。台本を、必死で覚えるのも、モデルでは必要のなかったスキルだ。棒読みにならないように、脳みそにセリフを叩きこむために、台本を読む自分の声を録音してまで、演技を自分なりに作り出そうとしていた。


「よーい…スタッ!」


【あんたがなんで時原ときはらくんの彼女なの?顔もスタイルも性格も…何もあたしに勝てないくせに!!これからも、時原くんと付き合うなら、覚悟しなさいよ!どんな手を使ったって、あんたを地獄に堕とすから!!】


「カーット!!玲子ちゃん、一発オッケー!!」


「ふぅ…」


玲子は、少し胸を撫でおろした。


「良かったよ。玲子ちゃん。悪役が上手に出来てた」


「そうですか?まぁ、本来の姿ですからね」


「あはは!玲子ちゃんて、本当に面白い子だよねー。俺、そう言う子大すき!!」


「…はぁ…どうも」


(めんどくさ…この人…)


玲子は、蒼汰のことを、前々から疎んでいた。誰からどう見ても、自分でからでさえも、蒼汰は玲子に気があることが分かっていた。




*****




「で?そいつといつ一緒に撮影すんの?」


受話器の向こうで、凪が滅茶苦茶不機嫌な声で、玲子に言った。


「は?もう一緒に撮影してるけど?何言ってんの?今更…」


「えぇ!?もう一緒に撮影してんの!?なんで!?あいつ、ヒロインの相手役だろ!?お前、ヒロインじゃねえだろ!?」


「凪のアホ!!ヒロインの恋のライバルなんだから、ちょこちょこ蒼汰さんの前に現れないと、物語進まないでしょ」


「なんでだよー…。むかつくよー…」


「凪…大丈夫。私には犬が居るって言ってあるから」


「はぁ?玲子んち、犬なんて飼ってねぇじゃん」


「…本当にアホなの?凪。いつも私の後をしっぽを振ってついてくる犬が一人いるでしょ?」


「あ―あぁ…。俺のことか!!っておい!!」


「ふふふ。あんたが心配するようなことないわよ。私、正直、蒼汰さん、ぜんっぜんタイプじゃないから」


「そう…なの?」


「うん。出来れば逢いたくもない。セクハラ寸前よ、あんな男…」


「なにぃ!?俺が守る!!」


「…………どうやって」


「…………撮影現場に行く…とか?」


「出来るかアホ!!」


プッ!!!!!


「…………………切れた…」




結局、何をして、どうやって、玲子を守れば良いのか…、全く、考えの浮かばない、凪なのだった。

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