第4話おまけ 【 そうきましたか 】
Wizardry
おまけ 【 そうきましたか 】
パッパラパ~パラパラ~パララ~♪
城の前には、数えきれないほどの人、人、人。
その人混みの間には、赤い絨毯がどこから続いているのか、魔法界のどこからか始まり、城の入り口まで長く長くしかれていた。
赤い絨毯の両脇には、城の使いの者達が規則正しく並んでおり、手には盾と矛を持っている。
曲に合わせて行進してきたのは、同じく城の使いの者達で、トランペットやバス、フルートやシンバルなど、様々な楽器を演奏しながら現れた。
それを心待ちにしていた人々は、次々に手拍子を始めたり、子供たちは吹く真似をして遊んでいる。
長い行進の中間辺りになると、そこから現れたのは人々が待ちに待った人物であり、その人物の登場によって、その場はさらに盛り上がりを見せる。
魔法によって動いている木や草、花は踊り、鳥たちもこの日を歓迎するかのように綺麗な声で唄っている。
大きな蕾のままの花が植物の真ん中から姿を現すと、くるくる回りながら空高くへあがる。
そして、やはりくるくる回りながら徐々に花弁を開かせていく。
歓声とともに現れたのは、何を隠そう、今日から国王としてこの国、国民を守っていく立場になった空也である。
「国王様~!!!」
「キャー!!こっち向いて~!!」
「よっ!新国王!」
黄色い声から様々な声までが飛び交う中で、頭には王冠を被り、花の中心に立っている空也。
城へと続く絨毯の上を飛んでいくと、次々に国民は城へと押し寄せてきて、握手を求めてきたりハグを求めてきたり・・・・・・。
まだ空に浮いているというのに、皆が空を見上げてわーわーと叫んでいる。
空也は口元を緩めながらそっと目を閉じ手を上げれば、先程まで五月蠅いほどに騒いでいた国民達は一気に静かになる。
静まり返った空気が流れてくと、空也は声高らかに感謝を示す。
「今日から私、“空也”が国王となる!皆には今まで迷惑もかけてきたが、皆を守る立場となった今、責任もって任務を全うしよう!!」
オオー!!!とまたもや歓声が上がると、新国王の誕生式典という名目で、宴会が始まった。
花に乗ったまま地面へと下りると、花を椅子代わりにして胡坐をかきながら座る。
その空也の許に数人の美しくセクシーな女性達が集まってきて、手にはお酒を持ちながら、空也の近くへと腰を下ろす。
「ねぇ、空也?妻は何人取る心算なの?」
「そうだな・・・・・・。俺は基本的に一夫多妻制だ。」
「じゃあ!私を妻として迎え入れてくれる?」
「勿論だ。いいぜ。」
「私も!!いいでしょ?」
「フフ、じゃ、私もお願いしちゃおうかしら?」
「ハハハハ!この際、女は全部俺の嫁にすっか!!!」
空也の杯には次々にお酒が注がれてゆき、それを休むことなく口へと運んでいく空也の頬は、みるみるうちに赤くなっていく。
楽しく宴会をしていると、ステージではマジックショーが始まっていた。
魔法は一切無しのそのショーは、隠し芸や得意なことを披露する場として作られたが、その司会者のマイクを、空也が奪い取った。
何事かと皆が空也に視線を向けると、肺一杯に空気を吸い込み、大きな声で言った。
《いいかお前ら。決めたぜ。俺は妻を最低でも五十人取ることにした!!!すでに結婚している者でも構わない。妻になりたい奴は俺んところに来い!!》
完全に酔っている空也の口から出てきた言葉に、前国王は空也を止めようとしたが時すでに遅し・・・・・・。
空也の許には一斉に女性達が向かって走っていくところで、もう止めようが無かった。
国王としての自覚が出てきたと思った矢先、酔った勢いでとんでもない事を口走ってしまった空也に、ただため息しか出ない。
だが、それに黙っていない国民も当然ながらいた。
それは、空也の許に、何の迷いも無く走っていってしまった妻達の夫達である。
自分よりも強く権力もあり、さらには顔立ちも悪くは無い国王の許に嫁ぎたい気持ちも分かるが、せめて相談くらいしてほしかったらしい。
何の言葉も告げずに行ってしまった妻の背中を眺めることしか出来なかった夫達は、空也の言葉に猛反発。
「おい!何してるんだ!戻ってこい!」
「何考えてるんだ!!子供もいるんだぞ?!」
「国王も馬鹿なこと言わないでくださいよ!!」
なんとか自分の妻に戻ってくるように言うが、妻たちはすでに空也に嫁いだ心算になっているらしく、聞く耳もたない。
必死に叫んでもただ惨めになるばかりで、一方の空也はハハハ、と笑っているだけ。
空也の態度にキレた男たちは、魔法で勝てないと知っていながらも、魔法で一気に空也に攻撃をしかける。
余裕の笑みでその攻撃を粉砕させると、空也はスッと目を細めて冷めた笑いを見せる。
「俺に喧嘩を売ったのか?」
ゾクッとするほどの笑みを突きつけられた男たちは、もう諦めて帰ろうかとしたが、そこに救世主が現れた。
「俺達も力を貸しましょう。」
まるで、悪役を退治しにきた英雄扱いをされたのは、古くからの空也の親友であるナルキ、それにソルティも海斗もいた。
「暴君はいずれ朽ち果てる。なら今ここで殺してしまおう。」
「ナルキ、俺と勝負する気か?勝てると思ってるのか?」
「目に余るものがあるよ。我慢出来ないからね。」
相手を良くしっている者同士の喧嘩、もっと正確に言えば殺し合いに、国民たちは息を飲んで身を潜めるしかなかった。
「残念だよ、空也。こんな形になって。」
「ナルキが降参すればいいだけの話だな。」
「それは出来ないよ。」
空也とナルキの実力の差は明らかで、誰もが空也が勝つだろうと予想していた。
しかし、それは空也が正常な意識を持っていて、さらに最近では魔法の練習をさぼっているとも聞く。
空也が一気にケリをつけようと、自分の座っていた花びらを抜き取って大きな剣にすると、ナルキに襲いかかった。
ナルキはそれを避けると、どこかで見たことのある構えをする。
その構えとは、両手の手首を合わせて、花が咲いたことを表現する時のように指を広げた構えである。
「カッ、カメ●メ波・・・だと!!?」
手の間からは物凄く強い光と共に、巨大な岩をも砕ける物理的な攻撃を空也に向けて飛ばすと、空也は近くの壁に強く背中から叩きつけられた。
「くっ・・・!!」
ゆっくりと空也に近づいたナルキを見上げると、ナルキとは思えないほどに冷たい視線を向けられ、薄ら笑いを浮かべている。
「散々俺を見下してくれたよな?空也。でも、それも今日で終わりだ。お前の跡は俺が継いでやるから、安心して逝け。」
そう言ったナルキの手には光るものが握られていた。
頭にダメージを受けたのか、空也は自分の身体もまともに動かせない状態で、ナルキのナイフを見つめることしか出来ない。
腰をおろして空也と目線の高さを合わせると、ナルキはニッと笑って空也の髪の毛を掴んだ。
今すぐに禿げてしまうのではないかと思うくらいに痛々しい乱暴な掴み方で、空也の首筋をじっと見ると、そこにナイフをあてがう。
「大将の首を取れば、俺も晴れて英雄だ。」
次の瞬間。空也の視界は真っ暗になった・・・・・・。
国民の前にさらけ出された空也の首、だけ・・・・・・。
真っ赤に染まったナルキの手が高々と天高くに掲げられると、国民からの称賛の声が飛び交う。
新しい国王の誕生に誰もが納得し、誰もが褒め称えた。
「これからは良い国にするため、誰もが平等に暮らせる国にしよう!!」
届くはずの無いナルキや国民達の声が、空也の耳にも届いていたとか。
そしてゆっくりと目を開けて、ナルキを恨めしそうな目で見つけていたそうだ―
「っていう夢を見たんだ。」
「夢かよ。」
自分が今日見た夢をナルキに話しているのは、先程夢の中でナルキに殺されたばかりの空也である。
二人でのんびりと草原に寝そべって話していると、ふと、ナルキが身体を起こした。
「?どうした?」
「ま、正夢にならないようにな。」
「なるかよ。大体、俺は酔っててもナルキに負けねぇぞ!!」
自信満々に告げる空也を見て、ナルキは肩を揺らして笑う。
「あ、そうだ。」
寝そべっていた近くに置いておいた飲みものの事を思い出して、ナルキはそれを自分の近くに持ってくると、蓋を開けて飲みものを蓋に注ぐ。
「空也、飲む?」
「飲む飲む!」
勢いよく身体を起こすと、子供のように目を輝かせてワクワクという効果音を発しながら待っていると、ナルキが注いでくれた飲みモノを受け取る。
グビグビと喉に流し込んでいくと、蓋をナルキに返す。
「ふぁ~・・・・・・。なんかまた眠くなってきたな・・・・・・。」
「寝たら?起こしてあげるから。」
そう言われて安心したのか、空也はものの数秒で夢の中へ入ってしまった。
空也が寝た事を確認すると、ナルキは目を細めてフッと笑い、空也の髪の毛をさらさらと優しく撫でる。
「でも、次起きた時は、視界は真っ暗かもね。」
クスッと笑うナルキは、自分の胸からキラリと黒光りするものを取り出して、空也の額に密着させた。
「正夢になっちゃったね。」
パン、と乾いた音が空気を振るわせると、音に気付いた鳥がバサバサと木の枝から飛び立っていった。
何事も無かったかのようにその場を立ち去るナルキは、振り返る事なく歩いていく。
残されたのは、額から純血を流して眠る様に倒れている空也の身体。
徐々に冷たくなっていく空也に身体が腐りゆくのを、近くの木の枝から、ハゲタカが今か今かと待っていた・・・・・・。
【という夢を見たので、国王になるからといって偉そうにせず、人を見下さず、調子に乗らず、真面目に勉学に励む事をおすすめします。
追伸:女性にも酒にも溺れることのないように。 ジンナーより】
「・・・・・・。」
「空也?何読んでんだ?」
手紙を読んだまま動かなくなった空也の隣で、珍しく眼鏡をかけて勉強をしているナルキが声をかける。
机の上に手紙を投げつけた空也に首を傾げると、足を組んで苛立たしげに文句を言った。
「二度の夢落ちかよ!」
はい。夢落ちでした。こうきましたよ。
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