第11話 俺だって、玲子を守りたい


「丹羽さん、忙しいのは知ってるんだけど、少しでも支えになりたいんだ。付き合ってくれせんか?」




玲子への告白者は、ことなかれ主義の玲子の考えとは裏腹に、芸能界への進出が進み、増えてゆくばかりだった。




「ごめん。私、今、勉強と仕事の両立でとてもじゃないけど、誰かと付き合う余裕は無いの。だから、ごめん」


そう言って、玲子は、その男子の前から姿を消した。


「あーあ…あんないいおんな、やれればいいなって思っただけなのに…」


屋上に取り残された男子が、ぼそっと言った。


ボコッ!!!


「グあぁっ!!」


「お前!ふざけんなよ!!あいつがどんな想いで仕事してっと想ってんだよ!!お前みたいなやつがいるから、丹羽が迷惑すんだよ!!」


「はぁあ!!??おめぇだっておんなしようなもんだろ!!」


バキィ!!!


「おえぇぇえええ!!!」


俺が殴った3倍の力で殴られた。


「よえぇ癖に粋がんな!ボケ!!」


凪が、腹を抱ええて丸まっていると、


バン―ッ!!!


と再び屋上の扉が勢いよく開いた。そして、


スッパ―――――ン!!!


気持ちがい良いほどの音で、そこに突っ立ていた男子の頬を弾かれた。


「!」


「何してるの?そんな薄汚い喧嘩して、どっちがボケなの?粋がってるのはどっちなのか言ってみなさいよ!!この変態やりたいだけ男が!!」


「な…!」


言い返そうとした、その男子だったが、スッと澄んだ、真っ直ぐな、強い、凛とした玲子の態度に、たじたじになり、何も言い返せない様子で、そそくさと屋上から去って行った。


「なんてざまなの?弱いくせに喧嘩なんてしかけるんじゃないわよ」


「悪かったな…。でも…あいつが…」


「あんなの当たり前の理由でしょ?このお年頃の男の子には。凪にだって、身に覚えが在るんじゃないの?」


「あ?ある訳…あ…」


1年生の時、小笠原加奈に、抱き着かれ、まんまと嬉しかったのは、凪である。


「もう…自分棚に上げて…。凪は本当にアホよね…」





しかし、玲子の仕事は、どんどん増えているのは確かだった。とてつもない体系と、辰まぬ努力。絶対なる仕事への情熱。それは、読者にとどまらず、雑誌の編集者や、カメラマン、各ブランドからのオファーも来るようになっていっていた。


そんな中、幾ら事務所公認の顔バレ彼氏でも、その存在は危うくなっていった。ただでさえ、尻に敷かれた彼氏。イヤ、彼氏として、認識されているのか分からないほどの自分が、どんどん玲子に置いてゆかれるようで、不安感を隠せないでいた。



「なぁ…玲子、お前、悩みとか無いの?」


「悩み?何よ?いきなり」


「え?いや、俺でいいなら、聞くけど…って意味」


「凪。言っとくけど、例え悩みがあっても凪には言わない。凪に解決できる悩みなんて一つもないから」


「なんだよー…。その言い方…」


「ない!って意味よ!凪は?悩みあるの?」


「んー…最近、玲子と一緒にいられない…。……!!!」


つい、思っていたことを、口に出してしまった。


「ふふふ…」


玲子が不敵な笑みを浮かべる。


「い、今のは、エイプリルフール…」


「へー…7月13日のエイプリルフール?聴いたことないわ」


「ですね…」


「凪はなんも心配せずに普段通りに過ごしてなさい。暇なときは遊んであげる」


やっぱり、尻に敷かれる、凪なのだ。

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