第9話 楽しくて、悔やまれた一日

「次の日曜、空けといて」


「なんで?」


「凪にそれを聞く資格はない」


「…だろうな…」





俺が玲子の尻に敷かれるようになって、1年が過ぎた。進級し、クラス替えもあった。そのクラス替えが、問題だった。なんと、嬉しさ半分、ややこしさ半分、同じクラスになったのだ。玲子は、一層の注意を俺に要求する。クラスでも、必要以上に話しかけるな、とか、一回でも下の名前で呼んだら、〇すとか、俺は、もう奴隷と化していた。



そんなある日の放課後、今度の日曜に事務所公認の俺が、呼び出された理由は、皆目見当もつかなかった。まぁ、服とか、靴とか、鞄とか、その荷物持ち程度の付き添いだろうが…。




「重い…重いぞ、玲子…」


「そのくらいでへたばんないでよ。このヒョロヒョロ男!」


「な!お前!自分で持ってみろよ!!」


??」


玲子の眼光が鋭くなる。


「持たせていただけて嬉しいです」


「今度ね、モデルが集まる…んーはっきり言えば、軽いオーディションかな?それがあるの。その時の服とか、今日買わなきゃいけなかったのよ。それで、凪、あんたも来る?そのパーティー」


「え!?俺が行っても良いの?」


「まぁ、顔出すくらいは。一応事務所が公認してくれてるだし?挨拶にもちょうどいいでしょ」


「はい。行かせていただきます!」


「言っとくけど、あんまりダサい格好してこないでよ?」


「えー…?俺、顔は良いけど、ファッションセンスないって玲子に言われそう…」


「うん。ないね。今日の格好も最悪。凪の服も買うか…」


「え?」


「出してあげるよ。荷物持ち代として!」


「玲子様!!」


「その代わり、もし私に恥かかせたら、ブチ○すから!!」


「…はーい…」





2人は、とりあえず、沢山買い物をした。深々と被った帽子で、玲子はほとんどバレなかった。凪は、まるで、昔に戻ったみたいに楽しかった。玲子が、ちょっと自分が先をゆくと、笑って追いかけてくる。

また、『凪くん!待って!!』と、幼い笑顔でじゃれついてきそうだった。

そんな凪の走馬灯の中を回る玲子。


違うのは…本当に、玲子は、奇麗になった…ということだ。


擦り傷だらけだった手足は、白く細く、きめの細かい、毎日ボデイケアしてるんだろうな…と思わせる、艶肌だった。ロングの髪も、今日は一つに束ね、さらさらと、背中で揺れている。


そんな玲子に、凪は、ひたすら、恋しさを覚えた。もっと、あの時大事にしていたら、『凪くん』のままだったかも知れない。もしも、すきだって、もっと早く言ってれば、尻に敷かれず済んだかも知れない。もっと、素直な玲子を、今も見られたかもしれない。


それだけが、悔やまれる、一日だった。

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