第11話 戦う相手は
あの天狗が舞い降りてから、明らかに場の空気がかわった。肌にピリピリと重たいモノがまとわりつき叫びたい衝動にかられる。
身体の芯が燃えるように熱くなっていくのが分かった。
「よ、待たせたな」
「
「きっと天狗の力ね。それに夜になれば奴らはもっと力を増す。厄介ね」
「日が落ちる前に片付けようぜ」
すると上から物凄く耳障りな、苦痛を詰め込んだ声が聞こえた。
「ひぃぃぃぃぃっ」
「ウギャぁぁぁぁぁぁッ」
それと同時に最上階の
それらは地上に到着する前に塵と化し消え去った。
「な、なんだ!?」
「くくくく、来客とは面白い」
「て、天狗!?」
宙を浮くのはまさしく天狗だ。低音と高音をあわせ持った声が、さらに一層恐怖を誘う。
「ほぉ……、ここまで来ることができた輩がいるとは。どうやら約束の金を持ってきたわけではないようだが」
天狗の後ろ、
何処から見ても人間だ。ちょっと遊郭に遊びに来ました、という風貌で背中には三味線を背負っているように見える。
「面倒だな。天狗、遊んでやれ」
「承知」
天狗は腕を組み頷く。
神と言われる天狗を意図も容易く動かす男に、
「くそっ。どうするんだ?」
「どうするって、祓うしかないでしょ」
「来る!」
すると何処から沸いたのか
「ここは俺が! お前たちは人質を」
「なに言ってるんだい、バカ! あんたが一番弱いんだから」
襲い来る
一体、また一体と
「くそっ」
「キリがないわね。
屋敷内を走りながら刀を抜き、襲い来る
「ギャーーーーーーーーッ」
悲痛な声を発し倒れていく
身体中が刀と一つになった様な高揚感が
いったい何体の
階段をのぼりきった所に、先程の男とは違う黒い具足の男が
「退いてくれ。私は人間を手にかけたくはない」
「ほぉ、随分な自信だな。私に勝てるとでも?」
男は落ち着きのある声で
「もう一度言う。そこを退いてくれ」
「中に入ってどうする? あの能無しのボンボンを助けて、お前たちに何の得があるのだ?」
「損得の問題ではない」
「やめておけ」
男はスッと
「お前に
「何?」
「敵ならば、人を斬らねば生きていけぬぞ」
そう言うと男は障子を斬り倒し飛び降りた。
「待て!」
下に控えていた馬に飛び乗り、男は裏門を駆け抜けていく。その音に気付いた天狗が廊下めがけて鋭い風を放った。
風は刃となり部屋の壁、障子を突き破る。お陰で視界が開き、中の様子が一望できた。
「ひぃぃぃぃぃっ」
そこにはふんどし姿の男と、先程
「ひどいことを……」
「ひぃえぇぇぇぇっ」
裸の男は
「ほぉ~、先程は分からなかったが、お前……
三味線を背負った男が珍しいモノを見る目で、壁際にいる
その後ろには天狗が腕組みをし、こちらをうかがっている。
「違う。お前が
「
「その男なら逃げたぞ」
刀を握り直し話ながらも、
その裸の男は恐怖のあまり失禁した上に、口から泡を吹いて倒れていた。腹の動きを見る限り、息はありそうだ。
「はははははははは。逃げたか」
「あぁ」
「そうか、面白い。
その時、下層からドスドスと大きな足音が聞こえてきた。
「酔狂な輩が多いな」
やれやれとため息をつく
「
傷を追った
「お、お前ら……許さねぇ」
直ぐにでも斬りかかる勢いの
「やれやれ……雑魚が」
スラッとした苦労知らずの優男といった雰囲気が、この場に違和感を与える。
「お前の名は、
すると
「天狗! 俺は気が変わった。その男はもう用済みだ、お前にくれてやる。あの蒼い髪の娘は殺すな。いいな」
「承知」
「それでは、
そう言うと
「な、何? 消えた!?」
「あいつ……何者なんだい!?」
「はははは、もう良いか? 私はどうやら好きにして良いらしいのでな。せいぜい楽しませてもらうぞ」
「くっ……」
「いくぞっ」
耳障りな高音と低音をあわせ持った声で、天狗が叫ぶ。手に持った八手を大きく振り上げた。
すると大きな風が天井を空高く吹き飛ばす。
「ははははは、これで思う存分動けるな」
「お前は、神の遣いではないのか!? 何故人を殺める」
「お前に関係なかろう? ならば私からも問おう。お前は
その時だった。
「こいつは
「ほぉ~。そうか、そうであるなら我らの敵ということだ。ならば遠慮は要らんな。お前ら弱き者などこの八手、3振りでかたがつく。約束しよう。3振りだ。さぁ、かかってくるが良い」
天狗の不適な笑い声が響き渡った。
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