第5話 弱み

俺は、玲子に立場を超えられ、1年が経った。玲子は、一層人気者になっていた。そんな俺に、只一人、優しかったのが、小笠原だった。俺がこんなこと言うと、うぬぼれだと思うが、恐らく、小笠原は俺に惚れている。でも…俺は…。








―小学3年生―


「凪くん!鬼ごっこしよ!」


「ヤダよ!お前、脚おせーもん」


「えー…。うん。じゃあ、凪くんの鉄棒見せて!逆上がり!!」


「えー。またかよ」


「だって、玲子出来ないから…」


「いいけどよー。お前も練習しろよな」


「うん!だから、お手本、見せて!!」


玲子は、嬉しそうに言う。そして、凪が逆上がりをすると、大袈裟に拍手をする玲子。




『すごーい!!凪くん大すきー!!』




ガタンッ!!


「イッテ!!」


凪は、ベッドから転げ落ちて目が覚めた。そして思った。玲子は、いつも自分の後を追っていた。どんな酷いことをしても言っても怒らなかった。それどころか、喜んで、嬉しそうで、楽しそうだった。



そんな夢を見て、目覚め、凪は思う。


“玲子が俺をすきだったんじゃない。俺が玲子をすきだったんだ…”


と…。いつの間にか、立場逆転だった。







「あ、菅原すがわらくん。おはよう…」


「おう。小笠原。はよ」


「あ、玲子ちゃん、おはよう」


「あ、加奈ちゃん。おはよう。私、今日日直だから、先に教室行くね」


そう言うと、凪にはなんの挨拶も無しに、玲子は教室へ向かって行ってしまった。


(んだよ…あいつ…。挨拶くらい、しろよな…)


「…………どうか…した?菅原くん」


「へ?あ、いや、なんでもない。この前は辞書、サンキュな。助かった!」


「ううん。じゃあ、私も、教室行くね」


「あぁ…じゃあな」





「あぁあ…。玲子様…。遠いなぁー…。お前、幼馴染だろ?ちょっと口添えしてくれよ!!」


「イヤだ」


「なんでだよー!!あー!!!お前、やっぱ玲子ちゃんすきなんだろ!!」


「ふざけんな!!誰があんな女!!」


「あんな女で悪かったね。菅原くん」


(げ!!)


「れ、玲…丹羽さん!!どうしたの?なんか用事?」


「ううん。そこの、今、私を嫌いだと言わんばかりに、声を荒げた男に用事があって」


「…そっか。凪ね…」


(凪!!お前、玲子ちゃんに失礼なこと言うなよ!?)


(うるせー…)





「なんだよ。用事って」


「今度の日曜、空いてる?」


「は?」


「空いてるわよね?」


「あ、空いて…る…けど…?」


俺は少し緊張した。なんでだか、わからないけど。また、昔のように、なれるんじゃないかって。もしかして、また、“凪くん”、って呼んでくれるんじゃないかって…思って、胸がざわついたんだ…。




「凪、あなた、すきな子いるでしょ?」


「は!!??」


「ふっ。図星。わっかりやす」


自分でも認めたくない。まさか、こんな変わってしまった幼馴染が、こんな美人になって、滅茶苦茶モテル幼馴染がすきだなんて、誰にも…他でもない本人には絶対バレたくなかった。でも、きっと、玲子は知っている。解っている。



俺は、いつの間にか、尻に敷かれた状態だ。

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