Wizardry2

maria159357

第一術【REPLAY】





Wizardry2

第一術【REPLAY】




       登場人物




            ジンナー


            空也


            デュラ


            流風


            ナルキ


            シェリア


            海斗


            ソルティ


            レードン


            ビノス






























 第一術【REPLAY】




























 これは、魔法の国のお話。


 誰も知らないような世界の隅に存在する、不確かで不明確で不思議な御伽噺。


 時空の狭間を行き来することが不可能だと言うのなら、それは諦めるしか無いのかもしれないが、所詮、狭間は狭間でしか無い。


 つまり、狭間にハマってしまえば、そこから抜け出すことは出来ない。


 生きるということは、時間の流れに従うということで、死ぬということは、時間の流れを受け入れることを止める、ということだ。


 何にせよ、この世界、この空間、この時代、この空気は、人によっては現実であり、人によっては幻想である。


 人によっては真実であり、人によっては偽りである。


 人によっては口実であり、人によっては理由である。






 この世界も同じだ。


 人によっては喜劇であり、人によっては悲劇である。


 人によっては遊具であり、人によっては逃避である。


 人によっては退屈であり、人によっては興奮である。






 遠い遠い、風でさえも、光でさえも、何千年とかかるであろうその時代に、その世界は存在している。


 そこに住んでいる人達はみな、神秘の力を持っていた。


 それは、いつしか広まる“魔法”という言葉と同等のものであり、まさしく、そのものかもしれない。


 魔術でもあり、呪術でもあり、仙術でもあり、妖術でもあるその力は、偉大だ。


 魔法という力を手に入れた者達が、生きる場所こそが、何よりも気高き孤高の舞台『魔法界』であり、今尚、実在する。








 その日は、よく晴れていた。


 異変を察知したときにはすでに手遅れで、魔法界で生活している者たちのほとんどが拘束され、捕まっていた。


 「なんで魔法が使えないんだよ!?」


 「海斗落ち着け」


 「そんなこと言ってもねぇ。手も足も出ないって感じだね」


 「ソルティは落ち着きすぎかな」


 魔法が使えない状態ではどうすることも出来ず、ナルキたちも拘束されていた。


 魔法が使えないのは空也も同じはずなのだが、空也だけはなんとか耐えていた。


 どうして空也だけは大丈夫なのかと聞かれても、実際本人は決して大丈夫な状態ではなく、魔法を使わずして城にあった適当な武器でやりあっていただけだ。


 「くそったれ!」


 「大人しくしててくれれば何もしない。そのままお仲間と一緒に掴まってくれよ」


 灰色の短髪に両耳ピアスの男にそんなことを言われ、空也は少しだけムッとしてしまい、その男に飛びかかったのだが、身体の平衡が保てずによろめいてしまった。


 するとそこにもう1人の男、右側がネイビーの少し長めの髪、左側が金で短めの髪の男が空也の耳に強烈な音を発する。


 「・・・!!」


 空也の耳からは血が出てきてしまい、足にも力が入らずに片膝を地面につけてしまった。


 動けずにいる空也へと灰色の髪の男が近づいて行くと、空也の頭に触れようとした。


 「脳味噌ごと潰してやるよ」


 その時、空也が倒れていた場所の地面が盛り上がり、空也の身体はそのままコロコロt転がって行く。


 空也の身体が行き着いた場所には、ある人物が立っていた。


 「弱くなったか?空也」


 以前とは違い、落ち着いた雰囲気だった。


 黒の上着の中に少し大きめの白いニットか何かを着て、下は黒で黒っぽい茶色のブーツを履いている。


 髪の毛は短いのだが、見覚えのある赤黒い色を帯びている。


 「なんだ?お前」


 灰色の髪の男が、空也を仕留めることを邪魔された不機嫌な様子を全く隠すこともなく顔に出せば、足元に転がって行った空也を足で止めたその男は、ポケットからアーモンドを取り出して口に入れる。


 「てめぇなんぞの名乗る心算はねえよ」


 「ああ?」


 灰色の髪の男が手をかざすと、ぐわん、と世界が引っくり返ったように感覚がおかしくなっていく。


 身を屈めて手を地面につけると、灰色の髪の男と2種類の髪をもつ男の足元を沼にして沈めようとする。


 だが、2種類の髪をした男が右手を軽く上げて自分の耳横を通る形で後ろから前に動かすと、空也たちは何か強い衝撃によって、魔法界の敷地から遠く飛ばされてしまった。








 「ってぇ・・・。おい、死んだか?しょうがねえな、この辺に埋めてやるか」


 「死んでねえよ!綺麗なお目目ぱっちり開けてるだろうが!!」


 「綺麗なお目目ってなんだ?相変わらず馬鹿丸出しだな。俺がここまで運んでやったってのに」


 「俺知ってんだからな。あいつらにぶっ飛ばされたことくらい分かってるから。記憶に残ってるから」


 「で、なんなんだ?あいつら。全部話せ。俺が魔法使えるように戻したことも含めてな」


 男の鋭い目つきに、空也は何も分からない子供のように笑って見せるが、その笑顔が気に入らなかったのか、思い切り鳩尾を殴られた。


 しばらくお腹を抱えていた空也は、苦しんでいるのかと思えば、喉で笑っていた。


 「久しぶりに会って改心したかと思えば、変わってねぇなぁ、ジンナー」


 「・・・・・・」


 以前、個人的な恨みから魔法界に襲いかかり、結果として魔法界を追放、魔法も使えなくされてしまったジンナー。


 それがどういうわけか、こうして魔法を扱えるようになっていて、ここへも戻ってきていた。


 「てかイメチェン?なんで切ったわけ?」


 「別にいいだろ、俺が決めることだ。それにお前だって短くなってんじゃねえか」


 「やだ!ジンナーってば俺のこと好きなの?俺が髪切った事なんで知ってるの!?」


 「・・・お前、そんなに面倒臭い奴だったか?」


 「ジンナーこそ、ノリ悪くなったか?」


 そんなこんなで多少世間話をした後、空也はどうしてこんなことになっているかの説明を始める。


 そもそも国王、つまり空也の父親はどうしたのかという質問に関しては、生きているし、妃様、つまり空也の母親と旅行中だというのだ。


 結婚して何十年か経ち、せっかくだからということで出かけたようだ。


 そしてその旅行中、国王代理として空也が渋々その椅子を引き受けたようなのだが、そんなときに攻められるなんてムカつく、と言っていた。


 「で?あいつらは?」


 「初見だな。でも、あの厭味ったらしい短い髪の奴はビノスで、変な髪色してた奴はレードンっつったな。あいつらお互いをそう呼んでたから多分」


 「目的は?」


 「さあ?俺が狙われたのかも、親父が狙われたのかも分からねえ。それに、あの2人だけじゃねぇ。他にもいたけど魔法が使えなくなってさっぱりだ」


 「役に立たねえな」


 「しょうがねえだろ!多分あの綿毛なんだよなー」


 「綿毛?」


 空也の話によると、魔法が使えなくなる少し前に、綿毛が国中に飛んでいたという。


 そもそも、空也は最近聞いた怪しい噂のことを調べるよう国王に命令されており、調査をしていた。


 その噂というのが、使用禁止されている魔法道具の闇売買、闇取引のことだ。


 なぜ禁止なのかというと、副作用が尋常ではないらしく、使用した者は最悪の末路が待っているそうだが、どうなるのかは分かっていない。


 おそらく、その綿毛も使用が禁止されている魔法道具の1つで、一時的に魔法が使えなくなるものだろう。


 「なら、捕まってるあいつらもすぐに使えるようになるんじゃねえのか?」


 「いや、あの人数を捕まえておくってんだから、それなりに数は用意してあるだろ。あいつらと連絡取るにしても、お前のじゃ目立つし、俺は今使えねえしなぁ・・・」


 はああああああ、と盛大にため息を吐いている空也に、ジンナーが目を細める。


 空也はそのジンナーの視線に気づいて顔をあげると、当然だが目が合い、空也はジンナーの真似をして目を細めると、ジンナーは小石を拾って空也に投げつけた。


 「なんだよ!」


 「で、なんで俺を戻した?」


 人間界での生活を強制されていたジンナーは、もう二度とこちらに戻ってくる事はないと思っていた。


 しかし、急にこんなことになってしまい、空也がどういう心算で自分に魔力を戻したのかが気になっていた。


 「俺達が全員魔法使えなくなったら、あとはお前しかいないだろ?」


 「は?」


 「だからー、調査を始めた時点で親父とも話してたんだよ。お前を戻してもいいんじゃねえかって。で、あいつらが侵入してきたことが分かって、急いでお前に魔力を戻したってわけ。そうすりゃ、全滅は免れるかもしれねえし?」


 な?と当然のように言っている空也に対し、ジンナーはやれやれと額に手を置いた。


 前前から思ってはいたが、本当に何を考えているのか分からない奴だ。


 ジンナーはポケットからアーモンドを取り出して口に放り込むと、それを見ていた空也と目が合う。


 「なんだ」


 「いや、懐かしいなーと思って」


 ニヤニヤしている空也にいらついたが、いらついたところで空也をどうにか出来ることもないため、ただ睨みつけた。


 確かに空也の言うとおり、ジンナーが来なければ空也とて先程どうなっていたか分からないのだ。


 分からないのだが、それにしても、だ。


 「どんだけブランクあると思ってんだ」








 一方その事、捕まっていたナルキたちのもとに、さらに2人が放り込まれた。


 「お前等・・・!」


 見覚えのある顔に、海斗は思わず口を開いてしまったが、中に入ってきたのは、流風とデュラだった。


 「お前らなんで?」


 魔法界の敷地内にはいたとしても、この城までは随分距離があるはずだ。


 見る限り、2人も魔法を使えない様子で、綿毛が触れてしまったことは明らかなのだが、どうしてこんなところにいるのかが分からない。


 流風は以前よりセクシーな格好になっており、それを誰よりもまじまじと見ていたのは、同じ女性であるシェリアだ。


 流風が答えそうになかったため、デュラが答える。


 「実は、ジンナー様の気配がして、追放を解除されて戻ってきたんじゃないかって、流風と一緒に様子を見にきたんだ」


 「ジンナー・・・」


 「ああ。でも魔法は使えなくなるし、あいつらに捕まるし。ジンナー様も見当たらなくて・・・」


 落ち込んでしまった流風とデュラに、シェリアが「あ」と言う。


 「私見た!ジンナーいた!空也と一緒にどっか飛ばされてた!!」


 「シェリアちゃん目、いいんだね」


 「そ、ソルティ先輩・・・!!」


 ソルティに微笑まれてくらっとしてしまったシェリアを他所に、ナルキたちも確かに空也が飛ばされていったのを見ていた。


 そこにジンナーがいるのは確認出来なかったが、流風とデュラがジンナーの気配を感じたというのが本当だとすれば、ジンナーがいたとしても不思議ではない。


 しかし一番の謎は、ジンナーが魔法を使えるかどうかということだった。


 何が起こっているのか分からない状況で、ナルキが口を開く。


 「何があったのかは分からないが、空也とジンナーがまだあいつらの手に落ちてないならなんとかなる。空也の魔法なら、あいつらにバレずに俺達に連絡取れるし、とにかく、空也の魔力が戻るのを待とう」


 「そうだね。俺達は俺達の出来る事をするしかないしね」


 ソルティがそう言えば、シェリアが両目をハートにして何度も頷く。


 空也に自分達の言う事を聞くように伝えろ、と言われたのは掴まってすぐのことだが、空也が人の言う事なんて聞くわけないだろう。


 それが分かっているからこそ、ナルキたちはこうやって抵抗せずに捕まっているのだ。


 ナルキたちがいる牢屋には、常に綿毛が舞っている状態で、魔法が使えるようにするには、外からこの綿毛をどうにかしてもらうしかない。


 「頼んだぞ、空也」








 レードンとビノスも、同じようなことを話していた。


 「空也は絶対戻ってくる。この手で葬ってやるんだ」


 「空也の魔法じゃ、俺達には勝てない」


 そんな2人の周りには、他にも男女がいる。


 「魔法界を乗っ取るなんて初めて聞いた時は絶対無理だと思ったけど、結構簡単だったね」


 「油断は禁物ですわ」


 「そうよ、私達の魔法は特別で強いかもしれないけど、油断はいけないわ。負けたときに格好悪いわよ」


 「暇」


 「魔法道具のお陰で俺達最強だろ?何があったって、どんな奴が相手だって負けやしない!!」


 「・・・すー、すー・・・」


 「レードン、何を心配してるんだ?」


 「・・・さすがビノス。でも、大丈夫。闇取引をした証拠なんて残っていないし、証拠があったとしても、幾らでも握りつぶせるんだから」


 不敵に笑うでもなく、無邪気に笑うでもなく、レードンは眉を下げていた。


 自分で用意したのか誰かに用意させたのか、ミルクもレモンも入れていない紅茶を口につけて少しずつ飲む。








 「あー!!!出た出た出た出た!ジンナー!見ろよコレ!!!!出た出た!!」


 「うるせぇよ!今何時だと思ってんだ!」


 「早朝4時」


 「お天道様だって起きてねぇよ!!」


 いつになったら魔法が使えるのかと、ずっとずっと待っていた空也は、ついに自分の魔力が戻ったことを知った。


 そしてその嬉しさを伝えたくて、まだ熟睡していたジンナーを叩き起こしたのだ。


 その起こし方がまた激しいもので、横向きになって寝ているジンナーの身体の上に子供のように乗って跳ねたり、頭をばしばし叩いたり、使えるようになった魔法で強風を直にぶつけていた。


 さすがに熟睡していたジンナーも起きてしまい、起きて早々空也の髪の毛を全て引き千切る勢いで頭を鷲掴みにした。


 「ジンナー、落ち着けって。お天道様はいつも起きてるから。ぐるぐる回ってるだけだから」


 「そういうところの正当性は求めてねぇんだよ」


 「いてててて!!!ピンが絡まった!」


 額の左側につけている2つのヘアピンが動いてしまい髪に絡まり、空也は地味な痛みに襲われた。


 ようやくジンナーから解放されると、空也は魔法で自分の髪の毛をセットし始める。


 それよりも先にやることがあるだろうと思ったジンナーだが、今はとにかく面倒臭くて言うのを止めてしまった。


 大きな欠伸をしてから、ジンナーも自分の魔法のコントロールの練習を始める。


 「じゃあ、ナルキに向けて飛ばすぞ」


 「別々に捕まってたらどうすんだ」


 「一緒だろ。なんてったって、あの城には牢屋が1つしかねえ。てか俺が減らした。牢屋の幅減らせば、もっと広くなるんだよ、女風呂」


 「・・・・・・」


 どうして空也が男風呂ではなく女風呂を広くしたのかはさておき、ビノスたちに見つからないようにと、空也は水に濡れると透明になる葉っぱを探す。


 周りの植物たちが在処を教えてくれたため、それほど時間はかからなかった。


 空也はその葉っぱに口を近づけると、何かもにょもにょと話し始める。


 傍から見れば不審者なのだが、空也は少しして「よし」と言うと、その葉っぱを川の水で濡らし透明にし、風に乗せて届ける。


 あとはこれが無事に辿りつくことを願う。


 「後は、あの魔法を使えなくする綿毛の処理だな。何か方法あるか?」








 「葉っぱだ」


 空也からの葉っぱが無事にナルキたちのもとに着くと、いつもそういう連絡の取り方をしているナルキがいち早く気付く。


 葉がナルキに触れると、そこから空也の声が聞こえてくる。


 『こちら空也こちら空也』


 空也からの連絡内容は、ジンナーと合流していることや、ジンナーがなぜ戻ってきているのか、これからどういう行動を取る心算か、などだ。


 『つーわけで、俺とジンナーはなんとかしてそっちに行く。お前らも、あいつらぶっ飛ばす算段でも考えておけ』


 ジンナーの声は少しも入っていなかったが、ジンナーが今からこちらに来ることも、戻ってきていることも分かったためか、流風は顔を覆っていた。


 そんな流風の肩をデュラは抱え、ナルキたちに、自分たちも協力させてくれと頼んだ。


 自分達は魔法を使えないため、返信も出来ずに一方通行の連絡ではあるが、それでも安心という意味では十分なものだった。


 「さて、俺達もじっとしてちゃいられないな」


 「シェリアちゃん、大丈夫?熱でもあるのかな?」


 「め、滅相もございません・・・!!私シェリア、ソルティ先輩と同じ牢屋にいるだけで・・・!!」


 「シェリアやべぇな。面白いから空也に報告しとこっと」


 「海斗、それは止めてあげて」








 「その綿毛っつーもんがどういうのか知らねえが、綿毛なら飛ばすなり燃やすなりすりゃいいんじゃねえの?」


 「馬鹿お前。女の子はお花が大好きなんだぞ。流風ちゃんだってそうだろ?燃やすなんて可哀そうなこと出来るかよ」


 「ならお前の魔法で飛ばせよ」


 「それは俺が悪者になるだろ」


 「なれよ」


 「はい、他に方法は?」


 「無視か。なら、そもそもその綿毛を操ってる奴をブッとばしゃいいんじゃねえの?でも、そいつが誰か、どんだけ強いかも分からねえ状況じゃ、一番手っ取り早いのは、綿毛の効能を無効化する薬を作るとかだな」 


 「おお、それだ!!!」


 「人を指さすんじゃねえ」


 ジンナーの提案に、空也は思わずジンナーを人差し指でびしっ!と指さしてみるが、ジンナーが空也の指に拾った枝を近づけ、丁重にずらした。


 とはいえ、そんな薬が簡単に作れるものかと疑問に思った空也だが、そんな疑問はすぐに消えることとなった。


 「そういや、お前の家系って理系だよな」


 空也の言葉に、ジンナーは多少嫌そうな顔をする。


 「別に理系の家系とかじゃねえから。まあ、古い文献とかはあるかもしれねえけど」


 「れっつごー!!!」


 「地獄にか?」


 そんなやりとりをしながらも、空也とジンナーは、ジンナーが追放されたときの部屋をそのまま移動させると、空也はその部屋から役に立ちそうな文献を探す。


 読めないわけではないのだが、読む気が無くなるには十分なほどの文章の多さと、文字の羅列が並ぶ。


 空也があれでもないこれでもないと、沢山ある文献を読んでいる中、ジンナーはある一冊の本をずっと読んでいた。


 まだ調べなくてはいけない本が沢山あるというのに、なんでマイペースに読んでいるんだと、空也はジンナーに文句を言う。


 「お前なぁ!そういうの良くねえぞ!!やりたくねえし面倒臭ぇのは俺も同じだからな!そうやって時間稼ぎして俺にばっかりこんな難しい本読ませようとしやがって!!今は無効化する薬作りだろおおお!?」


 プルプルと震えながらジンナーに言ったは良かったのだが、ジンナーは一度本から顔をあげると正面を向き、それからゆっくりと空也を見てきた。


 なんだと身構えた空也だったが、ジンナーの口からこんなことを言われた。


 「だから読んでる」


 「は!?」


 「お前、ここが何処か分かってるか?」


 「お前の部屋」


 「じゃあここにあるのは誰のだ?」


 「お前の・・・」


 「俺が、自分が何を持っているのか分からねえとでも思ってるのか?てめぇでてめぇの持ってる本を管理出来てねぇとでも?」


 「・・・・・・すみません」


 確かに、ジンナーは何処にそれに関する本があるか分からない、なんて一言も言っていなかった。


 空也が勝手に、こんなに沢山本があるんだから分からないだろう、と勘違いしてしまっただけで、ジンナーは最初からその本を読むために部屋ごと移動させたのだ。


 なら教えてくれてもよかった、とも思った空也だが、今はジンナーの言う事を聞く。


 本を読んでいるジンナーの隣で正座で待っていると、ある頁を空也に見せて来た。


 「これを探すぞ」


 そこには、綿毛に関する記述の後に、その綿毛を無効化する薬の作り方も書いてあり、その材料を探すことになった。


 綿毛の効果を失わせるには、術者自身が綿毛の効果を抹消させるか、こうした医学的な方法しかない。


 森は沢山あるものの、その中から目的のものを探すというのは大変だ。


 しかし、そこは2人の魔法を駆使して自然から情報を集め、必要なものを揃えることが出来た。


 「うへー。ハーブからカエルまで多種多様だこと。これ混ぜるのか?不味くね?」


 「味の問題はこの際どうでもいい。それに意外と美味いかもしれないぞ」


 「お前味覚大丈夫?この選抜メンバーを見てよくそんなこと言えるね、びっくりだよ」


 「うるさい、作るぞ」


 何処から持ってきたのか、ジンナーは大きな鍋にそれらの材料を入れると、まるでどこぞの魔女のように煮詰める・・・。


 全部投入し終えると、空也はジンナーがぐるぐると一定の速度で鍋を回す・・・。


 「・・・なんか怖ぇ」




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