「すきなの！！」

ぎゅっ！！

加奈は、いきなり凪に抱き着いた。

放課後、誰もいなくなった、教室でのことだった。

「あ、や、お…小笠原…お…」

たじたじしている凪。女の子に抱き着かれるなんて、人生初だ。

まぁ、悪いもんじゃない…などと、しばらく、男としての幸せを噛み締めていると、

ガラガラ…。

「「！！」」

「あ、ごめん…！」

玲子だった。玲子は、そのまま、凪にも加奈にも何も言わず、スッと教室を出て行った。

「わりぃ！！小笠原！！俺、すきな奴いるから！！じゃあな！！」

咄嗟に加奈を引き離すと、慌てて玲子を追いかけた。

「玲子！！」

「は！？何してんの！？」

「な！何って…」

「ちゃんと心を込めて断ったんでしょうね？」

「え？すきな奴いるから、って言って、飛び出して来たけど…」

「ばっかじゃないの！？凪！！そんなことしたら、凪がすきなのは私で、付き合ってるかもって疑われちゃうじゃない！！凪はなんでそういつもアホなの！？」

「そんな言い方あるか！？こっちはこれでも…！！」

「初めて女の子に抱き着かれて喜んでただけのくせに！！」

「！！！！」

「図星な訳ね…。本当にサイテー…。いいから、明日またきちんと断りなさいよ？本当にアホね！凪！！」

そう言うと、玲子はプイッ！と怒ったまま、凪を置いて、帰って行ってしまった。

「なんだよ…。俺だって…男なんだよぉ…」

情けなく、凪は男の子らしい、そして、男らしくない言葉を呟いて、肩を落とし、帰路に着いた。

―次の日―

「おはよ、丹羽」

「…おはよう。菅原くん」

｟マダ怒ってんの？｠

｟己惚れないで。凪じゃない。小笠原さんが心配なの！｠

玲子が教室に入ると同時に、加奈は、自分の席から逃げるように離れた。

（あーあ…やっぱ、気付いちゃったよ…凪のアホ！！でも、私が介入するのはやめよう…。余計にややこしくなる気がする…）

そう思った玲子は、加奈の所へは行かず、普通に席に着いた。ところが…。

「ねぇ、凪くんと付き合ってるって本当？丹羽さん」

「はぁ！？」

「もう学校中の噂だよ？昨日、放課後の教室で抱き合ってるの見たって…」

「………」

（小笠原加奈…結構陰湿な奴だったか…）

「いいんじゃない？そう言う噂、立てさせたい人には立てさせといて。そんなの本人同士が清廉潔白なら、別に気にすることじゃないし。私からすれば、そう言う噂、する人の方がどうかと思うけど…」

と、玲子は大声で、鋭い眼光を携え、加奈を睨みつけた。加奈が、一瞬、ビクッとしたのが解った。

（あのチキン…！…は！！私は構わないけど、あのアホ！！うまく対処してるんでしょうね！？）

玲子は、慌てて、凪のクラスに向かった。

そぉっと、扉の影から、凪を探した。

（あ！凪！いた！）

「お前―――――――！！！！玲子様と抱き合ってたって本当かぁぁぁああああ！！！！？？？？」

「んなわけねえだろうぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおお！！！！！」

（あーあ…ぜんっぜんダメじゃん…）

「菅原くん。ちょっといい？」

「げ！！れ…丹羽…。イヤ…あれは…その…なんて言うか…」

「い・い・か・ら・き・な・さ・い！！」

「はい…」

クラス中が見つめる中、玲子の方へ、凪が近づいてゆく。すると―――…。

スパーンッ！！と凪の頬を思いっきりひっぱたいた。

「イッテ―――――――――！！！！何すんだよ丹羽――――――――！！！」

「あなた、最低ね。昨日、小笠原さんに告白されて、困ったあなたは、この学校一モテル私と付き合ってる、と嘘を言って自分を諦めさせようとしたらしいじゃない。男なら、そんな卑怯な断り方しないで、ちゃんと、すきな子の名前を言うか、いないなら、はっきりすきじゃない、と言うべきだわ。それとも、抱き着いた、というのだけが本当の噂で、それを嬉しがったのを知られたくなくて私のせいにしたのなら、もう、あなたとは口もききたくない。幼馴染と言う過去も、捨てることね」

そう言い残すと、さっさと自分の教室へ戻って行った。その光景を見ていた加奈は、すれ違った時の毅然とした玲子の態度に、圧倒された。

―放課後―

玲子は、一人で、クラス委員の仕事を片付けていた。すると、扉が開く音がした。どっちだ？振り返ると、加奈の方だった。

「丹羽さん…ご…ごめんなさい…」

「なに？小笠原さん。私に何か謝るようなことをしたの？」

「え？だって…知ってるんでしょ？私が流した噂…」

「あぁあ。そんなもの気にもしてないわ。そんな噂、信じる人も馬鹿だし、流す方も相当の馬鹿だと思ってるから。そんな人にいちいち干渉してたら時間がもったいない。ただ、菅原くんの対応も良くなかった。そうは思う。あなたはどう思ったか知らないけど、私と菅原くんは、本当にただの幼馴染よ。それ以下でも、それ以上でもない。それだけよ。それで？他に質問やご意見は？」

「あ…無い…です…。ただ、謝りたくて…」

「じゃあ、私にではなく、菅原くんに謝るべきね。本当に菅原くんのことがすきだったのなら、菅原くんが酷い目に遭うような噂をたてたあなたは、菅原くんに謝る義務がある。それは解る？」

「…うん…解った。ごめんね。じゃあ、また明日…」

そう言うと、加奈は、おとなしく、帰って行った。