第三術【共に闘う】







Wizardry2

第三術【共に闘う】




 第三術【共に闘う】




























 ソルティがタールとルイの相手を引きうけている間、流風は巨大な食虫植物を準備していた。


 それに気付いたタールは隼に姿を変えると、流風のもとに飛んで行き、その後すぐに蛇になって流風の足元をぐらつかせると、今度はワニになって大きな口を開ける。


 その口に流風が呑みこまれてそうになるも、ソルティが流風を抱えて移動する。


 間一髪、タールのワニが口を閉じたのを確認すると、流風は人差し指を使って蔓を使ってワニの口を拘束する。


 タールは姿を戻して自分の口から蔓を外すと、その隣にルイが下り立つ。


 「タールにしては随分時間かかってるね。どうしたの?俺が2人とも殺してやろうか?」


 「馬鹿言わないで。あの男が身軽なのよ。あんたこそ、ちゃんとあの男を足止めしておきなさいよね。楽勝だって豪語してたじゃない」


 「そうなんだけどね」


 ソルティの炎など、ルイの能力をもってすれば使わせないようにすることなど簡単で、実際にソルティはほとんど使えていない状態だ。


 「じゃあ、そろそろケリつける?」


 「当たり前よ。あの生意気な小娘、この手で綺麗に始末してあげるわ」


 その頃、ソルティは何か考えているようで、あまり見かけない眉間にシワを寄せるという表情をしていた。


 きっとシェリアが見ていたら、レアだと言って写真を収めているだろう。


 しかし、流風はそのソルティに対して少しトゲトゲしい言葉を投げかける。


 「あなた、一体何が出来るの?炎が出せないなら何も出来ないじゃない。足手まといにでもなる心算?」


 そんな辛辣な流風の言葉に、ソルティは困ったように笑い返す。


 流風が植物をどんどん育てて行くと、ルイが肉を頬張りながら衝撃波を出してくる。


 しかし、先程よりも頑丈に育っている植物は、それしきのことではビクともしなくなっており、ルイは植物を育ちにくくさせるために、酸素を多めに纏わせようとする。


 「・・・ちっ!!」


 その時、ソルティが炎を出してルイの腰にある食料が入った袋を燃やそうとした。


 だがギリギリのところで避けられてしまい、ルイは流風から離れながら、今度はソルティの攻撃に備えるべく二酸化炭素を充満させる。


 一方で、ソルティが流風から離れたのを確認したタールは、そろそろと蟻になって流風に近づいて行き、流風の姿を捉えると一気にその身体に抱きついた。


 「くっ・・・!!」


 先程のこともあるため、今度は一気に身体の深部の体温を奪ってしまおうと、タールは自分の身体を雪にする。


 「ゆっくり眠りなさい。そしたら綺麗に死ねるわ」


 「綺麗に死ぬ心算なんて無いわ・・・っ」


 「あら、そうなの?だったら、綺麗な顔に傷でもつけてあげましょうか?」


 そう言うと、タールは爪の部分だけを何かの動物のものに変え、その尖った爪で流風の顔に触れる。


 そしてその顔に傷をつけようとしたとき、タールの雪が融けていくのに気付く。


 「ルイ、ちゃんとそいつを・・・」


 ソルティの相手はルイだと、それを伝えようとしたタールだったのだが、ルイの方を見ると汗だくどころでは無かった。


 ぐつぐつと、まるで煮えたぎる鍋の中にでもいるかのような、いや、それ以上に熱い何かがそこに立っている。


 「ちょ、ちょっとルイ!どうなってるのよ!」


 「知らないよ!」


 ルイは腰に手をかけて、そこに入っている食料を食べて何とか魔力を上げようとしてみたのだが、腰をいくら摩ってみても、なかなか袋に手が届かなかった。


 どういうことだとそこに目を向ければ、いつの間にかそれが無くなっていた。


 どこかに落としたのだろうかと辺りを探してみると、それに気付いたソルティがルイの探し物であろうそれを手に持って見せる。


 「探してるのはこれかな?」


 「なんでお前!!いつ取った!?」


 ソルティの動きはずっとルイが止めていたはずで、袋を奪い取る時間も余裕も無かったはずだ。


 それに対してソルティは、キョトンとしたかと思うと、またにこりと笑う。


 「それはね、彼女のお陰だよ」


 「は?」


 ソルティが顔を向けた先には、タールに抱きつかれている流風がいた。


 ソルティから発せられる熱によってタールの雪はまったく機能しなくなっており、流風はその間に蔓を使ってルイの背後から食料の入った袋を盗み取っていたのだ。


 ルイとタールがそれに気付き、タールは今自分が拘束している流風を睨みつけると、顔を虎にして流風の首に噛みつこうとする。


 「きゃああああああ!!!」


 虎の顔をしているタールが流風に噛みつくと、流風は断末魔のような叫び声を発する。


 それを見ていたルイは、勝ち誇ったかのように大袈裟に笑いだし、ソルティを指さして嬉しそうに叫ぶ。


 「見たか!!所詮お前達は俺達の敵じゃなかったんだよ!!これが証拠だ!!ここで無様に死んでいくんだよお前等!!!」


 「・・・・・・」


 何も言わないソルティに、ルイは自分も止めを刺そうと手を翳した。


 「ん?」


 だが、ルイの身体は急に動かなくなってしまい、タールに助けを求めようとしてそちらを見てみると、タールは自分よりもきつく縛られていた。


 自分たちを拘束しているのは明らかに流風が操っているソレで、身をよじりながらなんとか脱出を試みる。


 タールはタールで、自分の身体を動物に変えてそこから逃げようと試みたのだが、身体を小さくすると、まるで蔓は意思があるかのようにタールの身体にフィットする。


 次第に身体に巻きついてくるのは、蔓だけではなくてなにやら太い根。


 より大きな身体になってそこから脱出を試みるも、蔓や根がタールの身体にフィットし巻きついてしまっていて、それを許さない。


 「どういうことよ!?あの女は殺したはずよ!?」


 タールの叫びに、ソルティが誰かをエスコートするかのように手を自分の前からタール達の方へ動かす。


 すると、そこには青い髪の女性が・・・。


 「なんでよ・・・なんでよ!?なんであんた生きてるのよ!?」


 自分が仕留めたはずの流風が、何食わぬ顔をして現れたため、タールもルイも互いの顔を見ることも出来ずに流風を凝視していた。


 「さ、さっきのは一体何よ!?あんたじゃなかったの!?」


 それに答えたのは、ソルティだ。


 「さっき君が襲っていたのは、俺が見せていた蜃気楼だよ」


 「・・・はあ?蜃気楼?私を馬鹿にしてるの?!そんなものと本物、間違えるわけないじゃない!!」


 「まあ、魔法による蜃気楼だからね」


 簡単にそう言われてしまったタールは、納得いくこともできないまま、流風の拘束から逃れることを考える。


 「放しなさいよ!!!こんなことして、赦されるとでも思ってるの!?」


 「許されないことをしているのは君たちだよ」


 「絶対にあんたたち、殺してやるわ!!」


 タールは身体を自分よりも小さな虫へと姿を変えると、蔓と根がその自分の身体に巻きつく前に脱出する。


 ルイはそれを見て歓喜し、ただタールを応援している、だけのように見えて、ルイも周りの空気を自分に向けて、または自分から外に発するようにして衝撃波を撃ち続けていた。


 それでもビクともしない流風の拘束に四苦八苦していると、タールは流風が準備していた植物たちよりも大きなドラゴンになる。


 あまりにも大きなそれに、流風は一歩後ずさってしまい、さらにはそのドラゴンは口から火を放ってくる。


 「いけー!!タール!!!」


 「・・・・やれやれ」


 自分の火とタールのドラゴンの火、どちらの火力が強いかの問題になってくるのだが、そのとき、ルイがタールの方の酸素濃度を濃くし、ソルティの方の酸素濃度を低くした。


 それを見て、流風は自分が応戦しなくては、と思ったのだが、ソルティが手を出してストップさせたれた。


 「でも!」


 「的は、大きいに越したことはないからね」


 「え?」


 にこっと笑ったソルティは、手から炎、ではなく、それ以上の熱さを持つものを出した。


 それは先程、タールの雪を融かしたものと似ている紅さで、じゅわ、と融けていく地面にタールも思わず生唾を飲み込む。


 「お前が操れるのは炎じゃ・・・!!」


 「俺もそうだと思ってたんだけど、単に修行が足りなかっただけみたいでね。海斗同様、魔法は進化するみたいだね」


 「ふざけるな・・・!!」


 タールのドラゴンが口から火を放つのと同時に、ソルティも放つ。


 それは炎を呼ぶにはあまりにも荒々しく、黒っぽく濁る紅さの残る熱の塊は、全てのものを飲み込んで行く。


 タールの身体はそのまま消えてしまい、ルイの顔色も一気に変わってしまったのだが、ルイはまだ諦めずにソルティに向けて衝撃波を撃つ。


 しかし、その瞬間ルイの身体から巨大な花が咲き、ルイはかくん、と意識を手放してしまった。


 ふう、と一息ついたところで、流風がソルティにこう言った。


 「マグマなんて使えるなら、最初から使えば良かったのに」


 その流風の言葉に、ソルティはまた困ったように笑って頬をかきながら、こう言う。


 「全部飲み込んじゃうからね、人も花も。だから、出来るだけ使いたくなかったんだ」


 「・・・・・・」


 ソルティが去って行く背中を眺めながら、流風は思った。


 「・・・炎で綿毛燃やしてたのに」








 少し前、デュラとシェリアも苦戦していた。


 ノーゴの力で見えなくなってしまった2人とその攻撃に対し、デュラはシェリアの身体にも雷、といっても静電気ほどのものだが、それを纏わせて相手の攻撃を早く察知出来るようにしていた。


 それのお陰でシェリアもなんとか戦えていたのだが、敵が見えないということがこんなにやりにくいとは思っていなかった。


 ノーゴが透明にした岩石を操り、さらにはミュンが重力を用いて攻撃力を倍増させる。


 「さすがですわ、ノーゴさん!」


 「もっと褒めてもっと褒めて!!」


 こんな具合に、褒めれば魔力が増えるノーゴと、触れることで人の魔力を吸い取ってきたミュンは、息の合った攻撃を仕掛けてくる。


 シェリアは、デュラのお陰でなんとか攻撃の方向が分かり、それを伝えることでデュラが岩石を割って回避する、ということの繰り返しだったのだが、ミュンが動き出した。


 徐々にノーゴの戦い方に慣れて来たデュラは、ノーゴの攻撃を先読みして攻撃することも出来るようになってきた。


 「っぶね!!なんだあいつ!」


 「ノーゴさん、私にお任せあれ」


 そう言うと、ノーゴの攻撃ばかりに気を取られていたデュラの足元に重力をかけ、まずは動けないようにする。


 足元だけが動き難くなっているため、デュラからすればまるでぬまるみに足がはまってしまったかのような感覚だ。


 そしてその隙にミュンがデュラに触れて魔力を奪い、ノーゴも攻撃をする。


 自分に何かが触れていることに気付いたデュラは、動く両手で周りに雷を落とすと、驚いたミュンは慌ててデュラから離れる。


 「デュラ!大丈夫!?」


 「うるせえ」


 一度は距離を取ったミュンだが、再びデュラから奪った魔力で、より強い重力を集めてデュラに向ける。


 目に見えない岩石が迫ってくることが分かり、デュラはなんとか踏みとどまってその攻撃をかわそうとする。


 しかし、今度は重力が腕、指先にも来てしまい、攻撃を壊せない状態になってしまう。


 「ここまでですわ。哀れな魔法使い」


 「俺達の手にかかれば、ざっとこんなもんだよな」


 ノーゴとミュンのそんな声が聞こえていても、身体を動かすことが出来ずにいた。


 「みんなして!!私を無視してんじゃないわよおおおおお!!!!!」


 「!?」


 ミュンの重力によってデュラに向かっていた岩石は、どういうわけか、デュラとシェリアから離れた場所へと落ちた。


 大きな音を立てて落ちていった岩石に、ノーゴとミュンも思わず顔を見合わせる。


 その場に拘束されていたデュラの身体も、何かの力によってそこから移動させられる。


 「だから言ったじゃない!!これはコントロールが難しいんだからね!!」


 「お前もあいつに魔力奪われてたんじゃないのか」


 「ソルティ先輩の声が聞こえた気がしたの!だから元気になったの!!」


 「・・・・・・よかったな」


 どう何を言えば良いのかわからずに、デュラは動くようになった身体をストレッチさせる。


 一方で、自分たちの攻撃が当たらなかったことに不機嫌になってしまったミュンは、シェリアに尋ねる。


 「あなた、まともに私と戦えていなかったようですけど、一体何をしましたの?」


 「うっさいわね!あんたが重力なら、私は引力なのよ!!!あんたの重力なんて、私の引力で方向を変えてやるんだから!!」


 「強引なお方ですのね」


 ミュンの重力は一定方向、極端な話だと下には操れても上には操れない。


 一方、シェリアの引力は、物体さえあれば何処にでも操れるのだ。


 「デュラ!しゃきっとしなさいよね!!私、自慢じゃないけど長くはもたないから!」


 「自慢するな」


 それから、ノーゴの攻撃は場所さえ分かればシェリアの力で別の場所へと移動させることが出来、デュラの攻撃でも壊すことが可能となった。


 だからといって優勢になったわけではなく、先程より状況がマシになった、というくらいだ。


 ミュンは姿を消したまま2人に触れながら、少しずつ魔力を奪って行く。


 「ノーゴさん、ひとつ提案してもよろしくて?」


 「なに?」


 ミュンは確実に2人を抹殺するため、ある提案をノーゴに示した。


 それがノーゴにも聞き入れられると、ミュンはシェリアだけに向かって重力を発動させ、シェリアの動きを封じる。


 全身が地面に吸い込まれているかのように、シェリアは自分の身体がとても重たくて、呼吸もし辛い。


 「終わりですわ」


 ミュンは、まるでお祈りをするかのようにして両手の指をからませている。


 ブロンドの綺麗な髪が風になびくと、シェリアは片腕を伸ばし、拳をつくってぐいっと自分の方へ引っ張る。


 「「え?」」


 その瞬間、ノーゴとミュンの身体は勝手に動き、デュラによって電撃を受ける。


 すると自分たちの透明化も解けてしまい、2人の姿がはっきりと見えるようになる。


 「なっ・・・!?」


 「てめぇらの位置を探し当てるのは大変だからな。その女が攻撃してきた瞬間、女の位置が把握出来た。あとはこいつの勘だ」


 「そ、そんなことで俺達は負けない!!」


 まだ立ち上がろうとするノーゴは、また自分を見えないようにしようとしたため、デュラが反撃の余地がないほどにボコボコにしていた。


 「デュラ、やりすぎじゃない?」


 「いいんだよ。こういうやつらは再起不能にしないと意味ないから」


 さらにデュラは、ノーゴが起きても何も出来なくするために、身体中に電撃を走らせ麻痺状態にさせた。


 完全にばたんきゅーしてしまったノーゴの一方で、ミュンはまだ自分の力ならデュラとシェリアに勝てると考えたのか、2人にだけ重力をかけて一旦距離をおこうとした。


 だがそれに気付いたシェリアが、ぐぐっと何かを引きよせていた。


 しかしミュンはこちらに来ることもなく、ミュンはミュンでシェリアとデュラに重力をかけようとしていた。


 その時、シェリアが引きよせていたそれを一気にはじき出すと、まるで見えない大砲でも喰らったかのように、ミュンは勢いよく飛ばされ壁に激突して気絶してしまった。


 デュラは電撃の準備をしていたのだが、思いもよらなかった結末に、肩をすくめる。


 行き場を失くした雷を自身の身体に戻ると、遠くの壁にめり込んでいたミュンが静かに地面に落ちていくのが見える。


 「なんだ、ありゃ」


 一体何が起こったのかをシェリアに聞けば、へなへなと地面に座り込みながら、シェリアはこう話す。


 「引力で空気を物体として思いっきり引っ張るとね、放したとたんにその反発で空気砲?みたいなのが出るの。まあ、これは風を使う空也に対して考えた攻撃だったんだけど。まさかこんな使い方が出来るなんて。魔法も使い方次第よね」


 「そちらかと言えばこっちが正解の使い方だな」


 デュラがシェリアの身体に纏わせていた電気を解除していると、何かの気配を感じた。


 戦い終えたのか、流風とソルティが見えたためそちらに指を向けて名前を呼べば、シェリアが慌てて立ち上がる。


 「シェリアちゃん、無事だった?」


 「もちろんです!!」


 「頑張ったみたいだね。髪の毛乱れちゃってるよ」


 「え?え?」


 必死になって髪の毛を直そうとしていると、ソルティがクスクスと笑いながら頭を触り、整えてくれた。


 それだけで顔を真っ赤にして今にも倒れそうになってしまう。


 「そ、ソルティ先輩こそ、大丈夫でしたか!?お怪我はありませんか!?」


 「大丈夫だよ。それに、男が怪我したくらいでへばっていられないよ」


 「ソルティ先輩・・・!!」


 一途な乙女、シェリアはソルティが戦いの最中に流風と一緒にいたことに多少嫉妬していたわけではないが、それでも心配していたことに違いはないわけで、こうして無事に再会出来たことを心から喜んだ。


 そして同時に、戦いの間だけとはいえ、ソルティと一緒にいた流風を心から羨んだ。


 そんなことなど露知らず、手をぐーぱーぐーぱーして動きを確かめていたデュラのもとに近づいてきた流風は、デュラの手を見て呟く。


 「デュラ、怪我してる」


 「大したことない。それより・・・」


 2人が見た方向には、未だ戦いが続いているジンナーと思われる人影があった。


 「ジンナー様・・・」








 また少し前、ナルキと海斗。


 「くそっ!!!幾ら氷で身体凍らせようとしても無理だ!!氷点下何度ならいける!?どうすりゃいい!?」


 「海斗落ち着いて。あの巨体を一気に凍らせられるなら別だけど、今のところ最大値が下半身くらいなら難しいだろう、ごほっ」


 「ナルキ、身体に細菌入ってんだろ?無理しねえ方がいいって」


 「そうも言っていられない。それに、ここで止めたらそれこそ空也に馬鹿にされそうだしね」


 「確かに・・・ごほっ」


 「海斗の方がやばそうだね。湿気多いから増殖してるのかも」


 マイの細菌はそこら中にあるらしく、呼吸をするだけで身体の中へと侵入して、その身体を蝕んで行く。


 ナルキと海斗は風上に移動してみたものの、幾ら隠れようとも巨大化しているヴェンからは逃れられない。


 大雑把中の大雑把な攻撃が来る度に避けて、ナルキは土でガードするも土を砂に変えられてしまう。


 海斗の氷も一気に片をつけることが出来ずにいると、ヴェンは眠そうに欠伸をする。


 いつも寝ているからなのか、ヴェンは少しだけ寝ていいかとマイに聞いてみるが、マイは絶対にダメだと言う。


 文句を言いながらもヴェンが攻撃してきて、海斗が避けようとしたのだが、その時ナルキが海斗の腕を引っ張った。


 そのせいで海斗は木に激突してしまう。


 「ナルキ!痛ェ!!1」


 「悪い。魔法陣があったからつい」


 「魔法陣って、あの女の?なんで分かるんだ?エスパー?」


 本気なのか冗談なのか分からない海斗の問いかけに、ナルキは真面目に答える。


 「俺土だから」


 「・・・・・・へ?」


 ナルキの解答に文句をつけるわけではないが、それだけで分かるわけがないだろうと思っていると、それが顔に出ていたのか、ナルキは詳しい話を始める。


 「土の上に書いてある魔法陣なら、俺の魔法を張り巡らせれば分かるんだよ。魔法陣って地面に書くのが一般的だろ?まあ、空中とか水中に書くやつもいるけど、その時はその時かなと思ってる」


 「・・・おお、わかったけど最後適当だったな」


 「空中は確立として低いよ。あんな巨大な奴が動きまわるところに、魔法陣なんか危なくて書いておけないだろ」


 「それ。それを言って欲しかった。なんか、別のところに書いてあったらしょうがないよね、てへ、って感じで聞こえちゃったからさ」


 現に、ナルキはここまで攻撃をしたり避けたりしながら、魔法陣があると思われるところの上に土をかけたり、削ったりしていた。


 実際に今誰かの身体を乗っ取るとしたら、今ヴェンの肩に乗っているマイの身体はあそこから落ちてしまうわけで、きっと発動自体させないかもしれないが、可能性が無いわけではない。


 ナルキと空也が2人して咳込みながらも、ヴェンに向かっていったのだが、身体が大きくなっているヴェンにはほとんど効かず、ナルキと海斗の足をつまむと、そのまま地面に放り投げる。


 そして2人が立ち上がる前に、上に大量の砂を被せてしまった。


 生き埋め状態になった2人は、息が出来ず、出来たとしても細菌によって呼吸がしにくいため、あまり意味を成さなかった。


 そして止めとばかりに、ヴェンはその上から大きな足を覆いかぶせ、踏みつける。


 ぎゅぎゅっと強く何度も踏みつけると、マイが掘りだして死んでいるか確認をするように指示を出す。


 「お前がやれよ」


 「なんで私が。身体の大きい人がやった方がさっさと終わるでしょ」


 「眠いのに」


 人差し指でちょいちょいと、自分が先程まで強く踏みつけていたそこを掘り始める。


 「あれ?どこだ?」


 「早くしてよ」


 「うるせぇなぁ。自分でやらねえなら文句言うなよ」


 マイに愚痴愚痴言われて少し不機嫌になりながらも掘り続けてみるが、一向に2人の姿は見当たらない。


 もしかしたら粉々になってしまったのだろうかと、今度は骨のひとつでも見つけてやろうと骨を探し始める。


 それでもなかなか見つからずにいると、だんだんと地面が近くになってきた気がする。


 決してヴェンが小さくなっていっているわけではなく、だが確かに地面が近づいて行く感覚がある。


 「あいつらか」


 ヴェンの足元の土はずぶずぶと沼のようにぬかるみ、そこから抜けだそうと右腕を前についてみると、そこも同じように沈んで行く。


 「こんなもん」


 砂に変えてしまえば脱出できると、ヴェンは手に力を込めてみるのだが、一向に砂になる気配がない。


 周りの土の体積が多いからなのか、ヴェンはそこから動けなくなってしまった。


 残っている左腕でなんとかしようと考えていると、後ろの土がもこっと盛り上がったのが分かった。


 そこにナルキと海斗がいると思ったヴェンは、そちらに手を向けて2人を手で潰しながら砂にしてしまおうとしたのだが、その土はただの土で、抵抗することなく潰れた。


 「どこだ?」


 「・・・・・・」


 マイも一緒になってナルキと海斗を探していると、先程の盛り上がった土から2人が一気に飛び出してきた。


 「いたわ!」


 マイがそちらを指させば、ヴェンは急いで動ける左腕を向ける。


 ナルキと海斗は、ナルキが操っている土でヴェンの頭上まで移動していると、ヴェンはそれを追う様にしてどんどん砂を出して攻撃していく。


 ある一定の高さまで行くと、今度は2人が落ちてきたため、ここで2人を捕えて地面にたたきつけてやろうとしたのだが、それは出来なかった。


 「一気にたたみ掛ける!!!」


 ナルキの土と、それに加えて2人を捕まえようと攻撃していたヴェンの砂が、なぜか土砂へと姿を変えて自分に向かって降ってくる。


 ヴェンは手を翳してそれごと砂にしてしまおうと思ったのだが、またしても足がどんどん沈んでいくため、反射的に左腕も地面につけてしまった。


 身体の大きさに比例した重みにより、どんどんと身体が下がって行く中、冷静だったマイがこう叫んだ。


 「ヴェン!身体を元に戻して!ここから抜けられる!!」


 その言葉に、何も考えずに反応したヴェンだったが、これが間違いだった。


 巨大化した自身の手から放たれた砂の量と、ナルキが頭上へ運んだ土の量はとてもじゃないが多く、マイもしまった、という顔をする。


 そしてその土砂は、2人の上にのしかかる。


 しばらくはそこから逃れようと暴れていた2人だが、巨大化することも出来ないままに意識を手放した。


 「ふー、良かった。また巨大化したらどうしようかと思った」


 「海斗が本来水じゃなくて氷を使って戦っていたから、目を逸らせたね」


 「もしまた巨大化したらどうしてた?」


 「そうだなー・・・。ゴーレムでも作って両腕両足引き千切ってたかな?」


 「ごめん、聞いた俺が悪かった」


 マイを倒したからか、ナルキと海斗の苦しさも消えていた。


 ナルキと海斗も他と合流すると、あとは空也とジンナーの対決を静かに見守る。


 「大丈夫かな、空也」


 「信じて待つしかない。あいつらが負けたら、そん時は腹括るしかない」


 心配する海斗に淡々と答えたナルキだが、心の奥ではもちろん心配していた。


 だからといって手を出すことも出来ない。


 ジンナーのことも空也が何か考えがあってのことだろうと、魔法界にいる人たちの安否を確認しておくことにした。








 「そもそも、なんで喧嘩売られてるわけ?どっかで会ったっけ?何か俺した?」


 そう空也が問いかけると、レードンはビノスの方を見てから言う。


 「なんか嫌いなんだって、空也のこと」


 「・・・はあああ?!」


 これだけのことを起こすのだから、相当な理由があると思っていた空也は、思いもよらない、いや、ちょっとは思っていたかもしれないが、とにかく驚いた。


 一体自分が何をしたのだと、空也はわなわなと震えだす。


 「知るかあああ!!なんでんなくだらねえことで国乗っ取られそうになって必死に戦わなくちゃいけねえんだよ!!!意味分かんねえ!!!!なんかってなんだ!一番嫌なんだよ!はっきりした理由がねえなら喧嘩売るなっつーの!!!」


 「そう言っても、仕方ない。あいつが嫌いだって言うんだから」


 にこやかに答えるレードンに、空也は後頭部をかきながら舌打ちをする。


 「お前だな、闇売買に関わってるのは。なんであいつに力なんか貸すんだ」


 「面白そうだから。それに、一度会ってみたかったんだ。魔法界の頂点に君臨する男っていうのを」


 「・・・・・・」


 いつもなら、そういう言われ方をすると嬉しそうにヘラヘラ笑う空也だが、なんだか今は拗ねたように唇を尖らせている。


 何が気に入らなかったかは分からないが、とにかく、レードンは周りの音を攻撃音にして空也に攻撃をしようとする。


 「させねぇよ」


 耳から血を出しながらも、空也はレードンの周りに風を巻きつけ、まるで台風のようにする。


 「・・・なんの心算?」


 レードンは気にせず、この台風の音さえ操って攻撃しようとしたのだが、レードンの周りだけ風や急に止む。


 ならば他の音を使おうとしたのだが、いきなり熱風が襲い、音が澱み始める。


 「くっ・・・!!」


 それでも空也に向かって攻撃をするが、空也の前で攻撃が何かに衝突し、空也に当たることは無かった。


 「馬鹿にすんなよ!気流を乱すのも風の種類を変えるのも、竜巻も嵐も起こせるっつーの!!!」


 「!音と同じ圧で相殺させたか」


 「それだけじゃねえ」


 空也は掌を出してレードンに向けると、そこに風が勢いよく吸い込まれて始めた。


 風はもちろん、レードンの身体ごと吸い込みそうな勢いのため、なんとか踏みとどまろうと足に力を入れるのだが、引きずり込まれる。


 そしてそれが一気に閉じられたかと思うと、反動でその中からこれまでに吸い込まれていた風が飛びだしてきて、レードンの身体を吹き飛ばす。


 すぐに体勢を整えようとしたレードンだったが、ひゅっと風が通ったかと思うと、レードンは何かに取り囲まれていた。


 「なんだ、これは・・・!?」


 自分が声を出して始めて分かった。


 風に包まれているだけかと思ったのだが、それは音を吸収する特殊な素材のもので、レードンの周りには音が無くなってしまった。


 そこから出ようとしてみたのだが、空也たちは通常通り見えている。


 ただ、自分の周りに特殊な加工が施されている透明の音吸収の素材があるだけなのだが、何か叫んでも届いていないようだ。


 レードンをその中に閉じ込めることが出来た空也だったが、ケリをつけようとしたそのとき、レードンが入っていたその空間で爆発が起きた。


 何事かと思っていると、どうやらレードンではない人格が出てきたらしく、空也を見るや否や、飛びかかってきた。


 「(なるほどね。こいつはどんな魔法だ?)」


 襲いかかられながらも、空也は冷静に相手の魔法について観察していた。


 すると、レードンの身体は真っ黒くなっていき、ついさっきの空也に似た、吸い込むという行動を始める。


 「おいおい、ブラックホールか!?」


 ずずず、と吸い込まれていく空也。


 あの中に吸い込まれてしまったらどうなるか分からないため、とにかく吸い込まれないように、空也も自身の方に竜巻を起こして阻止しようとするが、徐々に距離が近づいて行く。


 レードンは理性を失っているのか、魔法界の木々なども吸い込んで行く。


 「・・・!!やってみるしかねえな!!」


 そう言うと、空也は空に向けて両腕をあげ、空のもっと彼方にある雲や冷気、オゾン層などを吸い込むと、それらをレードンの身体へと吸い込ませる。


 すると木々などは吸い込まれなくなり、空也が空から運んでくるそれらが次々にレードンの身体に入って行く。


 しばらくすると、レードンの身体には異変が生じる。


 痙攣し始めたかと思うと、レードンの吸引力は明らかに小さくなっていた。


 そこで、空也は風で作った風圧の爆弾を作りあげると、それを出来るだけ沢山作ってレードンの身体の中に放り込んだ。


 すると、レードンの身体は動きを止め、まるで壊れた玩具のような歪な様子を見せる。


 一瞬動きが完全に止まったかと思うと、今度はレードンの身体の中から、吸収したはずの木々や風などが吹きだしてきた。


 そしてそのままレードンは倒れてしまった。


 空也が近づいて行くと、レードンはまだ微かに息があり、空也の方を見る。


 ポケットに手を突っ込んだ空也がレードンを見下ろし、言う。


 「所詮はてめぇの身体だ。許容オーバーすりゃ、そりゃ壊れるわな」


 「・・・まだ、戦えるぞ」


 「あっそ。なら、することは決まってる」


 そう言うと、空也は片膝を地面につけてレードンの頭の上に手を置くと、そこに風を集中させて脳震盪を起こさせた。


 「はー。ったく」


 闇売買によって手に入れたのであろう違法な魔法道具は、思っていたよりも厄介なものらしい。


 より強力に、より偉大に、より禁忌に。


 「誰が作ってんだ?」








 空也が、レードンから特にこれと言った理由もなく襲われたことを知らされた頃、ジンナーはすでにクラクラしていた。


 なぜかと言えば、ビノスの感覚を動かす能力によって、ジンナーの五感はすでにビノスの手中にあったからだ。


 それでもなんとか動けていたのは、隣で空也の五月蠅い声が聞こえていたからだろうか。


 「お前には関係ないことだ。どうしてあいつらの味方をするんだ?」


 「うるせぇ。俺だって味方してる心算はねえんだよ。成り行きだ」


 「なら俺達と手を組もうじゃないか。そしたら君はもっと強くなれる。今よりも強くなり、より多くの力を手に入れ、あの男に復讐も果たせるんだぞ」


 「あーあー、どいつもこいつも」


 ビノスの提案を聞いていたジンナーだが、髪の毛をがしがしとかき乱す。


 舌打ちをしてビノスを睨みつけると、親指を下に向けて吐き出す。


 「俺は俺のやりてぇようにやるんだよ。てめぇの指図もあいつの指図も受けねえの」


 「残念だよ。君となら仲良く出来ると思っていたのに」


 「ふざけんな。お前と気が合うわけがねえ」


 ニッと笑うと、ビノスは手をすっと動かしてジンナーの皮膚に痛みを感じるようにする。


 しかし、ジンナーは少しぴりっとした痛みを感じたくらいで、平気そうにしている。


 どうしてかと思い、ビノスは次にジンナーの視覚を奪おうと手を翳してみると、ジンナーはふらっと揺らいだ。


 「俺が相手じゃなかったら、君ももう少し長く生きられたかもしれないのに。それでも君は俺の仲間にはならないっていうんだね」


 「うるせえって。しつこい奴は嫌われるぞ」


 視界が奪われたはずのジンナーだが、ビノスの方に一直線に近づいて行くと、腕を伸ばした。


 すると、手の形をした土がビノスに襲いかかってきて首を持ちあげ、自然とビノスの身体も宙に舞う。


 ビノスは慌ててジンナーの聴覚も奪おうとするのだが、それよりも少しだけ早くジンナーが腕を振り下ろしたため、ビノスは地面に振り下ろされてしまい一瞬飛んでしまった。


 すぐさま起き上がったビノスの前には、ポキポキと指を鳴らしているジンナーが。


 ビノスは自分の手を口元に近づけると、ゆっくりと息をふきかける。


 すると、ジンナーの身体は徐々に体温が上がって行き、さらには心臓を圧迫されたことで立っているのもままならなくなってきた。


 しかし、それでもジンナーは倒れない。


 「なんでそこまでして戦うんだ?関係ないなら君はここから逃げることも出来るはずだ。ましてや相手は俺。負けても恥ずかしくはない」


 「なにが恥ずかしくない、だ?」


 「だから、相手が俺という強大な・・・」


 「張り倒すぞてめぇ。俺に舐めた口きいてんじゃねえぞ」


 「・・・!?」


 一歩一歩、ゆっくりではあるが確実に近づいてくるジンナーに危機感を覚えたビノスは、このまま体温を今以上に上昇させてそのまま殺してしまおうと考えた。


 その時、かくん、とジンナーが地面に膝をつけた。


 ジンナーは苦しそうに左手で心臓の部分を掴みながら、右手で地面に触れる。


 そしてさらに苦しむようにして、ジンナーは身体を丸めて額が地面につきそうなほど縮こまっていた。


 「もう一度だけ聞くぞ。俺の仲間に」


 そこまで言ったところで、ジンナーは顔をあげずに答える。


 「だから、うるせぇって!!」


 ビノスが手を翳して体温を上げようとしたとき、ビノスの身体はぐらついた。


 なぜなら、ビノスの足元だけとてつもない地響きが起こり、それは地面を抉り、ビノスは自分の身体を安定させるために踏みとどまろうとしていたからだ。


 何事だと思っていると、ジンナーがすぐそこに来ており、ビノスは思い切り殴られてしまった。


 そのお陰で熱も心臓の苦しみも無くなったジンナーのもとに、空也がやってくる。


 「おうおうお疲れさん。よく頑張ったな!」


 「触るな」


 「つれねぇなぁ」


 そんな会話をしていると、ふと、何かが勢いよく2人のもとに飛んできて、そのまま過ぎ去って行く。


 良く見てみると、それは気絶したと思われていたレードンだった。


 「おい!!なんでちゃんと仕留めておかなかったんだよ!!詰めが甘ぇんだよ!!」


 「ごめんーーー!!!」


 そう叫びながら、ビノスを救出して何処かへ行こうとしているレードンの後を追いかける空也とジンナー。


 ちなみに、移動は当然空也だ。


 空也をアッシー君にしてジンナーは手を地面の方に向けていると、ゴゴゴ、と大きな音が鳴り響く。


 すると、レードンとビノスの周りに、大きな掌のような形をした土が起き上がってきて、2人は囲まれてしまう。


 ジンナーが両手を合わせるように動かせば、その土も同じようにして、レードンとビノスを包みこんでいく。


 そしてまたゴゴゴ、と大きな音を立てながら、静かに地面へと戻って行った。


 空也とジンナーが着地すると、ジンナーは空也の背中を強く蹴った。


 「いって!!何すんだよ!!」


 「お前ほとんど役に立ってなかったな」


 「はあ!?俺あってのお前だろ!?」


 「逆だな」


 「あんだと!?」


 ぎゃーぎゃーと喚きながら2人並んで歩いていると、幾つかの影がこちらに向かってくるのが見える。


 「ジンナー様・・・」


 流風とデュラが、ジンナーの姿を見るなり目を潤ませた。


 そんな2人に、ジンナーはこう言った。


 「待たせたな」


 空也には絶対に見せないだろう優しい笑みを浮かべると、流風とデュラの頭を同時に撫でる。


 あまりの歓喜に流風はジンナーに抱きつき、デュラはジンナーの肩に頭を乗せる。


 それを見て、「ちくしょう、うらやましい」と空也が思っていたかどうかはまた別の話になるのだが、少なくとも、ナルキはそう感じたらしい。


 「空也、耳大丈夫なのか?」


 「ん?ああ、これか。まあな。それより、他の奴らは?」


 「手分けして安否確認してるところ。多分大丈夫だと思う」


 「そっか」


 ソルティたちも合流すると、空也はジンナーに近づいて話しかける。


 「じゃ、お前等も親父が帰ってくるまではとりあえず城で待機な」


 「あ?なんで」


 「なんでって、一応俺今代理だからな。それに、お前らの今後についてもちゃんと話しておかねえといかねぇし、それと・・・」


 少し真面目な顔をして、空也が耳打ちする。


 「どうも雲行きが怪しくなってきたからよ。猫の手も借りてぇんだよ」


 「猫の手扱いは不服だが、確かにな」


 あっさりと話の通ったジンナーに対し、空也はいつものようににんまりと笑う。


 いつまでもジンナーから離れようとしない流風に、自分に抱きついてもいいよ、と言っていた空也だが、無視されてしまった。


 肩を落としながらとぼとぼ城の方に歩いて行く空也の背中を見て、ジンナーは流風にそろそろ離れるように伝える。


 渋々離れた流風とデュラを連れて、空也たちの後を付いて城へと入って行く。








 後日、国王が戻ってきたとき、土地の荒れ果てた姿を見て空也に説明を求めたらしい。


 そして何があったのかと把握すると、ジンナーたちがここに留まっていることにも納得し、今後についての話し合いが行われることになった。


 「海斗、風呂掃除に行こう」


 「あ、当番俺たちだっけ?わかった」


 「ソルティ先輩!一緒にご飯行きませんか!」


 「もちろん、喜んで」


 「ぐはっ!!!」


 「シェリア、鼻血」


 それは、いつもの光景のはずだ。


 魔法界を揺るがすような大きな事件でも起こらない限り、それが一生続くものだと思っている。


 ましてや、そんなことが起こるはずなどないと思っている。


 平凡だからこそいいのだと、彼は言う。


 「じゃ、これからは仲良くやろうぜ、ジンナー」


 「お前と仲良くする気はない。俺は俺のやるべきことをするだけだ」


 「忘れるなよ?俺が魔法戻してやったんだからな」


 「勝手に戻したんだろ」


 「腹減ったな」


 「この野郎」








 そして今日も、風は吹くー。



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