第14話 力の差を思い知る
天狗は動かない。
「ぐぁぁぁぁぁーーーーーっ!」
その時
「何に気を取られておる。それこそが命取り!」
全てがゆっくりと動いている様に見える。
天狗の赤い瞳が
「お前の力はその程度ではなかろう? お前が真の姿を取り戻せるよう、お前が守りたいと思っている全てのモノを奪ってやろう。お前はいつの日か我々と共に歩むのだ」
ドドドドドドっ。
吹き飛ばされ屋根を貫く己の背中の痛みに、力の差を思い知らされる。
「くっ……」
「そして、
ドーーーーーーーン。
土埃を上げ
その時、遠くへ消えていく鳥の羽ばたく音が聞こえた。天狗が去って行ったのだ。
『あの蒼い髪の娘は殺すな』と言った
―― かなわなかった……。もう、体が……動かぬ。
「
「れ、
―― ……!
刀を握った右腕を動かし、地面に食い込んだ体を動かしていく。産まれて初めて味わう痛みにどうにかなってしまいそうな己を奮起し、
「
「泣くな……へ、へへ。お前もボロボロだな」
「しゃべるんじゃないよ。
「あぁ、生きてる」
「早く手当てをしないと……頑張るんだよ、
そう言うと、力任せに傷口を押さえる。が……
早くこの場を去らなければ。しかし傷ついた
「若ーーーーーーっ、若ーーーーーーーっ!」
遠くの方から多くの人の足音が聞こえる。味方の軍勢が到着したらしい。
天狗が去ったことで、この遊郭に足を踏み入れることができたのだ。
すぐに、地面に倒れ腰を抜かしている裸の男は見つけられるだろう。
「れ、
「しゃべるんじゃ」
その手は暖かく力強かった。
「泣くな。笑って……送り出してくれ。くっそ、痛え……げほっ」
「
「お、お前に頼みがある……。これを、
震える手で
「嫌だ! 自分で渡すんだ! 絶対に受け取らないっ」
「わかったから、バカ
その時、扉が開き見知らぬ男が現れた。
「ありゃ~派手にやらかしましたね」
「あんた!?」
「姐さん、お久しぶりです。挨拶はここまでにして、取り敢えずここを出ましょう」
男は背中に長い銃を担ぎ、じゃらじゃらと肩から銃の玉の様なもの下げていた。
「やっぱりあんただったんだね。入り口の結界術。よく無事でいたもんだ」
「そんなに嫌そうな顔しなくても。昔の事なら謝りますから」
男は屈みこみ
それでも血はじわじわと滲んでいく。
「早く出ましょう。もうすぐ早川さまの手の者が、ここを見つけ出すでしょう。我々だけならともかく、このお嬢さんが見つかったら厄介だ」
そう言うと、
「信じて良いんだろうね」
「今は他に選択肢がないでしょ? 早くしないと死にますよ」
男はしれっと怖いことを言う。
確かに、
「わかった。あんたを信じてついていくよ」
「そうこなくっちゃ! 善は急げだ」
「でも、
それを聞いた
「本当にキモい男だよ。さぁ、
外ではふんどし姿の哀れな次期当主の救出劇が行われ、花魁、遊女の遺体の回収が始まっていた。
夢を売る遊郭が
※ ※ ※
「
騒動が起きてから数日、
「姐さん、調子はどうです?」
「あぁ、
二人の布団をそっと直し、
「今回は本当にありがとう。助かったわ」
「いやいや、俺と姐さんの仲じゃないですか。水臭い。ところで……あの親父は、姐さんのコレですか?」
「馬鹿なこと言わないでおくれ。今回の依頼を頼んだ手前、捨て置けないだけさ」
「ふ~ん。なら大丈夫ですね」
「何がだい?」
怪しい空気を感じ、
「今回の件、知る者はあの二人だけです?」
「何が言いたい?」
爽やかに微笑む男、この笑顔が一番ヤバイということを。
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