第2話silver





蜂蜜

silver



 我々の目的は、勝利、この二文字であります。あらゆる犠牲を払い、あらゆる辛苦に耐え、いかに長く苦しい道程であろうとも、戦い抜き勝ち抜くこと、これであります。


     ウィンストン・チャーチル


































 SET*Ⅱ【SILVER】




























 侵入してから少しして、透たちは警備員に鉢合わせしていた。


 とはいえ、透は持っていた銃から針を出して眠らせてしまったり、空圧でバランスを崩させてから顔面に向かって催涙スプレーを浴びさせた。


 稚夜が収監部屋のロックを外すと、ロックを外された音に気付いた中の男女がドアを見つめる。


 また自分達の中の誰かが殺処分されるのだろうと思っていたのだが、そこから一向に現れることのない警備員や執行人に、そーっと廊下を覗く。


 すると、そこには誰もいないことに気付き、部屋の中にいた男女は次々にそこから逃げ出して行く。


 全国で最も敷地が広いことだけあって、正直、全部の部屋を回るのは透でさえも大変だし面倒なため、ロックが外れたことを教えるためにわざわざ稚夜が音つきで解除したのだ。


 人を押しのけてまでそこから逃げて行く人たちを眺めている透と臨は、全員が逃げるまでには時間がかかるだろうと、透はこの間に職員、警備員、執行人が動けないようにすることにした。


 臨も付いてきて、職員達と警備員は全員眠らせてしまったのだが、執行人だけは違った。


 執行人に対してだけは、透は躊躇なく銃弾を浴びせるのだ。


 人が血を流して倒れるところを初めて見てしまった臨は、しばらく身体が固まってしまったが、透に頭を叩かれたためすぐに動かした。


 明日殺処分が行われる予定が書かれたそれらを眺めたあと、透はその予定が書かれたフィルムを壊した。


 そして時間にして15分ほど経った頃、全員逃げ出したことを確認してから、爆破をするため適当な場所に爆弾を仕掛けて行く。


 さっさと終わりにして透たちも非難しようとしたとき、起き上がった警備員に捕まってしまった。


 「こいつ!!すぐにでも殺処分してやる!!」


 屈強な警備員に捕まってしまった臨は、身動きが出来ない。


 それは力で制圧されているだけではなく、ここまで来る体力を消耗してしまったことも関係しているだろう。


 捕まってしまった臨と男の前に、透が立つ。


 「お前等!!こんなことしてただで済むと思うなよ!!すぐに全国に報せて、ここで殺処分してやるからな!!」


 「そんな物騒なこというもんじゃないよ?それに、ここで殺処分されるのは俺たちじゃなくて、お前らだから」


 「馬鹿なことを!!」


 透は銃を警備員に向けると、警備員も腰から銃を取り出して透に向けて発砲しようとしたのだが、その警備員の腕をナイフが掠めた。


 まさか銃からナイフが出てくると思っていなかった警備員は、手首からとめどなく溢れてくる血液を見て、臨を解放した。


 それは自分の命を助けるための手段なのだが、そこから出てくる血を止めることなど出来るはずがなく、警備員は血まみれの手首を見てただ喚いている。


 そして透たちを睨みつけて来たかと思うと、透と臨、どちらでも良いから捕まえようとしたのか、突っ込んできた。


 透は臨を荷物のようにして脇に抱えると、銃を天井に向けて撃ち、鉤縄で弧を描きながら向かいの廊下へと移動した。


 勢いよく突っ込んできていた警備員の男は、そのままの勢いで落ちてしまった。


 きっと強く床に叩きつけられてしまっただろうが、そこまで見ていなかった。


 透たちは無事に脱出すると、タイミング良く爆破させた。


 それからすぐ警察がやってきて、その中にはもちろん啓太郎もいたのだが、爆破されて未だ燃えているそこを見てため息を吐いていた。


 「まったく」


 すぐに操作は行われ、以前と似たような手口であることから、またしても同じ連中が事件を起こしたのだと言われた。


 しかし、やはり犯人に繋がるものは何も残っておらず、爆弾からも何も分からなかったそうだ。


 啓太郎は辺りを見渡して、透がいないかとみてみたのだがいなかったため、ここに収監されていた人たちの身元を割り出すことにした。








 《ったく。捕まるなんてどういうことだよ》


 「すみません」


 《まあ、俺の責任もないわけじゃねえけど、油断しすぎだろ。もうちょっと気ィ張ってほしいもんだ》


 「・・・あの、その声は一体・・・」


 《面白いだろ?》


 透は面白がって、稚夜が銃に細工してくれたヘリウムガスを吸い込み、変な声で話していたのだ。


 真面目な話をしているならそんな声を出すなと言いたいところだが、その銃には手品のように世界各国の旗が繋がったものもあるようで、それで遊んでいた。


 稚夜はそんな透に慣れているようで、変な声で喋っていても無視していた。


 「ラーテル、菓子がない」


 「はあ?俺に買って来いって?いいけど」


 意外と腰が軽い透は、暇だからなのか、必要なものが無いかを確認して、外へ1人で出かけて行った。


 「あの、1人で大丈夫なんでしょうか。外には保健所の人達もべルターもうろうろしてますし」


 「心配ならついていけば」


 「でも・・・」


 「あいつはそう簡単に捕まらないし、捕まっても自力でなんとかするよ」


 ガムを噛みながら、稚夜が言った。


 臨はついていこうとも思ったのだが、もしも1人で行動などして、また自分だけ捕まってしまっても迷惑がかかると、大人しく待つことにした。


 すると、稚夜が3か所目の保健所のデータを渡してきた。


 「今のうちに見ておいたら。透はすぐ頭に入るだろうけど、お前まだ無理だろ」


 「あ、ありがとうございます」


 一方、その頃1人で買い物に出ていた透の周りには、保健所の職員がいた。


 どうやら、警察から渡されたとある男たちのデータを見ているようだが、透の動きが気になったのか、それとも透自身が気になったのか、とにかく、買い物をしている間ずっとつけられていた。


 つけられていたことにも気付いていた透だが、相手にしないでおいた。


 買い物を終えて帰ろうとしたとき、透を待ちかまえていた保健所の職員によって取り囲まれた。


 「なんだ?俺をナンパでもしてぇのか?なら、むさくるしい男じゃなくて、可愛い女の子連れて来な」


 「申し訳ないが、身分証明をお願いします」


 職員の1人がそう言うと、ICチップを確認するための機材を取り出し、透の首筋にそれをあてがおうとした。


 その時、職員たちの後ろから声が聞こえて来た。


 黒の短髪に眼鏡をかけた長身の男だ。


 「その男、私の知り合いなんですが。何か用ですか?」


 「あなたは?」


 「・・・・・・」


 現れた男は、綺麗に着こなしているスーツの襟もとをぐいっと無造作に差し出すと、職員が手に持っていた機材を当てるよう無言で首を見せた。


 リーダーの様な男に指示され、その男のICチップを読みこんだ。


 すぐに結果は出てきて、それを読みあげる。


 「認証番号6102024BDHに。職業は弁護士とのことです」


 「弁護士さんがこちらで何を」


 「このエリアは保健所の方の管轄外かと。もしこちらの男性を連れて行きたいのであれば、警察を呼ばせていただきますよ、保健所統括責任者の、古守陽隆介さん」


 「・・・・・・本名で呼ぶのはルール違反ですよ、弁護士の先生」


 互いに少し睨み合ったあと、保健所の職員はそこから去って行った。


 そのとき、隠れて引き金を引き、男の発信機をつけたことには、多分つけた本人以外は気付いていないだろう。


 眼鏡の男はやれやれと眼鏡を外すと、そのまま手の甲で目を擦った。


 「弁護士の先生なんて、立派なもんだな。昂くんよぉ」


 「透、お前もいい加減にしておけよ。お前のことは弁護しきれないからな。それに啓太郎からも連絡があったぞ。随分暴れてるみたいだな」


 「俺ってば有名人?てか、その伊達眼鏡何?」


 「いいんだよ。弁護士として、演技するにはこういう小道具があった方が気持ちとして演じやすいんだ」


 現れた男は、透の腐れ縁というか幼馴染の男だった。


 認証番号は先ほどの通りだが、本名は狗秦昂といって、透だけではなく、啓太郎とも昔の縁で繋がっている。


 奴隷制度に関しては何度も異議を申し立てていたのだが、今も却下され続けている。


 伊達眼鏡をかけ直した昂を見て、ふと、透が自分を捕えようとしていた保健所の男に関して聞いた。


 「さっきのって、新しい保健所統括責任者の奴だよな?」


 「とっくに調べてあるんだろ?」


 「まあな。けど、本物に会ったのは初めてだからよ。思った通り、融通の利かねえ、頭の固い、くだらねえ正義を持った野郎みてぇだな」


 「そう毛嫌いするな。あの人を敵に回して、無事でいられた奴はいない、それに、お前は身分がバレたら他の奴よりやばいだろ」


 昂の言葉に対し、透は肩を軽く上下に動かしただけだった。


 昂は小さい頃から似たような生活をしていたし、同じようにやんちゃをしていたのだが、AIが普及され始めた頃に昂の父親の会社は倒産してしまい、奴隷制度に加入しなれけばいけない状況下で、なんとか弁護士になれるよう勉強をしたのだ。


 コツコツと努力をすることが得意というか、そういう性格で真面目で、見た目も精悍なためか、弁護士の仕事ははかどっているようだ。


 それに、奴隷制度を廃止しようという弁護士団もいるようで、その人達と一緒に街を回り、先程のように保健所に連れて行かれそうになっている人たちを喰いとめることもあるそうだ。


 しかし、べルターはそんなことも気にせず、弁護士たちや警察の動きを把握して動いているらしく、捕まえることは勿論、訴えたところで勝ち目はない。


 それでも活動を続けているのは、殺処分という場面を目の前で見てしまったことがあるからだろうか。


 「稚夜を逃がしたのもお前か?」


 「なんだ。お前の方まで情報行ってるのか。啓ちゃんにも内緒にしてたのに」


 「当たり前だ。あの状況で逃げ出すことは不可能だ。だが逃げた。となると、誰かが逃がしに行ったことは確実。そうなれば、お前んことを知ってる奴は、自然とお前のことが思い浮かぶだろう」


 「じゃあ、知ってるのは昂くんと啓ちゃんだけってことだ。なら安心」


 「俺はともかく、啓太郎は分からないだろ。一応警察官だぞ、あいつ」


 「大丈夫だって。俺、啓ちゃんの弱み握ってるから」


 にっこりと微笑みながらそういう透に、昂は困ったように笑った。


 「じゃあ、何かあったら連絡してくれ」


 昂はプライベート用の連絡先を、透の腕時計に向けて指でスライドさせた。


 すると、透の腕時計には昂の連絡先が入る。


 昂が去って行くと、透は買い物帰りだったことを思い出し、秘密基地に向かって歩き出した。








 「ただいまー」


 「おかえりなさい。大丈夫でしたか?」


 「ああ。保健所の奴に捕まりそうになったけど」


 「え!?」


 「昂くんが来たから大丈夫だった。ちーちゃんは何してるわけ?」


 「先程から、ああやって何か聞いているんです。何かは分かりませんが」


 多分盗聴機でも聞いているのだろうと、透は買ってきたばかりのお菓子とガムを黙って稚夜のデスクに置いた。


 稚夜は御礼を言う事も透を見ることもないまま、食べ終えて空になったお菓子の袋をゴミ箱に捨てながら、新しいお菓子に手をつける。


 常に口の中にカロリーの高いお菓子が入っているが、どうして太らないのかは分からない。


 いや、実際服を脱ぐと太っているのかもしれないが、見た感じでは、太っている様子はない。


 稚夜はしばらくそのままパソコンをいじっていたため、透は買ってきたパンを臨に渡しながら自分を座って食べる。


 「あの」


 「ん?」


 「扇谷さんと炉端さんって、お友達なんですか?」


 「お友達・・・?んー、難しいな。お友達っていうより、仕事仲間?俺はちーちゃんのプライベートには踏み込まねえし、ちーちゃんも俺のプライベートには無関心だし?ただ利害が一致するから一緒にいる。おかしいか?」


 「いえ、そういうわけでは。もともと、僕が助けられたのは、炉端さんを助けに来たからですよね。捕まったら扇谷さんだって危険なのに、それでも助けに来るなんて、余程信頼関係がある昔からのお友達なのかな、と」


 臨の言葉に、透は首を傾げた。


 何に対して首を傾げているのかは分からなかったが、口の中がもさもさしてしまった透は、コーラを流し込む。


 数回咳こんだあと、またパンを口に放り込みながら言う。


 「俺はただ、利用価値のあるちーちゃんが必要だっただけ。実は数人、試しに一緒に仕事してたんだけど、やっぱりちーちゃんには敵わねえ。だから助けに行った。この計画を遂行するには、絶対に必要なスキルを持ってたからだ」


 「・・・利用価値、ですか」


 「こいつだって、俺に助けてもらったなんて思ってねぇ。だろ?だからこうして俺はパシリで使われてるわけだ。ちーちゃんはただ、自分のスキルがどこまで通用するのかを知りたいだけ。そのためには、俺みたいな無鉄砲者が必要。ギブアンドテイク。分かる?」


 「・・・・・・」


 臨は納得していないのか、それとも理解出来ていないのかは分からないが、首を縦に動かすことはなかった。


 理解してほしいとも思っていない透は、買ってきた食料に次々手を伸ばした。


 その時、稚夜がようやく口を開いた。


 「ラーテル、これ」


 「あ?何?」


 「3日後、逃げ出した奴らを一斉に狩る計画。保健所から警察にそういう話があって、警察側も会議の結果、それを実行することにしたってさ」


 「狩り?ハンター気取りか」


 「ま、逃げた奴らは全員GPSで居場所突きとめられてるだろうし。このまま逃げ続けることは不可能。他の保健所に連れて行かれて、そのまま殺処分だろうな」


 「警察も動くってことは、警察、保健所職員、警備員、執行人も交えて狩りが始まるってことか?とすると?」


 透がそこまで言うと、パソコンをカタカタし始めた稚夜が答える。


 「保健所職員と警備員、それに執行人はある程度エリアが決まってるけど、警察が介入するとなると、そのエリア自体が大幅に広がるな」


 「面倒くせぇな。さすがにあの人数に囲まれたらちょっとなぁ・・・。どのくらいの人数が動きそうだ?」


 「保健所職員は、責任者を含めた20人、警備員は35人、執行人5人、警察は・・・300人体勢って書いてある」


 「そんなことで人員割くなよ」


 「そんなことではないからな」


 あまりの人数の多さに、透は舌打ちをしていた。


 その人数が目的と比較してあっているのかは分からないが、それでも、あまりにも多い人数であることは分かっていた。


 1人探すだけでも大変だった時代とは違うというのに、これだけの人数を集めているのはきっと、逃げ出した人たちがそれと同等の人数いるからだろう。


 何人逃げ出したのか、詳しいことは何も報道されていないため、実際何人がいなくなっており、何人が殺処分されいるのかは定かではない。


 というのも、奴隷制度や殺処分が認められるようになってすぐに頃には、今日は何人捕まったとか、何人殺処分されたとかの報道があったのだが、それから数日も経たないうちにそんなもの報道されなくなった。


 理由は簡単で、誰も興味など持っていなかったから。


 家族の誰かが死んでしまっても、死んだと分かるのは殺処分された後、届けられる一枚のハガキに書かれた一文だけ。


 ―認証番号×××××××・・・○の殺処分が終了しました―


 そこには名前など書かれておらず、生まれてからずっと呼ばれていた認証番号が載っている。


 最初はこのハガキさえ届くこともなく、死亡届を出せないという家族がいたために、殺処分後、処分したという内容のものを出すきまりとなった。


 「そうそう。俺、あの責任者に会ったぜ」


 「責任者って、確か、古守陽っていう」


 「それそれ。見るからに厭味な感じの奴だった。ありゃ結婚生活も上手くいくはずねぇって。これは俺の勝手なイメージだけどな」


 「その古守陽、昔から仕事は出来るけど人間関係は上手く築けない奴だったみたいだ」


 そう言ってきたのは、何かを調べていた稚夜だ。


 どうやら、古守陽隆介のことを調べていたらしく、それも、奴隷制度が始める前の職場のことまで全て。


 一流企業に就職したものの、周りの人と上手くコミュニケーションを取れないというか、自分よりもレベルの低い人間とは関わり合いたくないと、初対面で断言したらしい。


 それがきっかけなのか、古守陽に話しかける人も少なく、仕事は完璧なのだが人間性に問題があるという理由で、評価はそれほど高くなかった。


 しかしAIが導入されてからというもの、古守陽の評価は一気に変わった。


 スピードや完成度、文章作りやグラフ作成、会議、とにかくそういったことでは何も問題がなかったため、AI評価では断トツで一番になっていった。


 そして奴隷制度が開始されると、殺処分の最終経過として、最後のスイッチを押せない人達が大勢いた中、古守陽は研修段階で躊躇なく押したそうだ。


 その無とも言える感情がその仕事では必要不可欠だと、保健所職員として就職することが出来た。


 だが、古守陽が一流企業で働いている間から一緒にいた同期が、なぜだか古守陽よりも先に統括責任者となってしまった。


 さすがに文句を言うのかと回りは思っていたそうだが、そういったことは一切なかったそうだ。


 その代わり、その同期が休みの日や不在の時には、古守陽が仕切るようになった。


 あまりにも強引なやり方に戸惑う者もいたが、反面、そのやり方に同意する者も沢山出て来たとかで。


 しまいには、まるでカルト教団のようだとさえいわれる団体となってしまった。


 「同期の生温いやり方が気に入らなかったってことか?」


 「それだけじゃないと思う」


 そう言って画面に出されたのは、同期の男と古守陽の写真。


 そこに映し出されているのは、昔の古守陽のようなのだが、ただ1つはっきりしていることは、古守陽の隣に映っていたはずの女性が、同期の男と一緒に微笑んでいること。


 いわずもがなだが、きっと最大の理由はこれだろう。


 「昔のかみさん取られた腹いせに失職させるたぁ、随分陰険なこったな。女同士の闇深いのは御免だが、こういうしょうもねぇ仕返しも御免だな」


 「前の奥さんと同期が再婚したことを知って、さらには子供まで出来たから、糸が切れたんだろう。こういう真面目な奴に限って、ねちねちといつまでも根に持つんだよ」


 「その点、俺はさっぱりしてるだろ?昔の女のことなんて忘れちまうもん」


 「というか、お前が女といたところなんて見たことないけど」


 「俺があまりに偉大だから、女の子が近寄ってこられないんだよ、ってことにしてもいいかな」


 「勝手にしろ」


 ふと、透が臨の方を見てきたため、臨は思わずびくっと肩を震わせた。


 何も言わずにどんどん近づいてきた透は、臨をじーっと見た後、こう言ってきた。


 「そういやりん、お前家族は?」


 「え?」


 「家に帰らねえってことは、家族がもうすでにいねぇか、もしくは、帰ったところで保健所か奴隷収集センターに連れて行かれることが分かってるからだろ?でもまだ未成年っぽいし」


 「そういうことは、ちょっと・・・」


 「家族はいる。全員生きてる」


 プライベートのことだと、臨は透の質問に対して解答を濁らせようとしたのだが、稚夜が先に答えてしまった。


 プライベートのことには首を突っ込まない、というようなことをつい最近聞いた気がするのだが、そんなことお構いなしに稚夜は話して行く。


 「歳は俺達より8つ下。家族構成は父親、母親、姉、妹、それからペットのハムスター。父親は大企業の人事部で働いていたが、AI導入によって解雇され、その後はAIを監査する仕事に就いた。母親も同じ会社で働いていたが、同様に監査役として抜擢され、今もそこで働いてる。姉はAIを製造するAIの管理を任されていて、妹は下請けで働く。父親も母親もこれだけ優秀なら、お前1人が保健所に捕まるなんておかしな話だな」


 「・・・プライベートには踏み込まないって言ったのに・・・」


 「あれ?言わなかったっけ?俺とちーちゃん、互いのことはよおく知ってんのよ。だから、調べる必要はない」


 「聞いてません!!」


 その間もカチカチと稚夜がパソコンをいじっているため、臨は無意識に稚夜に近づいて調べるのを止めさせようとしたのだが、それに気付いた稚夜に銃を向けられ、吸盤のついている何かが額にくっついた。


 それを取ると、額にはまだ赤い痕がついているらしく、透が楽しそうに笑っていた。


 稚夜は鬱陶しそうに、収監されている間に少し伸びてしまった前髪をいじっていたが、目を向けずに引き出しに手を伸ばすと、そこから大きめのヘアピンを取りだした。


 そしてその髪を適当にまとめあげて止めると、再びパソコンをいじる。


 「ああ、お前養子なのか。だからお前だけ奴隷制度に加入させられて、1人で保健所に連れて行かれたってことか」


 「養子?ガキがいたのになんで?」


 「男がいなかったからだろな。上も下も女だと、一昔前じゃ跡継ぎがいないって、女の人は結構言われたらしいから」


 「別に女が継いでも良くね?」


 「男尊女卑が消えてないってことだろ。養子として迎え入れられたけど、期待に応えられるほどの力量はなかった。見切りをつけられたんだな」


 稚夜の推測が当たっているようで、臨は下を向いてしまった。


 女しか産まれた無かったのなら、無理して養子を引き取らなくても、結婚すればその相手を跡継ぎにすれば良かった。


 しかしそうまでして養子が欲しかったのは、自分の子供じゃない男に全て奪われるくらいなら、養子でも良いから自分の子供として育てた子供を、と考えたらしい。


 とはいえ、奴隷制度が作られてからというもの、養子を取る人達はめっきり減ってしまったため、登録数が少なかった。


 その中から選んだのが臨らしいのだが、臨は勉強も出来ないし運動も出来ない。


 リーダーシップとしても能力がないと判断され、1人だけ、奴隷制度に登録させられてしまったのだ。


 「それは分かったけど、じゃあ、産んだ親はどこだ?りんの認証番号に載ってる住所は、その養子の家ってことだろ?」


 「母親は産まれてすぐに死亡。父親も仕事を解雇されて自殺」


 そんなことまで調べられるのかと、臨は少しだけ稚夜を恨んだ。


 確かに、自分を産んでくれた母親はもともと病気がちで、臨を産んですぐに死んでしまったのだ。


 そして父親も、必死になって仕事を頑張ってきたというのに、AIが導入されてしまってからというもの仕事がなくなり、どこに頭を下げても雇ってもらえなかったため、自ら命を絶ってしまった。


 まさかそんなことを、養子でいた家の人にも話したことなどなかったのに、数日前に出会ったばかりの男たちに知られることになろうとは、思ってもいなかった。


 ならばと、臨は透と稚夜についても教えてほしいと言ったのだが、それとこれとは話は別だと言われてしまった。


 稚夜はと言えば、人のことを勝手に調べるだけ調べておいて興味がなくなったのか、新しく開発されているAIの情報を得るべく、どこかの会社をハッキングしていた。


 透はソファに座ると、稚夜から受け取った最後の保健所の内部のことが事こまかに書かれているデータを見ていた。


 それは先に臨も見たものなのだが、はっきりいってこれを覚えて侵入するなんて、無謀としか思えない。


 それでも、透はだいたいの場所や動き、人数などを把握してから侵入し、頭の中で作られた地図を元にして、稚夜からの指示を受けているらしい。


 そして10分ほどすると、透は大きな欠伸をして、先にシャワーを浴びると言って消えてしまった。








 そして、警察を含めた300人以上が一斉に狩りを始めるその日がきた。


 稚夜は朝から忙しそうに、というのは語弊があるかもしれないが、複数あるパソコンを移動しながらいじっていた。


 そこには、警察だけでなく、保健所職員や警備員、執行人たちが揃っている画面もあり、いよいよこれから始まってしまうのだという緊張感がおとずれる。


 これだけの大人数が狩りを始めるとなれば、きっと保健所の殺処分場は多少なりとも手薄になるはずだと、透は臨を連れてまたしも爆破させるために忍びこむこととなった。


 逃げ出した者たちも動きが鈍くなるだろう夜を狙っていたため、丁度都合が良かった。


 『今開始した』


 「はいよ。こっちも始めるか」


 明らかに手薄になり、AIだけになっているここは、あまりにも楽に入ることが出来た。


 稚夜が動きを止めてしまったAIはただのロボットでしかなく、目の前を歩いても何も反応することはなかった。


 そしていつも通り、全ての収監された人達を逃がそうとしていると、稚夜から急に連絡が入った。


 『狩りが始まってない』


 「はあ?どういうことだ?」


 『警察は狩りを開始したんだけど、警備員、保健所職員、それから執行人たちはみんなそっちに向かってる』


 「間違いないのか」


 『間違いないね。そいつら全員のGPS辿って、監視カメラでも確認してるけど、そっちに行ってる。急いだ方が良い』


 「俺が仕掛けた盗聴機は?何か言ってなかったのか?」


 『多分妨害されてる。情報漏洩を恐れてつけたんだろう』


 「しょうがねえか。わかった。やれるとこまでやったらすぐこっから逃げる」


 『お・・・だと・・・』


 「?ちー?」


 ザザ、と雑音が入ってきてしまい、それ以上稚夜と会話することが出来なくなってしまった。


 電波妨害されているのだろうと、透は急いで爆弾をしかけ、そこから出ようと考えた。


 そして入り口付近の大きめな玄関のような場所に来た時、入口から一度見たことのある男が入ってきた。


 「ようやく餌に食いついてくれたようだね。君が首謀者というわけか」


 「・・・これはこれは、古守陽統括。そんなに大勢の野郎どもを引き連れて、どうなさんで?」


 「なに、警察が囮となって狩りを始めたから、そろそろ獲物が捕まるかと思ったんだ」


 「・・・・・・」


 ざざ、と警備員や保健所の職員たちに囲まれた透と臨だが、そのとき、透の後ろにいた臨が警備員によって確保されてしまった。


 透のことも捕まえようとしたのだが、むやみに近づかない方が良いと古守陽に言われたため、みな距離を取っていた。


 捕まってしまった臨にちらっと目を遅らせるが、透は鼻で笑う。


 「そいつを人質にして俺も捕まえる心算か?なら残念だな。俺とそいつは最近会ったばかりだ。別にそいつがどうなろうが、知ったこっちゃない」


 「なっ・・・!!」


 透の言葉に驚いたような、ショックなような顔を浮かべた臨。


 一方、冷静な顔つきのままの古守陽は、目線だけで何かを伝えると、保健所の職員はすぐさまあの機材を持ってきて、それを臨の首に当てた。


 「認証番号確認出来ました。以前、逃げ出した7931065BYAぬに間違いありません」


 「データを」


 そう言って掌を上に向けた状態で待っている古守陽のもとに、保健所職員が急いで何かのデータを渡す。


 指の爪ほどの小さなメモリーを、はめている腕時計に装着すると、そこには臨の過去の記録が全て載っていた。


 それを一通り眺めたかと思うと、古守陽はこんなことを言った。


 「助けるに値しない。なぜこの男を逃がした?」


 「何のことだ?」


 古守陽の質問に、透は飄々と答える。


 「以前、執行人を気絶させてある男を逃がしたのはお前だろ。一緒にいるその男が証拠だ。しかし、その男は助ける価値はない。それなのにどうして連れていったのか、知りたいだけだ」


 「助けるってか、別に逃げようとしたときにそこにいたからだ。俺の姿も見られちまったし、あんたらにバレるのは嫌だったんで」


 「なるほど。しかし、なぜGPS機能が作動しなくなってしまったのか、それは説明してもらえるかな」


 「それはネタバレってもんだろ。映画だって、結末知っててわざわざ観には行かねえだろ?」


 挑発しているわけではないのだが、まるで挑発しているかのような透の態度に、周りの男たちは銃を向けた。


 このままではハチの巣になるが、それでも透は平然としたまま、古守陽から顔を背けようとしない。


 「くく・・・」


 そう思ったのも束の間、透が大きな声で笑い出した。


 一体何事だろうと、きっと透以外の人間はみな思っただろうが、当の本人は腹を抱えたまましばらかく笑い続けていた。


 そしてようやくそれが収まったころ、透は笑いすぎて目に涙を溜めていた。


 「いや、悪い・・・。あんたら、俺の事何警戒してるのかは知らねえけど、そいつは弱いから大丈夫だって。さっさと連れていって、殺処分なりなんなりしろよ」


 「なんで・・・!!」


 臨の目に、冷たい表情の透が映る。


 「なんでって、俺達はそういう関係だろ?」


 「え・・・?」


 何を言われているのか分からない臨は、それが顔に書かれていたようで、その考えを読みとった透がまだ笑いながら答える。


 「言ったろ?利害が一致するから一緒にいるだけだ。とはいえ、お前の場合は利害が一致したとしても、役には立たねえからな。一緒にいたところで意味がねぇ」


 「そんな・・・!!」


 「いいか?だいたいな、頭も使えねえ、運動も出来ねえで、一体お前は何が出来るんだ?それでよく俺と一緒にいようなんて思ったな?俺といたかったらな、ある程度の知識なり教養なり、何かしら身につけてから言えってんだよ」


 「・・・・・・!!」


 それは、以前何処かで誰かに言われたのと似ていた。


 本当の家族がいなくなってしまい、養子として別の家族と一緒に暮らせることがわかり、嬉しかった。


 それなのに、マナーや技術、知識は当然のことながら、スポーツも出来ないことが分かると、一気に距離が離れていった。


 一週間、経った一週間で、養子から奴隷へと変わってしまった。


 臨が奴隷として働き、また、そこから逃げ出して保健所に捕まり、迎えも来ないためそのまま殺処分となったときも、誰一人として助けには来てくれなかった。


 あとはただ、毎日毎日、いつ自分が死ぬのかと考えて生きているだけだった。


 1人、また1人と同じ収監部屋にいた人たちは少なくなっていき、ついに自分が殺処分されるというとき、ただそれを待っているだけの時間がいきなり止まった。


 開いた扉から出て来たのは、怖い顔をした執行人ではなく、透だった。


 そして何も分からぬまま、一緒にいた。


 勝手に懐いていたのかもしれないが、あんなことを言われるとは思ってもいなかったため、臨の中には色んな感情がいたるところから顔を出していた。


 その時、臨を捕まえていた警備員が、まだ抵抗しようとする臨の首に、麻酔針か何かを刺そうとしていた。


 透はすぐに銃を出して、臨の足元を狙って撃った。


 「!!」


 何の躊躇もなく自分の足に撃ち込まれた銃弾に、臨は呼吸を忘れてしまった。


 心臓が必死になってドクン、と一回波打ったことで、呼吸を思い出した臨は、さらには自分の足から血が出ていることに気付いた。


 「何の真似だ!!」


 銃を向けてきた透に怒号を浴びせる警備員に、透は銃を向けたまま話す。


 「なんなら、俺がそいつを仕留めてやろうか?どうせすぐに殺処分だろ?誰がやっても同じことだ」


 「殺処分が許されているのは我々執行人のみ。その銃を下ろしてもらおう」


 「・・・勘違いしてんじゃねぇよ?」


 「なに・・・?」


 銃を臨の方に向けたまま、透は顔だけを古守陽の方に向ける。


 「これは殺処分じゃねえ。ただの殺人だ。なら、許可はいらねえだろ?」


 「・・・ここで取り押さえられてしまうが、それでもいいなら」


 「構わねえよ。どうせ俺のことだって捕まえて、殺処分する心算なんだろ?」


 「ああ。それともう1人、誰だか分かってるね」


 「さあ?」


 ニヤリと笑いながら話す透は、銃口を臨に向けたままだが、この時、臨は透の持ってる銃が、稚夜が作った改造銃かどうかを考えていた。


 何しろ、まるで玩具のような銃もあるが、見た目はまったく区別つかないほど、重さもてかりも同じなのだ。


 本当は玩具の方だと信じたいのだが、何しろ、先程自分に向けられたのは紛れもなく本当の銃だったため、多分、銃弾の入った本当の銃だろう。


 臨は、もう諦めるしかないと思った。








 透が、銃を撃った。


 それは臨と、臨を捕まえていた警備員の足に直撃し、小さめの身体と大きめの身体は同時にその場に倒れてしまった。


 歪んだ視界には、自分を見下ろして無表情のままでいる透の顔。


 臨と目が合うと、透は口角をあげた。


 「ほらな、こんな奴、俺と仲間だと思われちゃ困るんだよな」


 いよいよ、臨も我慢できなくなってしまった。


 少し掠めただけの身体を起こすと、透のほうに詰め寄って行く。


 そして自分よりも背の高い透の胸倉を掴みあげると、出来る限り強い声で言った。


 「見損ないました!!僕のことも殺そうとするなんて!!!」


 「お前を助けたのは気紛れだって、聞いたはずだ」


 「だからって!!」


 「うるせえよ」


 そう言うと、今度は透が臨の胸倉を掴みあげると、小さな臨の身体は簡単に宙に浮いてしまった。


 足が地についていないと、これほどまでに不安になるのかと思うほど、あまりにも安定感がない。


 顔を近づけてきた透は、鼻で笑いながら見下すような目つきを向けて来た。


 「いい加減にしろよ。ここにいるとイライラしてしょうがねえから、さっさと俺の前から消えろ」


 「・・・!!」


 臨が反論しようとしたのだが、透が力強く放り投げたため、言葉を発することもないまま倒れてしまった。


 そして透の方を見たとき、追い打ちをかけるようにまた言われた。


 「目障りなんだよ」


 その一言で、臨はそこから走り去って行った。


 男たちが慌てて臨を捕えようとしたのだが、それよりも透の確保が先だと言われたため、断念して透の確保にあたった。


 透の手からは銃が消えており、何処にしたのかと身体を服の上から当ててみたら、それらしき物は見つからなかった。


 「両腕を後ろに回せ」


 「はいはい」


 大人しく透が捕まっている時、警察関係者が数名、その場に現れた。


 その中には啓太郎もいて、目の前で透が捕まっているところを見ていたが、特に何を言うわけでもなく、じっとしていた。


 ちら、と透と目が合うが、透はいつものように笑っていた。


 「あの男は?」


 「認証番号の確認はこれから行う」


 「ならば警察で先に」


 「保健所敷地内で確保されたのだ。我々が先に身元を調べる。警察には後から報せる」


 啓太郎の上司が古守陽の言葉に悔しそうな顔をしていたが、啓太郎はそれよりも透が気になっているようだ。


 しかし、ここで話しかけることも出来ずにいると、透はさっさと奥へと連れて行かれてしまった。


 すると、別の警察官が古守陽に言う。


 「これまでの爆破もあの男の仕業とすると、ここにも爆弾が仕掛けられているかもしれません。確認と、見つかり次第撤去をお願いします」


 「こちらで処分します」


 「・・・わかりました。では、そのように」


 警察が出来ることは、本当に少なくなってしまった。


 啓太郎も上司も、大人しくその場から去って行くことになった。








 その頃、秘密基地に戻ってきていた臨は、怒り奮闘といったところだ。


 「信じられません!!僕のことを撃つなんて!!どういうことなんですか!?短い間ですけど、多少なりとも少しの感情があると思ってました・・・」


 この感情をどうしたら良いのかわからないまま、臨はしばらくその場で貧乏ゆすりをしていた。


 そして少し経った頃、ずっとその揺すりが気になっていたのか、ようやく口を開いた稚夜。


 「それ止めろ」


 「すみません。でも!!酷いと思いませんか!?炉端さんだって、きっと扇谷さんに利用されてるだけなんですよ!!あの人、自分にとって良いように人を使うだけなんです!」


 「・・・・・・」


 「あの人を信じてついていった僕が間違ってたんです。もっと人を見る目を養うべきでした。本当に信じられない!!」


 「それで、あいつを見捨ててきたのか」


 「先に見捨てられたのは僕ですよ!?殺されかけたし!!」


 「でも、逃げて来られただろ」


 「え・・・?」


 相変わらず臨の方など一切見ないが、稚夜はようやく復元出来た何かのデータを眺めていた。


 そこに映し出されている映像には、何か怪しい動きをしている男たちが映っていた。


 お菓子を口に入れながら、稚夜は続ける。


 「俺との連絡が出来なくなって、危機的状況だった。あの場所からお前を連れて逃げ出せる確率は・・・高めに見積もっても50:50ってことだな。あいつは博打はしない。より確実は方法を選んだ。それが、お前を先に逃がすことだった」


 「で、でも・・・!銃で!」


 「お前を解放させるためだろ。お前よりもあいつを捕まえたいと古守陽が思ってることを、あいつは知ってた。だからお前を逃がす為に演技をした。お前があいつを助けようとしない為にな」


 「・・・そんな」


 「まあ、妨害されることを前提として作戦を練ってなかったラーテルのミスでもあるけど、危機を回避したのはさすがだな」


 「回避って・・・」


 「いいか、お前は足手まといだったんだ。それを理解しろ。1人で助けに行こうなんて思わないことだ」


 「じゃあどうすれば!!このままじゃ、殺処分されてしまいます!!」


 ふう、と稚夜はがさがさお菓子の袋の山を漁ると、そこからガムを取り出して口に入れた。


 そして風船を作ると、珍しくパソコンから目を逸らして座っている椅子をぐるっと反回転させ、臨の方を見て来た。


 パンッ、と風船が割れると、それをまた口の中に入れて噛みだす。


 「大人しく待て」






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