第3話ただ、生きよう
ラグナロク弐
ただ、生きよう
雲の向こうは、いつも青空。
ルイ―ザ・メイ・オルコット
変革せよ。変革を迫られる前に。
ジャック・ウェルチ
第三昇【ただ、生きよう】
「平和だねぇ」
「そうか?」
「平和だよ。あのガラナとの激闘から早一週間・・・。こんなにのんびり過ごしたのは久しぶりだよ」
「お前はいつものんびりしてるだろ、鳳如」
鳳如と煙桜は、縁側に座っていた。
ガラナのせいでめちゃくちゃになった鍛錬場を始め、鬼門の見直しもされた。
四神の傷もほとんど治ったようで、すっかり元気になっていた。
とはいえ、あれほどまでに完敗してしまったガラナを思い出すのか、それぞれが鍛錬を続けていた。
これまでにも鬼とは戦ってきたが、それとは全く違う別格の強さだった。
後から聞いた話によれば、ガラナはあの大罪人たちの中でも異形だったジョーカスとやりあえるようで、以前衝突した二人は、どこかの星を一つ滅ぼしたとか、滅ぼさなかったとか・・・。
そういう情報は早くくれと思いながらも、二人は同時に煙を吐いた。
「さて、そろそろ寝るか」
「ああ」
すでに日付は翌日になっているのだろうが、二人はそれぞれの部屋へと向かう。
問題が起こったのは翌日だった。
「帝斗様!大変です!」
「あ?どうした?」
「どこから入ったのか、大量の餓鬼たちがこちらに押し寄せてきます」
「はあ!?」
それは同時に、琉峯のもとでも、麗翔も煙桜も報告を受けていた。
それは当然鳳如にも伝わり、先に四人を建物の外で待機させる。
「清蘭様」
「鳳如か。何やら不穏な気配がするのう」
「数多の餓鬼が来ております。もしかしたら、ガラナもいるやもしれません。此処は危険なので、座敷わらしと共に」
「嫌じゃ」
「い?」
先日のこともあり、鳳如は清蘭と座敷わらしを避難させようとしたが、清蘭ははっきりと断った。
祈りを続けていた清蘭は、ゆっくりと鳳如の方に顔を向けるが、その表情はいつものように柔らかい笑みではなく、決意や覚悟を持った強いものだった。
「ワシはここに残る。ここで祈ることが、ワシの務め。ここで滅ぼうともな」
「しかし」
「逃げるわけにはいかぬ。鳳如、どうかこの我儘、聞き入れてはもらえぬか」
「・・・・・・」
少しだけ威圧的に清蘭を見ても、清蘭は動じなかった。
諦めたのか、鳳如は困ったように笑いながら、座敷わらしの方に視線を向ける。
「あいつらだけじゃ心配だから、俺も向かう。ここは任せたぞ」
「うむ。任せられた」
清蘭に一礼をすると、鳳如は急いで外へと向かって行く。
その頃、すでに建物の外で待機していた四人は、徐々に空が暗くなっていくのを見ながら、目を細めて遠くを眺めた。
「あの黒い奴、まさか全部餓鬼か?」
「でしょう」
「ったく。片ぁつけるつもりか」
「舐められてるわね」
四人が見ていた真っ黒い空、まるで空に浮かぶ黒い雲のような、煙のような、それは動きながらも決してちらつくことはない。
あの塊が全て餓鬼たちだとしたら、桁違いもいいとこだ。
「あ、鳥肌立ってきた」
「何だ、怖いのか。隠れててもいいんだぞ」
「けっ。武者震いだっつの」
「それなら頼もしいけどね」
そこでようやく、鳳如が四人のもとへ辿りついた。
片方の手を腰に当て、もう片方の手はおでこにつけて遠くを見据えると、空を覆っている黒いものが餓鬼であることを知る。
「へー、あんなに連れてきたのか。こりゃ大変そうだな」
「ま、やるしかねぇな」
部屋に残された座敷わらしは、清蘭の腰にぎゅっと抱きついていた。
「本当に隠れてなくて良いのか?」
「ええ」
両手を合わせながら、清蘭は笑う。
「あ奴らが守ろうとしてくれているように、あ奴らのことを守りたいのじゃ」
「清蘭のことは、何があってもワシが守る」
沢山の餓鬼たちを引き連れてきたガラナは、すぐ目の前にある四神の建物を見て、ニヤリと口角をあげて笑う。
結界の手前まで来ると、一度止まり、中からこちらを見ている四神たちを見つめ、笑みを深める。
「さあ、みんな殺してしまおう。僕の下僕たちよ。行け!」
ガラナの声と共に、一斉に餓鬼たちが結界を破って入って来ようとする。
だが、餓鬼の中でも、まだ力のない者や不慣れな者は、結界に触れただけでその身体が燃え尽きてしまった。
だが、ガラナが結界に触れると、ぐぐぐ、と手を入れてきて、次に同じところにもう片方の手も入れる。
そこに力を入れると、力付くで結界をこじ開け始める。
「なるほどね。あれじゃ、結界の意味ないか」
「あれあり?」
ガラナがそうやって開けた個所から、餓鬼たちがどんどん中へと侵入してくる。
四神たちは構えると、札とそれぞれの武器を持って、四方向へと散らばって行く。
ついでに、という感じで鳳如も。
「こりゃまあ、どっからかき集めてきたんだかな」
北へと向かった帝斗は、札をばらまくと、そこからまるで芽が出るかのようにして、地面がメリメリと音を立てて顔を出す。
結界にまで届きそうなほど高く突き出ると、餓鬼たちは急に出てきたソレに弾き飛ばされたり、身体が分断されたりする。
それを避けたとしても、そこから大きな棘のような物が突き出てきて、その棘によって身体をさされる餓鬼も続出する。
しかし、それでもなんとか難を逃れた餓鬼たちは、帝斗を殺そうと襲い来るが、帝斗はヌンチャクと体術で餓鬼を倒して行く。
帝斗の足下で、まだ息の絶えていない餓鬼が、帝斗を捕まえようと腕を伸ばすが、その腕は一瞬にして踏みつぶされてしまった。
「大人しく死んだ方が、身の為だぜ?」
「もー。どうしてこう餓鬼ってのは節操がないのかしら。やんなっちゃう」
南へ向かった麗翔の仕掛けた札に引っ掛かった餓鬼たちは、一瞬にして灰になる。
遠くからこちらに向かってくる餓鬼に対しては、弓を引き、一撃で仕留めた。
「!」
ふと、背後に感じた餓鬼の気配に、麗翔は隠し持っていた短剣を出して餓鬼の腕を斬る。
悲鳴をあげる餓鬼だが、それでも麗翔に向かってくれば、麗翔は身軽にかわして餓鬼の身体に札をくっつける。
ぼうぼうと燃えて行く餓鬼を尻目に、まだまだ終わりそうにない攻撃をしてくる餓鬼に、麗翔は髪の毛を後ろで一つに縛った。
「ま、ダイエットにはいいわね」
西に来ていた煙桜は、咥えていた煙草を指でつまみ、ぷかーと煙を吐いた。
「だりィな、ああだりィ」
煙桜の札は、基本的には鉄を錆びさせるものだが、それ以外の物も錆びさせられる。
それは例えば人間でも、それが餓鬼でも。
札をあちこちにばらまいて置けば、勝手に餓鬼たちは錆びてしまい、しまいには粉々になって砂状になる。
煙桜は両膝を折り、額に手を置いていたが、札に引っかからない餓鬼たちが向かってくると、立ち上がりながら煙草を地面に捨て、靴でグリグリを消した。
「やられっぱなしは性に合わねえんだよ」
ニイッと笑うと、まずは真正面からきた餓鬼を蹴り飛ばした。
通常、鬼に対して体術で対抗するのは決して簡単なことではない。
しかし、これまでの経験からなのか、煙桜の体術は鬼にも良く効く。
次々にくる餓鬼も、背中に目がついているのかと聞きたくなるほど、一匹も見逃さずに蹴り、殴り倒して行く。
「餓鬼はガキらしく指咥えて寝てろ」
東にいたのは琉峯、ではなく、鳳如。
「世の中に餓鬼がこんなにいたとわね。いやー、驚き驚き」
餓鬼たちは、一気に鳳如に向かって飛びかかって来ようとしたが、途中で止まってしまった。
札がいたるところに宙に浮いて貼ってあり、札同士を繋ぐ強く細い糸によって、餓鬼たちは身体がバラバラになって落ちて行く。
しかし、自らの身体の形成を変えられる餓鬼たちは、それを見ると糸と糸の間をすり抜けていく。
「止めとけ止めとけ。怪我するぞ」
一歩後ろに下がると、鳳如は指をくいっと動かして、今まで止まっていた糸を異動させると、餓鬼の身体を真っ二つにする。
それでも近づいてきた餓鬼に対しては、鳳如から直接の鉄槌が下る。
「キリがねぇな」
その頃、自分で開けた結界の隙間から中へと入ってきたガラナは、目の前にいる男に向かってニヒルに笑うと、ゆっくりと下り立ってきた。
「ここまで連れてくるの、大変だったんだよ?ま、僕の人徳ってやつかな?」
「餓鬼は全部倒す。それに、お前も」
「生意気、かな」
そう言うと、いきなりガラナは琉峯に向かって拳を振り上げてきた。
しかもその時、その腕をドリルに変えて火花を散らせながら。
ギィィィン・・・、と大きな音を響かせながらも、後ろの岩へと琉峯を吹き飛ばしたガラナは腕を元に戻す。
そして琉峯に背を向け、どの方角から攻めようかなー、と考えていた。
ガラガラ・・・、何かが崩れる音が聞こえてきて、ガラナは後ろをゆっくり振り返る。
「人間て、そんな頑丈?」
「・・・・・・」
瓦礫の中から出てきた琉峯の手には、剣が握られていた。
先程のドリルはそれで受けたのだろうが、あまり傷はついていない。
琉峯は逆さに持つと、一気に地面に突き刺す。
すると、地面から一気に太い蔓がにょきにょきと出てくると、ガラナの周りに集まってガラナの身体を丸ごと包み込んだ。
その間に、琉峯は自己治癒力で、少し怪我したところを治療する。
太い蔓がスパッと斬られると、その中からはガラナが出てきて、切り口の部分に着地し、琉峯を見下ろす。
「僕に勝つには、あと千年くらい修行しないと無理だよ」
「千年かは知らないが、簡単に勝てないことは分かってる」
「お前はもっと利口な奴だと思ってたよ。勝てない相手だと見定めれば、すぐに逃げてくれると思ったけど、どうやら自分が強くなったと勘違いでもしたかな?」
「もう俺は逃げない」
「はあ?」
「充分逃げてきた。もう逃げ道なんて用意されてない」
剣を構えると、今度は太い蔓ではなく、それよりは細いが、人一人くらい充分に乗せられるだろう太さの蔓が出てきた。
そしてそれらはうねうねと身体をくねらせると、一つの蔓が琉峯を乗せた。
それを見て、ガラナは爪を噛む。
「負け戦なのにね」
「それは結果論だ」
蔓から蔓へと、琉峯はひょいひょいっと移動出来るが、逆にガラナに対しては鞭でも打つかのようにして強く叩きつけて行く。
それを避けながら、ガラナは琉峯に向けて続ける。
「蛾は光に群がるが、お前らも同じだな」
ひゅん、と琉峯が剣を振りかざすが、間一髪のところでガラナは避ける。
そのまま琉峯が乗っている蔓を斬った。
すぐに別の蔓に飛び移った琉峯だったが、先回りしていたガラナが大きく口を開けていて、そこから伸びてきた長い舌に身体を巻き取られてしまった。
そのまま勢いよく投げ飛ばされた琉峯だが、まるで迎えに来たかのように、蔓が琉峯をキャッチした。
「鳳如という光に群がる、立派な蛾だ」
「・・・・・・」
ガラナは地面に両手をつけると、ぐぐっと地面の中へとめり込ませて行く。
そのめり込ませた両手を持ちあげると、琉峯が出した蔓たちが生えている場所全ての地面が、ガラナによって持ち上げられた。
そして両手を抜きながらも持ちあげた地面を上に向かって放り投げると、ガラナは両手小さな刃を沢山つけ、それを回転させる。
上から重力に沿って落ちてくる地面ごと、その両手で次々にバラバラにしていく。
蔓はボタボタと地面に落ち、土はハラハラと落ちて行く。
バラバラになった蔓を器用に足場にし、琉峯は地面に着地した。
「蛾は蛾らしく散るんだな」
「俺を蛾と呼ぶのは構わないが、みんなを蛾と呼ぶのは止めろ」
琉峯の言葉に、ガラナは首を傾げながらクツクツと笑う。
「じゃあなんだ?あいつらは虫か?ゴキブリか?」
「みんなは自ら光る。光に群がっているのは、俺だけだ」
「可哀そうな奴だな」
それから、何度かの攻防を続けた。
まだ本気を出していないだろうガラナに弄ばれているとは分かっていても、それでどうにか互角、いや、ガラナが優勢だった。
「ぐっ・・・!」
琉峯は剣を落としてしまった。
そんな琉峯を仰向けにすると、ガラナは琉峯の肩に足を乗せた。
「こうしてお前を見下ろすのは、何度目だろうな、琉峯」
「・・・!」
一度足をあげたガラナは、足の底に刃物を出し、琉峯の肩に思いっきり押しつけた。
「ぐあああああっ・・・!!」
ぐりぐりと、琉峯の叫びなどどこ吹く風。
ガラナはしばらく、琉峯の叫びを堪能するかのように、刃物を押し続けた。
すると少しして、ガラナは何か思い出したように「あ」と言って、足を止めた。
「そういえば、あの時の傷は、治った?」
「え・・・?」
「あの時お前を殺さなかった理由、教えてやろうか」
ガラナは足を元に戻すと、両膝を折って琉峯と視線の高さを近づける。
にこっと笑ったそれは、人を殺せるようなものではなく、まるで純粋な子供のような、そんな笑みだった。
しかし、すうっと目を開けたガラナは、いきなり琉峯の心臓あたりに手を当ててきた。
当ててきた、という言い方は当たっていないかもしれないが、掴むように、抉るように、そこに爪を立てて。
「お前みたいな弱い奴、いつでも殺せるからだよ」
「・・・・・・」
「それに、僕を憎んでたって、どうせ残忍にはなれない」
さらにガラナが力を入れると、指は服を貫通していく。
「・・・っ!!!」
ガラナが的確に爪を突き立てたのは、昔ガラナに負わされた古傷。
爪をたてて力を入れれば、琉峯の身体には簡単に傷がつき、そこから血が出てくる。
つう、とガラナの指を伝うと、肘からポタポタと地面に垂れて行く。
「っ・・・」
「痛いか?このまま僕が腕ごと身体を貫通させれば、きっと楽になれるだろうけど、それじゃつまらないんだ」
「何が言いたい」
「お前が持ってる能力、欲しいんだよ」
「?」
初めは、ガラナが何を言っているのか分からなかった琉峯だが、少しずつ分かってきた。
小さい頃から持っていた、周りには言えずにいた、とても不思議な力。
今では当たり前のように使っているが。
ガラナが欲しがっているのは、“治癒力”。
いつから持っているのか、いつまで使う事が出来るのか、何も分かっていないこの治癒力がなぜ欲しいのか。
ガラナが言うには、治癒力を持っていれば、自分は最強になれると思っているようだ。
例え、相手がぬらりひょんであっても。
「お前の力は、あの時知ったよ。僕がお前を殺そうとした時、お前の意識や意思とは関係なく、助けが入った」
ガラナは再び立ち上がると、先程までいたぶっていた個所に足を置き、そこに体重を乗せて行く。
目も合わせず、ただ淡々と続ける。
「生まれながらに力を持つ者。成長過程で力を手にする者。お前は前者だった。だからこそ、あの時はまだお前自身気付いていなかった力は目覚めた」
どうしてそこまでして、こんな力が欲しいのか、正直言って琉峯には理解出来なかったが、ガラナはゆっくりと琉峯を見てきた。
そしてニヤリと笑うと、こう言った。
「けど、どうすればその力が僕のものになるのか分からないんだ。だから」
ぐわっと大きく口を開けると、ガラナは涎を垂らしながら向かってくる。
「とりあえず喰ってみることにする」
「・・・!!!」
踏みつけられていることによって、動きを封じられてしまっている琉峯は、なんとか逃げ出そうと必死に身を捩る。
カチンカチン、と歯を鳴らしているガラナの歯は、地面へと突き刺さっていた。
「煙桜・・・」
「ったく。もうおっ死んでるかと思ったが、まだ生きてたみてぇだな」
気付けば、琉峯は煙桜に担がれていた。
「餓鬼は」
「んなもんとっくに蹴散らした。他んとこももう終わるだろ」
「どうして煙桜はこんなに早く」
「ああ?俺が一々あんな餓鬼全部相手にするかって。虎呼んで、一気に片つけた」
「ああ・・・」
ひょいっとガラナから離れた場所に琉峯を下ろすと、琉峯は胸元の傷だけ治す。
ポケットから煙草を取り出すと、煙桜は火をつけて煙を吐く。
「あ、なんだよ、煙桜が一番乗りかよ」
「私のところ、餓鬼多かったんじゃない?幾ら私が可愛いからって」
「帝斗、麗翔・・・」
もう餓鬼を倒してきたのか、帝斗と麗翔も現れた。
そしてのんびり煙草を吸っている煙桜を見て、ぎゃーぎゃーと喚いていた。
「一番乗りはあいつだ」
「「え?」」
そう言って、煙桜は顎でくいっととある場所を示せば、そこには岩に座って足を組んでいる鳳如がいた。
先に来ていたのなら、琉峯を助ければ良かったのだが、きっと煙桜が向かっているのが見えたため、止めたのだ。
そんな彼らのやりとりを見ていたガラナは、少しだけ不機嫌そうな顔をする。
「あれだけの餓鬼を、こんな短時間でやっちゃうなんてね。ちょっと甘く見過ぎたかな」
五人が揃ったからといって、ガラナに勝てるという保証はない。
「弱いくせに」
ガラナの強さはやはり圧倒的で。
あれだけの餓鬼を相手にしても、傷ひとつ負わなかった彼らでさえ、すでに起き上がるのがやっとだった。
「おい、生きてるか?」
肩を摩りながら起き上がった鳳如が、近くにいるであろう四神に向かって声をかける。
ガラガラ、と瓦礫をどかしながら聞こえてきた声は、疲労気味。
「ああ。かろうじてな」
頭から血をダラダラ出しているのは、先程ガラナによって顔面に大きな岩をぶつけられた煙桜。
「もう。折角服新しくしたのに。もうボロボロよ。お嫁に行けない」
「最初から行ける気配はないから安心しろ」
麗翔は足を引きずっていた。
折れたわけではなく、次々にくる攻撃をかわしている時、捻ってしまったらしい。
自分で包帯を巻いて足を固定しようとも思ったのだが、捻ったくらいなら放っておけば治るという、なんとも麗翔らしい発想があるようで、放置されていた。
そして、なぜが一人だけ地中から出てきた帝斗は、身体中土塗れ。
「あーあ。肋いったな」
お腹あたりを摩りながら、帝斗は渋い顔をしていた。
ぺらっと服を捲り、肌の上から触ってみると、途端に激痛が走る。
「こんな奴らが四神なんて、笑っちゃうね。僕が代わりになってあげた方がいいんじゃない?」
「ソレは願い下げだよ」
ケラケラ笑い、未だガラナにはほとんど傷がついていない。
このままでは、先日の二の舞だと思っていると、その時、東を担っているはずの青龍が姿を見せた。
その神々しい姿には、ガラナも感動しているようで、目を輝かせていた。
青龍は背に琉峯を乗せていて、静かに地面へと下ろした。
降りてくる琉峯を、帝斗が受け取る。
ガラナは青龍の前に立つと、両手を大きく広げて、こんなことを言った。
「あなたに決めてもらいたい!あなたを仕えることが出来るのは、僕か、琉峯か!」
「何言ってんだあいつ」
琉峯の傷具合を見てみると、折れてはいないようだが、肩腕に力が入らないようだ。
痺れているのか、それとも単に痛めているだけなのか。
―・・・・・・。
「・・・・・・」
ガラナの行動に、帝斗は怪訝そうな表情を浮かべていたが、琉峯と青龍は互いの顔を見合わせていた。
その間に何があったかは、周りは何も分からないが。
青龍とて、ガラナからひしひしと鬼の邪気や狂気、そして強さを感じ取っていた。
―相当な手練とお見受けした。
「僕となら、もっともっと広い世界を見せてあげられる!君のような存在が、こんなところに留まっているのはもったいない!」
青龍は髭を揺らしながら、じーっとガラナを見つめる。
しかし、青龍はすうっと身体を立てて、ガラナたちを見下ろす。
―俺が今仕えているのは琉峯という男。お前に仕えることは出来ない。
「琉峯より僕の方が強いよ。君の力だって、存分に発揮できる!」
ガラナはなんとか青龍を自分のものにしようとするが、青龍は首を縦に振らない。
「不思議だね。君はもっと賢い生き方が出来ると思っていたよ」
―ほう、賢い生き方か。
「そうだよ。どう考えたって、琉峯なんかといるより、僕と一緒にいたほうが、君は今よりずっと高い地位を手に入れることが出来るんだ。強さを証明し、恐怖の種をまくことなんて簡単さ」
一歩、また一歩と、ガラナは青龍に近づいていくが、途中で感じたビリビリという威圧感に、足を止める。
「・・・ここは君にとってあまりに狭い。僕と世界を支配しよう!」
しばらく黙っていた青龍だが、少し顔を下げてガラナを見下ろすと、こう言った。
―我は東を担う青龍。一度仕えたら、主が死ぬまで仕え続けるのが役目なり。
そう言うと、すうっと消えてしまった。
ガラナは悔しそうにしていたが、それを聞いていた帝斗は琉峯の首に腕を回し、顔を近づけて笑いながら話す。
「素晴らしい主従関係だね」
「・・・止めてください」
少し大人しくなったガラナを不審に思っていると、ガラナは急にぴょんぴょん、と岩を飛んで行ってしまった。
何処に行くんだろうと思っていた四神だが、真っ先に後を追いかけたのは、ガラナが何を狙っているか分かった鳳如だ。
「あ!そうか!」
四神たちもその後を追って行く。
コンコン・・・
「誰じゃ」
「・・・・・・」
清蘭の部屋に、誰かがノックをした。
ぎい、と静かに扉を開けたその人物は、清蘭を見ると少しずつ近づいてくる。
清蘭は顔を向けようともせず、ただいつものように祈りを続けていた。
その時、男が話しかける。
「清蘭て、君のこと?」
「そうじゃが、何か御用かな?」
男、ガラナはクツクツと喉を鳴らして愉しそうに笑っていたが、ふと、清蘭に抱きついている座敷わらしを見つける。
ガラナに睨まれた途端、びくっと身体を震わせた座敷わらしだが、ぎゅっと清蘭の服を掴んで離さない。
「君を抹殺すれば、ここの結界は随分弱まる。そうなれば、僕たち鬼にとってとっても都合が良いんだ」
「このワシを殺すか」
「出来ればね。僕も手荒にはしたくないから、抵抗しないでほしいんだ」
「そうか、ならば」
そう言うと、清蘭は正座のまま向きを変え、ガラナと向かい合う。
「触れてみよ」
「はあ?」
何を言ってるのかと、ガラナは首を傾げながらも、抵抗しようとしているようには見えない清蘭に、腕を伸ばした。
だが、清蘭に触れようと伸ばした腕には、電気なのか衝撃なのか、とにかくバチィッ、と音がして痛みを走った。
「?どういうことだ?」
「主はワシには触れることは出来ぬ」
「どういうことだよ。ふざけんじゃねえよ。力付くでも殺してやるよ」
だが、どうやってもガラナは清蘭に触れることも、というよりは、ある一定の距離になるとその衝撃が襲ってくる。
徐々に苛立ってきたガラナは、腕を刃にしたり銃にしたりと、武器を変えて攻撃するが、清蘭には当たらない。
「どうなってるのかな」
「・・・主は愚かじゃ」
「はあ?」
「なぜ同じ鬼でも、主は触れず、座敷わらしたちは触れるか、分かるか?」
舌打ちをしながらも、ガラナはどうすれば清蘭を倒せるかと観察していた。
「信用する者しか、ワシには触れられぬ」
「そんな理屈通らないよ。信用してるかしてないかなんて、結局君しか知らないはずだろ?てことはつまりは、君が俺に触れられようとしてるとき、何かしてるってことだ」
「ふう。説明しても無駄じゃったか」
ガラナが今一度、清蘭に向かって飛びかかっていこうとしたとき、身体がカクン、と動かなかった。
「お前ら・・・」
ガラナの身体を、鳳如が札を使って止めており、その間に煙桜は、ガラナが立っているその足元に札をばらまくと、足元が崩れて行く。
帝斗が崩れた場所を囲う様にして岩を積み上げると、ガラナは落ちた拍子に自分の腕を鳳如の糸で斬り、再生させていた。
暗くなっていくのが分かり、岩で塞がれる前に出ようと一気に駆け上がる。
バッ、と勢いよく出たとき、そこには琉峯が剣を持って待ちかまえていた。
避けようと思ったが、すでに鳳如の糸が身体に巻きついており、また腕を斬ろうとしたが、麗翔が紐をつけた弓を射ってきて、身体にグルグル巻かれた。
それによって動きを封じられたガラナの首を狙い、琉峯は剣を振るった。
「チッ。くそっ」
琉峯に斬りつけられる一瞬前、ガラナは自分の身体を分裂させた。
これは何かあったときのための最終手段だったが、一度分裂してしまうと、元の姿に戻るまでに時間がかかってしまう。
身体を分裂させた後、ガラナは先程落ちた穴へとまた落ちて行く。
土の中を浸透する水のように、ガラナも分裂した状態のまま建物の外へと脱出した。
なんとか結界の外にも逃げ出せると、ガラナはどこかへと去って行った。
ガラナは今、顔とお腹あたりまでがくっついてきた状態だ。
後は、徐々にくっついて完成する腕や足などの部位を待つのみだが、今誰かが来ては何も出来ない。
「主は口だけじゃのう」
「!!ぬらりひょん!?」
動けない身体のまま辺りを見渡していると、ひょうたん型の入れ物に入った酒を腰に下げているぬらりひょんがいた。
身動きが取れないガラナの近くまで来ると、近くの木に寄りかかり、腰にある酒に手を伸ばす。
「主、青龍を味方にしようとしたようだのう。無理じゃったじゃろ」
「!まあね。けど僕の言い分は間違っていないよ。有能な者が力のある者を使う。それが原理だ」
「あの者たちは、ワシらが世に生まれる前から存在しておる。故に、見定める力があるのじゃ」
「みさだめ・・・?はっ、何を言っている」
酒を飲むと、ぬらりひょんは口元を手で拭い、ひょうたんを揺らして残りを確認する。
「あの者たちは信頼した者の下にしか仕えぬ。その者が亡くなったとしても、ずっと慕い続け、次に信頼出来る者が現れたとき初めて、亡くなった者のもとから離れるのじゃ」
「それは僕が信頼されてないって言いたいの?清蘭も同じようなこと言ってたけど、本当かどうか疑わしいもんだよ」
先程清蘭に言われたことを、そのままそっくりぬらりひょんに話せば、ぬらりひょんは腕組をして空を見上げた。
木の陰に隠れていなければ、きっと暑さで参ってしまうだろうというほど、燦々と太陽が照っている。
「まあ、あながち間違ってはおらぬかもしれぬのう」
「は?」
「主も、悠々自適という過ごし方を覚えた方が良いかもしれぬぞ」
そう言って、急に吹いた風に一瞬だけ目を瞑ると、次開けたときにはぬらりひょんは何処にもいなかった。
ほぼ一日かかって、ようやくガラナは自分の身体を全て取り戻し、歩けるようになった。
「僕は僕の理想郷を創る。誰にも邪魔はさせない」
決意を改め、ガラナは歩いて行った。
ガラナがいた木の上で、ずっとそこにいたぬらりひょんと天狗は、去って行ったガラナを見ながらため息を吐いた。
「また何かしでかすやもしれぬのう」
「・・・その時はおろちにでも向かわせれば良かろう」
「おろちとあ奴は水を油じゃ。ワシらに尻ぬぐいが回ってくるぞ」
「・・・・・・」
鬼が人間を恨まなければ、戦いはなくなる。
鬼が人間を襲わなければ、犠牲はなくなる。
それは同じようにして逆もまた然り。
人間が鬼を恨み、また鬼の生活を脅かすことをしなければ、こんな争いはなくなる。
ガラナのように、自分の欲や理想のために人間を襲う鬼もいれば、琉峯のほうに、鬼に肉親を殺されて鬼を憎んでしまう人間もいる。
いつまで経とうと、この連鎖は終わらない。
「座敷わらしに会いに行くか?」
「行かん」
ぬらりひょんは、さっさと木から木へと飛び越えて行ってしまった。
その後ろ姿を見た後、天狗は座敷わらしがいる建物方向へと視線を向ける。
「泣き声がせんのも、寂しいものよのう」
「じゃじゃーん!!!」
「・・・麗翔、なんだこれ」
「何って、どうみてもケーキでしょ!?しかもホールの!!」
「ケーキってこんなになんか、なんていうか、こう、焦げた卵焼きみたいな形状してたっけ?」
ガラナは逃がしてしまったが、無事に追い出せたということで、お祝いにと麗翔は自慢の腕を振るってケーキを焼いていた。
とても自慢気に帝斗に見せたそれは、ケーキと呼べるような代物ではなく、しぼんだとか穴があいちゃったとか、そういうレベルの話ではない。
形を成していないのだから。
「もしかして、これ病み上がりの琉峯に食わせる心算か?」
「もちろんよ!琉峯のために作ったといっても過言ではないわ!」
「やめとけって。あいつ病み上がりだぞ!?感染したらどうすんだよ!?なんか変な菌とか入ったらどうすんだよ!?」
「失礼ね」
肋を折ってしまった帝斗はもうぴんぴんしていて、麗翔も捻った方の足で帝斗を蹴っていたから大丈夫なのだろう。
みるからに毒気の強いそれに、帝斗は何度も何度も麗翔を説得する。
だが、麗翔は一歩も引かない。
「だから、平気だってば。なによ、まるで私の作ったケーキを生ごみみたいに」
「似たようなもんだろ」
そう言った途端、帝斗は麗翔にその失敗作ともいえるケーキを投げつけられた。
ひょいっと避けたのは良かったが、後ろから飲み物を取りに来た煙桜に気付かなかった。
帝斗の代わりに顔面にそれを受けてしまった煙桜は、自分を落ち着かせようと深呼吸をし、帝斗と麗翔をぶった。
「いったーい・・・。女なのに。私、いたいけな女の子なのに」
「俺だって清純な少年なんだぞ」
「お前ら何してんだ」
キッチンで顔を洗い、タオルで拭きながら聞くと、麗翔がぱああっと顔を明るくして、二度目に焼いたそれを見せる。
「見てみて!私特製のケーキ!!!結構良く焼けたと思うのよね!」
「・・・・・・これは炭か?」
「ケーキっつってるでしょ」
やっぱり焼け過ぎか、と言いながら、麗翔は焼け焦げたそれをぽいっと捨てる。
「鳳如が寿司かなんかとるって言ってたから、別にいらねぇだろ。麗翔の殺傷能力が異常に高い料理なんざ」
「言い過ぎじゃ無い?異常に高いって・・。え、てかそれ鳳如の奢り?」
「ああ。ついでに、部下たちも呼んで来いって言ってたぞ」
「でも結界はどうすんだよ」
「ああ、それなら」
鳳如は、いつも四神だけが打ち上げをしていて、部下たちになにも無いのが可哀そうだからと、部下たちの分まで用意をしたようだ。
通常、東西南北それぞれの部下が結界を任されているため、皆が一同に集まるというのは難しいのだ。
だが今回、その部下がしている仕事を、鳳如が受け持つというのだ。
「どうしたのかしら、鳳如。熱でもあるんじゃないの?」
「さあな」
部下たちも集まり、琉峯も合流すると、打ち上げが始まった。
四神と部下各三名、よって計十二名。
帝斗は琉峯の隣に腰を下ろすと、琉峯が持っている、まだ酒の入ったままのコップにさらに酒を注ぎ足す。
「ねえ見て琉峯!上手く焼けたと思わない!?」
「・・・思いません」
真っ黒のスポンジを見て、琉峯は迷わず答えると、麗翔はガクン、と肩を落とした。
「麗翔様」
「何よ」
「もう少し料理の方は自重した方がよいかと思います」
「師匠!どんどん飲んでくださいね!」
「・・・都空」
「なんでしょう?」
「師匠は止めろと言っただろ」
「すみません!師匠!」
「はあ・・・」
「おい、集中してるんだ。邪魔してくれるなよ」
一人、結界を張る為に意識を集中させていた鳳如のもとに、声が聞こえてきた。
―鳳如。お前、身体に無茶させすぎだぞ。
「大丈夫だ」
―そのうち死ぬぞ。
その声の主は、鳳如のもとにいる獅子だ。
鳳如は中央を担っているため、東西南北全ての方位を、完璧にとはいかないが、カバーは出来る。
それに、それぞれの方位には、それぞれの守り神たちがいる。
―人間の寿命は短い。俺達と違ってな。もしお前を早く死なせようものなら、俺はお前を拾ってきたあいつに顔向けが出来ない。
目を瞑りながら、鳳如は笑った。
「それを言うなら、俺だって拾われた身で、何も出来ずに死んだら顔向け出来ねえって話さ」
―世話がやける野郎だ。
「お互いにな」
その頃、座敷わらしは清蘭の膝の上で寝てしまっていた。
「んん・・・ん?寝てしまっていたか」
「疲れておるのじゃ」
「清蘭には怖い思いをさせてしまったのう」
座敷わらしの頭を優しく撫でながら、清蘭は目の前にある大きな蓮を見つめる。
「信じておった。あ奴らが必ず、助けに来てくれるとな」
「ちと遅い気もしたがのう」
きつい座敷わらしの言葉に、少しだけ目を見開いて驚いていた清蘭だが、クスクスと肩を揺らして笑った。
「良いチームじゃ」
「ワシも入っておるか?」
「勿論じゃ。ここにおる皆、ワシにとって大切な存在じゃ」
それを聞くと、座敷わらしはにこっと笑い、また寝てしまった。
打ち上げが終わったのは、日付が変わって少ししてからのことだった。
部下たちは各自の持ち場に戻ると、鳳如は部屋に戻ってベッドに横になり、目元に冷やしたタオルを置いていた。
その時、控えめなノック音が聞こえてきた。
「入れ」
「失礼します」
そこから顔を覗かせたのは、頬がうっすらと赤くなっている琉峯だった。
「どうした、珍しいな」
「お疲れ様でした」
そう言って、琉峯は打ち上げの際に鳳如用にと確保しておいた酒瓶を出した。
上半身を起こしてそれを確認した鳳如は、思わず感激してしまい、先程とは別の意味で、目元にタオルをあてた。
コップも二つ持ってきており、琉峯はとくとくと注ぐとそれを鳳如に手渡す。
自分のは少しだけにすると、カチン、と小さな乾杯の音が部屋に響く。
「良いもんじゃねえだろ?復讐なんて」
「・・・はい」
少ししか入っていないはずのコップだが、それを眺めているだけで、琉峯は口にしようとしない。
傾ければ簡単に零れてしまうそれを眺めながら、琉峯は続ける。
「止めをさそうとした時、剣を振るうその前までは、殺してやろうと思ってました」
「うん」
「ですが、振れなかった。振ってしまえば、きっと俺はあいつと同じになってしまう」
もうすでに一杯目を飲んでしまった鳳如は、自分で酒を注ぎ、二杯目も飲む。
「憎しみの連鎖、か。どっかで止めねぇと、いつまでもズルズル続く厄介なもんだ。あいつを生かすことが正しいのか、それとも殺した方が正しかったのか、それは誰にも分からねえ」
それでも、琉峯が直前で理性を保ち、自制をきかせたのは間違ってはいない。
「迷うな」
聞こえてきた言葉に、琉峯はふと隣をみると、すでに三杯目を口に含もうとしている鳳如が笑っていた。
「己が信じた道を行くには、迷わねぇことだ。もし少しでも疑えば、その道はあっと言い間に雑草が生え、道でなくなる」
「もし道がなくなって、立ち止まってしまったときは、どうすれば良いですか」
酒瓶に入っている酒を全て注ぎ終えると、鳳如はこぼれそうになったコップの縁に口をつける。
少し口の端から零れてしまった酒を、親指で掬いながら答える。
「そんときゃあ、周りを見渡せばいい」
「周り、ですか?」
「ああ。俺達の誰かが、きっといる。色んなとこからお前のことを見てる。お前が立ち止まってるなら、叫んで呼ぶだろうし、こっちだって教えるだろうし、見失った道をもう一度作ってやる。だから」
最後の一杯をぐいっと飲み干すと、鳳如は琉峯の頬を抓った。
「いっ・・・」
「だから、んなシケた面してんじゃねえよ。何回立ち止まったって、助けてやるから」
「・・・・・・」
パッと抓っていた手を離すと、鳳如はシャワーを浴びて寝ると言って奥の方へ行ってしまった。
琉峯は少しだけのその酒を飲み、持ってきたコップを空になった酒瓶を持ち、部屋から出て行った。
シャワー室に入った鳳如は、口元に手をあてて咳をしていた。
「ごほっ・・・ごほっ」
ゆっくりと手を口元から離すと、そこには赤いものがついていた。
それはシャワーによって手から腕へと流れて行き、最終的には排水溝に吸い込まれた。
「・・・・・・まだダメだ」
戒めのような言葉は、ただシャワーの音によって掻き消された。
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