第13話 恋音の目覚め
あの時、女郎蜘蛛と化した妖女の想いが刀を通して流れ込んできた。『何故こうなってしまったのだろう……私はただ愛を信じただけなのに』と彼女は泣いていた。
悪いのは
生前の彼女と向き合い支える者が傍に居たのなら、また違った道があったはずだ。
「お前はいつまで傍観しているつもりだ?」
「何?」
「ここへ降りてきて、私と戦えば良いではないか」
その間に
天狗は表情を少しも変えず、ゆっくりと降りてきた。
「仲間を逃がしたか。愚かな」
「……」
「お前らごとき、この八手ひと振りで一掃出来るというのに。あの蜘蛛女の情に触れたか? 憐れんだのか? ふん、バカバカしい。お前があの女を憐れんだとて、なにも変わらぬ」
パチパチと木が燃える音が聞こえる。このままでは建物が燃え落ちるだろう。
天狗の勝ち誇った顔が炎に照らされ、不気味に歪んで見えた。
「我らと共に来ぬか? 私ならお前の力を存分に引き出してやれる」
「何の事だ」
「お前の中にある、『恨み、妬み、哀しみ』それを力に変えるのだ」
天狗の声に反応するように刀が妖しく輝きを放つ。
あの時、確かにあの妖女に母を重ねていた。早く楽にしてあげなければならないと、心をよぎったのは本当の事だ。しかし……。
「私は……お前たちとは違う。命を懸けてでも守らねばならない仲間がいる。信じている者たちがいる! 例え辛くとも、哀しみに支配されようとも、私はお前たちのように人は殺めぬ!」
「ははははは、甘い。ならばこうしてやろう」
そう言うと天狗は大きな羽を羽ばたかせた。
風に煽られ火の勢いが増し、部屋の中でこと切れた者たちを飲み込んでいく。
「止めろ!」
「まだ足りぬか? 哀しみをそして怒りを力にすれば良い。本当の自分を見せてみろ」
天狗の羽が大きく開いた。再び風が起きれば彼らは灰になり飛び去るだろう。
墓に埋めてやることも出来ない。
その時
「ほぉ~」
「これ以上傷つける必要はあるまい。神として奉られたお前が何故人を傷つけるのだ? 私は許さない。人の命を奪う権利は神であろうとも、誰にもない!」
そう言い放つと、
だが天狗は意図も容易く攻撃を回避する。
「私たちを、ナメるな!!」
「くっ……」
「斬り抜くと見せかけて、目を狙うとは……なかなか見込みがある。敵側に置いておくのは惜しいのぉ」
天狗は羽ばたき梁に飛び乗る。
「逃げるのか!?」
「逃げるとは、これまた面白いことを言う。
「何度も言わせるな! 私はお前たちとは違う!」
「ならば力ずくでモノにするのみ」
「なにっ」
天狗はさらに高く舞い上がる。
そして手に持つ八手を振り上げた。
「最後の一振り、お前のために使ってやろう」
そう言うと大きく降り下げられた八手から、無数の羽が放たれた。
それは鋭い矢となり下階から走り去る
「
その時、人質の裸男を背負っている
迷っている暇はなかった。
背負っている男の手を離し地面に投げ出すと、槍を目の前で回転させた。
それを見た
カンカンッ。
刀に矢が弾かれる音が響き渡る。
「くくくッ」
「
ピタリと時間が止まった。
いや、それは止まったように見えただけだった。
「
「……」
しばらくすると
何が起きたかは明白だった。天狗の放った鋭い羽が矢のごとく
頭上から天狗の声が響く。
「愚かな。その男を庇い何になる。ま、良い。
そう言うと天狗は念を唱え始めた。すると突き刺さった羽がさらに奥深く突き刺さっていく。
「ぐほっ」
「「
額につけられた
「く……あたしの力は、お前を守れないのかい?
腰が抜けたボンボンを無理矢理立たせ「死にたくなけりゃ、動くんだよ!」と大声を発し、
「
「ぐぁっ……」
「あたしはここに術をほどこす。アイツの念が届かないようにね。頼んだよ」
そう言うと腰の袋から道具を取り出し、小さな声で呟いた。
「死なせないよ」
――
「お前は神でも何でもない!! 人を傷つける、ただの外道な
そう叫ぶと
天狗に空高く羽ばたかれてはなす術もなくなる。チャンスは一度。
―― この一撃で仕留める!!!
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