第44話(由美視点)

(由美視点)


 矢内君と初めてのデートをした日の夜。 私はお風呂から出た後に矢内君に今日のお礼のメッセージとサメのぬいぐるみの写真を一緒に送った。


「これでよし、と」


 そのあと私はスマホを閉じて寝る準備を進めていった。 と言っても既にパジャマに着替えてるし歯も磨いたから、あとはもう寝るだけなんだけど。


「ふぁ……ちょっと眠いなぁ……」


 現在の時刻は夜10時を過ぎた所だ。 いつもよりもだいぶ早い時間帯なんだけど……でも今日は一日歩きっぱなしだったから疲れちゃったし流石にもう眠いよ。


 それに明日はお昼からバイトが入ってるし、あんまり夜更かししすぎて明日のバイトに支障をきたすわけにはいかないよね。


「うん、今日はもう寝よう」


 という事で私はそのままベッドの中へと入り、そして手元のリモコンで電気を消して私は目を閉じていった。


 でも流石にもう眠いとはいっても、普段よりもかなり早めにベッドに入ったのですぐには眠りにつけそうにもなかった。 だからアタシは目を閉じながら今日のデートを頭に思い浮かべていく事にした。 すると……


「……ふふ」


 すると今日のデートの事を思い出していったら、ついつい口元から笑みがこぼれてしまった。 いやでもしょうがないよね、だってアタシにとっては久々の動物園だったんだしさ。


(……ふふ、今日は懐かしかったなぁ)


 アタシは昔から動物が大好きだった。 だから動物園も大好きだったんだけど……でも動物園に付き合ってくれる子なんてアタシの周りにはいなかった。 だから今日は久々に動物園に行けて本当に良かった。 矢内君には感謝だね。


(あぁ、でもよく考えみるとさ……)


 そういえば、よくよく考えてみるとアタシは動物園デートをしたのは今日が初めての体験だった。 もちろん今まで色々なデートを経験してきたつもりだったけど、でもまだこんなアタシにも初めての体験が出来るなんて、それはちょっと嬉しい気持ちになるよね。 あと、それとさ……


―― だから、もし水瀬さんが本当になりたいんだったら俺は全力で応援したいし、水瀬さんの手伝いもしたいと思ったんだ


「……ふふ、そんな事言われたの……初めてだよ」


 アタシは今までにも友達や元カレとかに自分の子供の頃の“夢”の話をした事は何度かあった。 そしてその話をする時の反応はいつも同じだった。


『由美はさー、将来の夢とかあんのー??』

『んー、別に何もないけど……あ、でも子供の頃は獣医とかめっちゃ憧れたなー』

『え、獣医?? ぷはは、いや由美がそんなのになれるわけないじゃんー』

『はは、うっさいなー、そんなのわかってるわよ。 だから子供の頃の夢だって言ってんじゃんー』


 もちろんそれは子供の頃の夢だから、アタシ自身もうなるつもりはなかったし、周りの友達や元カレもそれがわかっているからこそ“由美には無理だろ”といつも笑いながら言ってきた。


 でも矢内君だけは違った。 アタシの子供の頃の夢を矢内君だけは決して笑わなかった。 それだけでなく、矢内君はアタシの夢を応援したいと言ってくれた。 可能なら手伝いたいとも言ってくれた。


 その言葉がアタシにとってとても新鮮で……そしてとても不思議な気持ちにもなった。 どうして矢内君はこんなアタシにそこまで言ってくれるんだろう? そんな事をしてくれても矢内君には何の得もないと思うのだけど……


「……あ……」


 何で矢内君がアタシに向けてそんな優しい言葉を投げかけてくれたのか……でもよくよく考えてみたら、その答えはすぐに矢内君が言ってくれていたっけ。


―― だって俺は前にも言ったけど……水瀬さんの事が好きだから


「……っ……」


 私は矢内君に言われたその言葉を思い出して……ふと自分の顔が少し赤くなっている事に気が付いた。

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