第6話 尻に敷かれます宣言

―日曜日―


「んで?日曜に俺を呼びつけて、何しようってんの?」


「服選び!」


「はああ?んなの、クラスの女子とくればいいじゃん」


「だって、凪、服のセンスだけは良いもん」


「だけってなんだ…」


「その通りの意味だけど?」


「この高飛車女…」


「声に出てるわよ」


「…すみません」




俺と玲子が街を歩いていると、まるで俺までゲーノー人になったみたいに、周りからジロジロ色んな視線が飛ばされてきた。これが、有名人の歩む道なのか…。


「俺なんかで良かったのかよ。こんな風に人に見られるのに…」


「凪は、事務所にも言ってあるの。幼馴染だから、男友達とは、凪以外とは外出しないって。つまり、とても残念なことに、私はこの青春を、凪としかデートらしきデートが出来ないの。とっても可哀想でしょ」


「なんだよ、それ」


と、言っておいて、俺は内心、小躍りした。俺以外の男と玲子が、デートをすることは無い。ということだ。とっても特待生じゃないか。俺は、事務所公認のデート相手、ということだ。


「って言っても凪、勘違いだけはしないでね。凪以外の人とこんな風に出歩いたら、その人が私もその人のことをすきだって思われるからよ?凪は、間違っても、私が凪をすきだなんて思わないでしょ?」


ギク…ッ!!


完全に思っていた。そうではなかったのか…。





なんでだろう?俺は、…俺は、玲子がすきだった。幼稚園の時から、自分に一生懸命付いて来て、何されても怒らなくて、物静かで、おとなしくて、いつも笑顔で…。


その時に、なんでもっと玲子を大切にしなかったんだ…。と、今、悔やまれる。立場は一気に逆転し、玲子がすきな俺は、玲子にすかれてはいない。




「はぁあ…」


「…何よ…その大きなため息。私と一緒にいるのがそんなに不満?凪」


「ち!ちっげーよ!!そのぎゃ…むご!!」


急いで両手で口を塞いだ。


「何なのよ…。凪、あんたおかしいよ?」


「それは俺のセリフだ。高校入って、急に呼び捨てになるし、全然甘えてこないし、てか、それどころか冷たくなってねぇ?」


さっきから、ずーっと前を歩き、表情かおが見えなかった玲子が振り返った。その顔は、予想と、まるで違っていたんだ…。


「だって、凪は私のこと、すきでしょう?」


ツンとしているのに、瞳は笑っている…。こんな可愛い顔、久々見た。


「か、勝手に決めんな…」


そっぽ向いて、応えた。


「正直者ねぇ…。凪。でも、もう凪だけを特別扱いする訳にはいかないの。事務所の手前もあるし、スキャンダルはご法度だし、さっき言った、凪だけを外を連れまわして良いって言われたのも本当。私は、もう今までの丹羽玲子じゃないの。菅原凪、あなたを、完全に、尻に敷かせてもらうわ」


「えーーーーー!!??」


「何よ。それくらいできなくて、どうやって私をすきでいつづけるつもり?凪の私への気持ちは、そんなもの?じゃあ、もうデートの相手役も、凪から他の男子に交代ね」


「わーーーー!!待て待て!!!絶対我慢すっから!!玲子の困るようなことは絶対にしないし、…俺は…尻に敷かれます…」

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