第二術【約束の場所】
Wizardry2
第二術【約束の場所】
第二術【約束の場所】
「出来たーーー!!!お前すっげえな!いやあ、お前はやれば出来る子だと思ってたよ!最初から分かってたよ!!」
やっと出来た薬をカプセルに入れ終わると、空也はジンナーの手からそれを奪い取り、歓喜の舞いを始めた。
そしてジンナーの肩をバシバシ強く叩きながら褒めていると、徐々に曇り渋くなってくるジンナーの顔に気付きもしない空也。
「いてててて!!」
「気安く触るな」
慣れ慣れしくジンナーの肩を掴んだとき、掴んだ腕を思い切り抓られてしまった。
やっとのことでジンナーから離れると、空也の魔法でカプセルをナルキたちのもとへと届けることにした。
したのだが、さすがにカプセルを運ぶのは誰かにみられてしまう確率が高いと判断した。
「だよな、やっぱ危ねぇか。この薬、どれくらいで効く?」
「超速効」
「わお。俺だったらお前の作った薬は飲みたくねえわ」
空也とジンナーは話し合うこともなく、どうせ奪い返しに行くのだからと、自分たちが囮になることを決めた。
ジンナーは空也の操る大きな葉に一緒に乗り込むと、近くになったら起こせと言って寝てしまった。
その間に、空也はジンナーのポケットからアーモンドを取り出してつまみ食いしようとしたのだが、まだ寝ていなかったジンナーにバレてしまい、正座させられていた。
「着くぞ、起きろ」
「嘘つけ、まだだろ」
「・・・なんで分かんだよ!くっそ!俺だって寝たいのに!つか俺の方が寝不足だからな!お前ぐっすり寝てたけどな!!赦さん!」
「わかったからちゃんと前見ろ」
「人間界に行って丸くなっちまったんだな。そうやってお前という個性が消えてしまうんだ。怖いな、人間界って・・・」
「安心しろ。お前は人間界にいっても絶対に染まらねえから。つか俺も染まってはいねぇよ。お前より大人になっただけだ。いい歳してはっちゃけるなんざ、恥ずかしくて俺は出来ねえよ」
「今俺を小馬鹿にした?」
「小馬鹿じゃねえ。大馬鹿にした」
「赦せん!!!なんていうやつだ!俺が折角お前を運んでやっているというのに!昨日まで魔法が使えずにヘトヘトだったというのに!!土下座させてから乗せれば良かった!」
「んなこと言うなら、つい先日まで魔法も何も使って来なかった俺に対して、いきなり魔法戻して戦えっつー方が酷だと思うけどな。前線を離脱した奴を、都合良く戦力にしようなんて考えが「ごめんなさい!!」はい、よろしい」
なんとか敷地のすぐ近くまで来たのだが、どうやら空気の層で出来た結界が作られており、そうそう簡単には入れないようだ。
だからといって、この2人ははい、そうですね、と引きさがることなど考えていない。
「行くぜ、ジンナー」
「俺に指図するな」
「ほうら・・・よっ!!!」
空也は風を大鎌のようにして、ジンナーは土で巨大なドリルのようなものを作って、結界をぶち破った。
「大した結界じゃなかったな」
「じゃ早速、こいつを飛ばすか」
空也が魔法で何かを飛ばしたすぐ後、ジンナーが反応して空也の後ろで土の壁を作っていた。
「勘弁してくれよ、空也。まさかお前が正面から堂々と俺に喧嘩売ってくるような阿呆だったとは思わなかったよ」
灰色の髪のビノスと、ネイビーと金色の髪のレードンが2人の前に現れる。
レードンの前にジンナーが立とうとしたのだが、空也が手で制止してこう言った。
「俺あいつに借りがあんだわ」
「借り?」
「おお。この前俺の耳を痛めつけやがった」
「相性なら俺の方が良さそうだけど、いいのか?手助けしねぇぞ」
「当然。俺は強いのよ、ジンナー君」
空也が借りを返さなくてはいけないということで、ジンナーがビノスの相手をすることになった。
ビノスと向かい合った瞬間、ジンナーは自分の平衡感覚がおかしくなっていくことに気付く。
「俺の前では、誰1人として、戦う事もままならない」
「・・・どうだかな」
その頃、別の場所でも事態が大きく変わろうとしていた。
「お、来たみたいだよ、空也の奴!馬鹿だねー、俺達に勝てるはずないのに」
「そんなこと申し上げるのは可哀そうですわ。私、魔力を吸ってきて差し上げた方がよろしいでしょうか」
「俺達も加勢に行こう」
そう言って動き出した矢先、足止めをされることとなる。
「あら?どういうことかしら?」
牢屋に閉じ込めておいたはずの奴らが、今自分たちの目の前に立っており、加勢に行こうとしているのを妨害しようとしている。
「レードンの綿毛はまだあったはず。動けるわけない」
ふう、と間に合ったことに安堵しているのか、ナルキが腕を動かしながら答える。
「綿毛なら、ソルティと流風ちゃんが全部不能にしてくれたからね」
「不能・・・?」
空也とジンナーが結界の中に入ってすぐ、空也はカプセルを包んだ葉を飛ばした。
それがナルキたちのもとに届くと、みな一斉にカプセルを飲み込み、魔法が回復するのを待った。
思ったよりも随分と早く戻った魔法で、ソルティは綿毛を燃やしてしまい、流風は綿毛を綿毛にならない特殊なたんぽぽに変えたようだ。
魔法が戻れば牢屋から出るなど容易い事で、あっという間にここまで来られた。
外に出た途端敵と出くわしてしまったナルキたちだが、流風はその向こうにジンナーの姿を捉え、そちらに駆け寄ろうとした。
しかし、何か強い衝撃があって流風が弾き飛ばされてしまうと、その流風の身体をソルティが受け止める。
流風は御礼を言う前にまたジンナーの方へ行こうとするが、ソルティに止められてしまう。
「落ち着いて。今はこいつらを倒すことだけを考えるんだ」
「・・・・・・」
今すぐ近くに行きたい衝動に駆られながらも、流風は大人しくなる。
すると、そこに男が近づいてきて、言う。
「ダメだよ、あっちはあっちで楽しんでるんだから、こっちはこっちで楽しくやろうよ。ね?最低の魔法使いさん達」
流風に攻撃をしたと思われる男は、黄土色の髪をしており、手だけではなく腰にぶら下げた袋の中にも大量の食糧が入っていた。
「俺はルイ。もっと盛り上がろうよ!!」
流風がルイに対峙しようとしたのだが、流風を受け止めていたソルティがその前に立ちはだかる。
「いきなり女の子に攻撃するなんて、君はもっと男になるべきだ」
「あ?なにあんた?良い男きどり?」
「ソルティ先輩は良い男なのよ!!」
「シェリア、ちょっと黙ろうか」
ソルティを馬鹿にされて怒ったシェリアだったが、海斗に止められてしまった。
「あなたの相手は私がするわ。セクシー対決と行きましょうか」
「・・・・・・!」
流風の後ろにいたのは、黒くて長い艶やかな髪の毛をさらっとたなびかせ、鼻につくような女を魅せる声を出した女、タール。
デュラの前に立っているのは、茶髪で少し長めの髪をしている八重歯が特徴的な男、ノーゴだ。
そしてシェリアも戦う体勢に入ろうとしたそのとき、ナルキがいきなりシェリアの声を叫び、何事かと思っているとナルキがシェリアの腕を引っ張ったのだ。
するとナルキの足元には何かの魔法陣が現れ、ナルキの身体は一旦かくん、と動かなくなってしまった。
あのまま歩いていたら確実にシェリアがかかっていたであろうトラップだ。
ナルキは大丈夫だろうかと声をかけてみるとナルキの身体は動き出したのだが、どうも様子がおかしい。
「ナルキ・・・?」
「殺してあげる。仲間の手で」
口調も雰囲気も違うナルキに、あの魔法陣でナルキの身体に何か異変が起こったことは明らかだ。
シェリアがナルキに近づこうとしたのだが、ミュンという女が止めに入る。
「無理ですわ。マイに乗っ取られてしまったのですから。ですけどご安心なさって。あなたは私が殺してさしあげますの」
ブロンドの長髪で、所謂萌え袖というやつをしているこの女に対して、シェリアは言いようのない苛立ちを覚える。
何にいらついているのかと言えば、きっと顔も喋り方も性格も服装も・・・まあ、生理的に合わない、ということかもしれない。
「ナルキ!しっかりしろって!!」
消去法でいけば、残っているのは海斗ともう1人、先程からずっと寝ている黒髪の男なのだが、全く起きない。
名前はヴェン、というらしいが、動かないため海斗はナルキの方を優先しようとするが、ナルキの身体は完全に乗っ取られてしまっているようだ。
ふと、海斗は辺りを見渡してから、何か思い付いたようにして城の中へと入って行った。
流風の相手であるタールは、動物に姿を変えることが出来るようで、哺乳類から鳥類、爬虫類などなどと、とにかくなんでもなれるようだ。
流風が攻撃して出来た植物も利用して、その中に蜂や蝶、他にもバッタやとんぼなどに化けているため、どれが変化したタールが分からない。
いきなり背後から現れてくることも、空から襲いかかってくることも、はたまた熊などにもなって攻撃してくるため、流風は蔓などを最大限に利用してなんとかギリギリ攻撃を避けていた。
「逃げてるだけじゃ勝てないわよ?」
「黙って」
「可愛くないわね。あなた、思ったより強くないのかしら?ふふ、違うわね。私達が強いだけ」
流風はいたる所に張った植物に集中し、タールの居場所を読みとろうとする。
ふと、流風の左斜め後ろから一直線に向かってくる気配があり、流風はそちらにある食虫植物を稼働させる。
それが食虫植物に食べられたのを確認した流風はホッと一安心したのだが、それも束の間、食べられたはずのそれは今度は流風よりも少し大きな蜘蛛の姿になっており、流風に糸を巻き付けて来た。
それは徐々に流風の身体を動かなくさえ、ついには顔も覆ってしまい、呼吸が出来なくなってしまった。
蜘蛛の顔がタールに戻ると、タールは動かなくなってしまった流風を見て微笑む。
「残念ね。私たちと出会わなければ、もう少し長く生きられたかもしれないのに。本当に可哀そうな子・・・・・・」
そう言いながら人間の姿に戻ったタールは、流風の顔を確認しようと糸に近づき、顔の部分の糸をちょいちょいとずらしていく。
「可愛く死んだ顔を見せて頂戴」
「まだ見せられないわ」
「なっ・・・!?」
流風の声が聞こえて来たのは、タールの後ろだった。
流風は植物を何重にも重ね合わせた幹に、さらに根っこを使って硬めたものを、手を動かしてタールの方に向ける。
タールは側頭部に強い衝撃を与えられ、フラフラしているとさらにもう一発加えられそうだったため、ふ、と消えた。
別の場所に現れたタールは、頭を抱えながら流風を睨みつけると、流風の両脇には植物で作った大きなドリルのようなものがあった。
「私の顔に傷をつけたわね!!」
「はあっ・・・私だって、ジンナー様のために強くなりたいの。こんなところで、あなたなんかに負けられない」
「子供騙しね・・・!そんな魔法ごときで私に勝てるなんて思わないでよね!!!」
「動物になれるくらいで威張らないで」
そう言うと、タールはニヤリと笑った。
「あら、私、それだけって言ったかしら?」
「!?」
急に身体がひんやりしたかと思うと、植物にどんどん霜が降りて行き、雪まで降ってきて、しまいにはしぼんでしまった。
流風の身体も体温が奪われて行き、まるで極寒にいる気分だ。
ひゅうう、と冷たい音が鳴ったかと思うと、タールが流風に近づいてくる。
「私、本業はこっちなの。動物になれるのは、もらった薬のお陰でね」
「・・・っ」
肩で激しく上下に呼吸をする流風を見て、タールは至極嬉しそうにする。
「美しく散りなさい。私が壊してあげるから」
少し前、ソルティはルイと戦っていた。
「俺とお前じゃ、相性悪いと思うよ!」
「確かにね。酸素ならいけるかと思ったけど、二酸化炭素もとなると、辛いな」
「正直だねえ!なら、降参して俺に殺されておく?」
「それはごめんだね」
ルイは酸素で空気圧を作り、それを衝撃波として攻撃をしてきた。
それだけであれば、炎を操るソルティにとって、これ以上にない炎を作りあげることが出来る相手だったのだが、二酸化炭素も操れることが分かった。
これにより、ありとあらゆる場所からソルティに攻撃を仕掛けてくるだけでなく、ソルティが炎で攻撃しようとすると、今度は酸素から二酸化炭素に変えて炎を消してしまう。
それともう1つ、ソルティには気になることがあった。
魔力としてはそれほど高くないはずなのに、魔力がなかなか減らないのだ。
「・・・まさかね」
「余計なこと考えてる暇があるのかな?!それとも、ようやく俺に殺される覚悟でも出来たのかな!?」
ルイの動きを逐一観察して、ソルティは確信した。
「君、もしかして食べ物を魔力に変えられるのかな?」
「・・・ば、ばばばば馬鹿なことととと、いいいい、言うんじゃじゃ、なななない、ない、ないよ・・・・!!!」
「図星だね」
なんともわかりやすいルイの反応に、ソルティはあの身につけている食べ物をなんとかすれば、と思ったソルティだったが、今のままではそれは無理だ。
なにしろ、炎が使えないのだから。
「どうするか・・・」
ふと、近くで戦っている流風を見つける。
「あ」
流風を見て何か思い付いたのか、ソルティはルイの攻撃を避けながら流風の方に距離を縮めていく。
「おい待てよ!逃げるな!!」
ルイが追いかけてくるが、ソルティは自分の周りに炎を作ってそれを足蹴にしてひょいひょいっと移動していく。
「美しく散りなさい。私が壊してあげるから」
ぼおっ、といきなり身体を炎が包み、タールが悲鳴を上げながら流風から離れる。
ルイがタールの身体の周りの酸素を消すと、少しして炎はすぐに鎮火されたものの、タールは焦げてしまった髪の毛を見て絶句している。
一方、身体が冷え切る前だった流風の身体をソルティが程良く溶かしたことで、冷えも治まり、動くことが出来るようになった。
御礼は言わないと流風が言うと、ソルティはお願いがあるんだ、と言ってきた。
「どういうこと?」
「あいつのせいで俺炎が出せないんだよね。でも、君の植物はその二酸化炭素を吸ってくれる。あいつの食料を奪って二酸化炭素にする力も弱まれば俺は助かる。それに、俺があの女性の雪を溶かせれば、君だって少しは助かるだろ?」
「・・・・・・」
「適材適所。ここはどうだろう。共闘ってことで、ね?」
流風としては、自分の力でこの女に勝ちたいという気持ちもあるのだが、確かにソルティの言う事も一理ある。
それに、早く終わればそれだけ早くジンナーに会えるのだ。
「わかった。でも命令はしないで」
「もちろん。信じてるからね」
「ふん」
少し前、デュラとノーゴはそれなりに激しい戦いを繰り広げていた。
ノーゴは自分の身体だけでなく、触れたものまで透明にしてしまうため、どこから攻撃をしてくるのか分からない状態だった。
しかし、デュラは雷の性質を利用してノーゴの動きを察知していた。
「なかなかやるな!!俺のこと見えてないくせに、よくやってると思うよ!」
「いちいちうるせぇ」
「怒らない怒らない。自分が不利だからって怒ってたらよくないよ?もっと笑って!」
「!!」
すぐ近くに反応がありデュラが腕を上下に動かすと、そこにはノーゴによって透明になっていた岩石があった。
デュラによって真っ二つになっているが、大きさから言うととてつもない、といったところだろうか。
「(多分あいつはもともと岩石を動かすタイプ。でも透明ってのは、違法なもんでも手に入れたか?)」
魔法には人それぞれタイプがあり、ベースとなるものは自然で出来たものだ。
それによって、透明になるというのはもともとのノーゴの力ではなく、あの綿毛のように闇売買か何かで手に入れた違法なものによって起こり得る現象だろう。
そこまで考えたのは良かったのだが、だからどうすればいい、という答えは出なかった。
デュラの雷だからこそ、透明といえども僅かな電気の動きからノーゴを見つけることが出来るが、こちらからの攻撃となると難しいものがあった。
「もっと効率的に出来る方法・・・」
その時、どこからともなく人が飛んできた。
「きゃあああああああああああ!!!」
そのまま地面に落ちてしまった人を助けることもなくじーっと見ていたデュラだが、地面から這い上がってきたその人はとても起こっていた。
「ちょっと!!なんで助けないのよ!おかしいんじゃない!?」
「・・・なんで助けなくちゃいけないんだ。そもそも、助けてもらおうなんて考えが甘いんじゃないのか」
「ぐっ・・・!!そういうところ、なんか空也に似ててムカつくわ!!」
「あらいやですわ。そういう野蛮な方は、殿方におもてになりませんわよ?」
「殿方!?はあ!?いいんですー!私はソルティ先輩一筋だからーー!!!あんたみたいに尻軽じゃないからーーー!!」
「ノーゴさん、私とても悲しいですわ」
落ちて来たシェリアは、デュラの方に近づくと背中に隠れる。
「・・・そこにいない方がいいぞ」
「え!?なんで!?」
ぐわっ、とデュラが身体を反回転させたかと思うと、シェリアはその勢いで少し離れてしまった。
「ちょっと!」
文句を言おうとデュラの方を見ると、そこには巨大な岩石があり、その岩石にミュンは乗ると、さらに岩石は地面へと沈む。
シェリアは手をかざしたのだが、それよりも先にデュラが放電させて岩石を割る。
その放電がミュンの身体にまで到達してしまい、ノーゴが慌ててミュンをお姫様抱っこして助けた。
「ほらな」
自分から離れて良かっただろ、という意味合いでシェリアに言ったのだが、シェリアはノーゴがお姫様抱っこしているのを指さして言う。
「あれよ、私が求めていたのは」
「お前、魔力減ってないか?もとからそんなだったか?」
「奪われたのよ!あの女に!あいつ、人の魔力吸い取るんだけど!しかも重力なんか使って来て!!!」
シェリアの良く分からない説明を通訳すると、ミュンは身体に触れるとその人物の魔力を吸い取り、自分のものに出来るようだ。
先程の岩石が地面に食い込んだのも、きっとミュンの重力の力によるものだろう。
デュラとシェリアがそんな話をしている時、ノーゴとミュンはこんな話しをしていた。
「ノーゴさん、さすがですわ。相手は雷だというのに、ここまで追い込むなんて。ノーゴさんじゃなかったら、きっともうやられていますわ」
「だろ!?もっと褒めてくれ!それが俺の糧となる!!」
「すごいですわ、ノーゴさん。私、惚れてしまいそうですわ」
「まじ!?俺頑張っちゃうぜ!!」
ぴく、とデュラが何かに反応すると、シェリアもそれが分かって警戒する。
透明になって襲いかかってくる岩石に、シェリアは避けるのが精一杯、デュラも攻撃を防ぐことしか出来なかった。
ノーゴによってミュンも透明になってしまい、2人の足元だけ地面に沈むほどの重力を受ける。
さらに動き難くなってしまった現状にいらついたのか、デュラがシェリアの方を見ずにこう言った。
「おい、お前いい加減試験には合格したんだろうな」
試験とは魔法試験のことで、シェリアはコントロールが上手くいかずに何度も不合格だった。
デュラは以前スパイとして空也たちと共に生活をしていたため、シェリアが何度も試験に落ちたことも知っていた。
その質問に対し、シェリアは拗ねたように答える。
「とっくに合格したわよ!私のは扱うの難しいんだからね!」
「センスが無ぇってことだな」
「あのねえ!!」
「いいか、良く聞け。今からお前の身体に俺の雷を纏わせる」
「え?死ぬの?私?」
「馬鹿」
デュラの話を聞いたシェリアは、がんばる、としか言えなかった。
「ノーゴさん、私達の力で、あの方達を苦しまずに殺してさしあげましょう」
「そうだな。それが優しさだな」
「どっかにあると思うんだよな・・・」
その頃、海斗は1人でナルキの身体に入りこんでいるマイの身体を探していた。
他人の身体を乗っ取っているとすれば、本人の身体はどこかに置いてあるはずだ。
女性なら部屋の汚れないところに置いてあるだろうと推測した海斗は、ナルキを戻すためにはまずマイの身体を探し、そのマイを倒せばナルキが戻るのではないかと考えていた。
そしてその考えは的中する。
「あった!!」
ようやく見つけたその身体を抱え、海斗は再び外へと出て行く。
それぞれが戦い始めてしまったため、マイはナルキ自身の攻撃でナルキを殺そうとしていたのだが、そこへ海斗が戻ってきた。
「ちょっと待った―!!この身体と交換しろ!!じゃねえと、お前も死ぬことになるからな!!」
「・・・見つかった」
マイの身体は、すでに海斗によって拘束されてしまっており、マイは自分の身体が危険に晒されていることを知ると、動きを止める。
海斗は少しずつナルキの身体を乗っ取っているマイに近づいて行く。
その時、マイがちら、と横をみる。
そこには、未だ寝ているヴェンがいた。
「そろそろ起きてよ。十分貯まったでしょ?」
「ん・・・・・・」
「え・・・?」
少し身体を動かしたかと思うと、ヴェンは目を覚まし、さらには身体がどんどん大きくなっていった。
「どういうことおおおおおお!?」
海斗は叫びながらも、マイが自分の身体を取り返そうと襲いかかってきたことを知り、マイの身体を氷で冷やしてしまった。
そして巨大になっていくヴェンの身体の下に放り投げると、マイはたまらずナルキの身体を棄てて自分の身体へと戻る。
「ナルキ!ナルキ!!」
「・・・大丈夫だよ。ありがとう、海斗」
乗っ取られている間も意識はあったらしく、状況は把握しているらしい。
巨大になっていくヴェンの下から脱出したマイは、ヴェンの肩に乗っかる。
「ヴェンは眠った分だけ魔力を蓄積出来るの。だから、寝れば寝るだけ大きくなれる」
「「でけー」」
ナルキと海斗は、あまりの大きさに声を揃えて見上げていた。
大きくなったヴェンは、掌を2人に向けて来た為ナルキが土で、海斗が氷でガードをしてみるものの、徐々に砂と化していく。
さらには、その砂が生き物のように2人に絡みついてくる。
直接触れなければその部分は砂にはならないようで、海斗は首に巻きついてきた砂を氷で包み込んで振り払う。
「どうする?思ったよりでけーけど」
「だな。こほっ・・・」
「ナルキ?どうした?」
「なんか・・・っ、身体がおかしい」
それがどうしてかは、マイが答える。
「あなたの身体に細菌を入れておいた。徐々に身体を蝕んで行くから。時間をかけて苦しみながら死ねる」
「ふぁあああああ。ねむい。寝たい」
「だめ。あの2人を殺したら、また寝られる」
「わかった」
そう言うと、ヴェンは大きな身体を素早く動かして2人の身体を地面に埋め込む。
ぐりぐりして潰すようにすると、もう終わったから寝ると言って小さくなろうとしたのだが、マイがストップをかけた。
地面に喰い込まれた身体はナルキによって作られた土くれで、ナルキと海斗は両サイドから同時に攻撃する。
海斗が氷で足元を固めると、ナルキは足元を滑らせて転倒させる。
倒れたところで止めをさそうとしたのだが、ヴェンは瞬時に身体をもとの大きさに戻し、難を逃れる。
「なーんかあの2人、殺気バリバリじゃね?マイ、1人乗っ取っとけよ」
「乗っ取ったんだけど、失敗したの。また魔法陣にかかるといいんだけどな」
マイが地面のあらゆるところを見ると、ヴェンはまた身体を大きくする。
「でかけりゃいいってもんじゃねえだろ」
「やるしかないよ」
「そりゃそうだけど」
とほほ、と聞こえてきそうな海斗の背中に、ナルキは慰めるようにトントン、と叩くしかなかった。
「だーーーー!!くそっ!!!」
先程から、空也はレードンの音による攻撃で耳が限界に来ていた。
両耳を手で押さえているものの、風の音も声も他の音も全てを攻撃として空也に向けてくるため、とにかく耳が痛い。
「・・・っ!!」
つー、と空也の耳からはまた血が出てきてしまった。
鼓膜が破れてしまいそうだが、幸いにもまだ破れてはいない。
風で自分をガードしようとしても、その音さえレードンによって攻撃にされてしまうと、直に耳にくらってしまう。
「ったく。こちとら指輪外して本気出したらそれこそ問題になっちまうってのに!!」
ジンナーの方は大丈夫かと、空也は余裕のない中でもそちらに視線を送ってみると、ジンナーはすでにまともに立てない状態だった。
ビノスは五感を操ってくるため、もっとも攻撃されやすいのが目と耳なのだ。
特にビノスは耳、つまりは三半規管の耳石などを操って平衡感覚を失わせているらしく、くらくらとずっと酔っている感じだ。
目の神経もおかしくされると、それこそ身動き1つ取れない。
皮膚の感覚では圧力を利用して心臓や脳にも影響を及ぼし、普通の人間であればすぐに死んでしまうだろう。
立っているよりもしゃがんでいる方が楽なためその姿勢を取るのだが、地面に手をつけて土の壁を作ろうとしても、手がピリピリして動かせない。
ジンナーは目を閉じて深呼吸をしようとしたとき、空也が大声を出しながらジンナーの方に向かって走ってきた。
そして、ジンナーを思い切り蹴飛ばした。
「馬鹿野郎――――――!!!!そんな野郎にやられるために戻ってきたのかてめぇ!俺の顔に泥塗る気かクソアーモンド野郎!!」
空也の足が空中を舞ってジンナーの後頭部に綺麗にヒットしたため、しゃがんでいたジンナーの顔面は地面に激突した。
ほんの数秒動かなかったジンナーだが、ゆっくり起き上がったかと思うと、土をつけた手で今度はジンナーが空也の額を掴みあげ、そのままの勢いで後ろから地面にめり込ませる。
手の土を払う為にパンパン、と二度ほど叩いたところで、空也もゆっくりと起き上がる。
「ジンナー!!てめぇなにしやがる!!」
「あ?顔に泥塗って欲しかったんだろ?」
「てめぇを奮起させるために言った冗談に決まってんだろ!?手も足も出ない状態で、俺が助けてやったんだろ!?」
「何言ってんだ?俺はやられてねぇし、手も足も出なかったわけじゃない。模索していただけだ。考える人だっただけだ」
「何それ!?お前そういうとこ本当に直した方がいいぞ。まじで。頑固くんだよな。俺みたいに素直になってみ?ごめんなさいとかありがとうとか言ってみ?俺は心広いから。全て赦してやるから」
「恩着せがましい野郎だな。俺がいつてめぇに助けられたんだ?言っておくけど俺は助けられた覚えねぇからな」
「おお・・・おお・・・すげぇな。まさかそんな勢いで否定されるなんて思ってなかったよ。まじでびっくり」
「そもそも、見返りを求めるなんて器ってーかケツの穴が小せぇ野郎だよな。まあ、前前から分かってたけどな」
「俺のケツの穴なんか見た事ねぇだろ!何?見たいの?見せねぇけどな!!」
「重要なのそこじゃねぇから。てめぇのケツなんて微塵も興味ねえんだよ。つかてめぇ自体に興味ねぇから」
「はあ?よく言うな!俺のことすっげー目の敵にしてたくせによ!そりゃあ俺はイケメンだし女の子にもてるし強いし才能あるしセンスもあるしスタイルもいいし頭もいいけどよ~。羨ましがるのも分かるけどよ~」
「・・・お前、そんなに自分が誰よりも強くて才能あってセンスもあって頭も良いと思ってんなら」
「え?他にも言ったよね?」
ジンナーは空也に背中を向けると、足で地面を強く数回蹴る。
ビノスによる苛立ちなのか、それともこの先の戦いにおける戦意なのか、アーモンドを一気に10粒以上掴んで口に放り込む。
そして、それを飲み込んでから続ける。
「あんな奴にやられてんじゃねえよ」
ジンナーの言葉に、空也は血が垂れている耳に触れながら小さく笑い、ジンナーに背を向ける。
「言ってくれるねぇ。やっぱ、お前に言われるとムカつくわ」
「お前なんぞに借りを作る心算はねえぞ」
「俺だってねぇよ」
2人は互いの顔を一切見ることなく、しかし互いに笑うのだ。
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