第41話
動物園の中に入ってみると意外と今日は混雑としていた。
「何だか人が多いね。 イベントとかでもあるのかな?」
俺は辺りをキョロキョロと見渡してみた。 何だか家族連れが多い感じがした。
「あぁ、うん、えっとね。 今月末にね、ここの動物園にいるパンダが故郷に帰っちゃうんだ。 だから今の時期はパンダを見に来てるお客さんが多くなってる感じじゃないかな」
「あ、なるほどね。 だから家族連れのお客さんが多い感じなのか」
水瀬さんの話を聞いて俺は納得した。 やっぱりパンダって動物界の中だとトップクラスで可愛いもんな。
「じゃあどうしようか? せっかくだしパンダを見て行く?」
「うーん、でも多分だけどこれだけ混んでると……結構長い時間並ぶ事になるかもね」
「え? あ、そっか。 このお客さんが全員パンダ目当てだとしたら……確かにヤバそうだね」
確かにここにいるお客さんはほぼ全員パンダ目当てだろうし、そうなるとパンダを見るためには長時間並ぶことになっちゃいそうだな……
「うん。 だからさ、今日はそれ以外の場所をのんびりと回っていかない? あ、もちろん矢内君がパンダを見たいっていうなら全然行くけどさ」
「あぁ、いやそれなら今日はのんびりと色々な所を回る感じにしようよ。 俺、動物園初心者だし、どうせなら色々な所を見て回りたいからさ」
「うん、わかった。 それじゃあのんびりと色々な所を回っていこうか。 ふふ、それにしても……」
「うん? どうしたの水瀬さん?」
唐突に水瀬さんがふふっと笑ってきたので、俺は何かあったのか尋ねてみた。
「ううん、何て言うかさ……矢内君とは何かと“熊”と縁があるなーって思ってね」
「熊……? あぁ、確かにね、はは」
水瀬さんにそう言われて気が付いた。 そういえばパンダってクマ科の動物だったよな。 漢字で書くと熊猫だしさ。
「よし、それじゃあ早速あっちのエリアから行ってみよっか?」
「あぁ、うん、わかった」
という事で俺達はいよいよ動物園の中を歩き始めていった。
◇◇◇◇
動物園の中に入ってから1時間以上が経過していた。 色々なコーナーを回ったあと、今は小動物とのふれあいコーナーに俺達は来ていた。
「うわぁ……いいね、もふもふだー」
「うん、確かにもふもふしてるね」
今日のふれあいコーナーはウサギとの触れ合いが出来る日らしく、俺達の周りには沢山のウサギがぴょんぴょんと飛び跳ねていた。 もちろんふれあいコーナーなので、自由に撫でたり、餌をあげたり、抱っこをしてあげるのも自由となっている。
「よし、それじゃあ……よっと」
水瀬さんは周りにいるウサギ達の中から一番大人しそうなウサギを優しく手に乗せていき、そしてそのまま水瀬さんはウサギを両腕で抱きしめていった。
「わわっ……めっちゃもふってる! ふふ、可愛いなー」
「っ……!」
水瀬さんは目を輝かせながら嬉しそうにそう言ってきた。 そして何だかその水瀬さんの姿が俺にはとても可愛らしく見えた。 ふいに俺はドキッとしてしまった。
「あ、そうだ! ねぇねえ、良かったら写真撮ってよ! ほら!」
「……えっ? あ、あぁ、うんわかったよ」
水瀬さんにそう言われたので、俺はスマホを取り出して写真を撮ってあげた。
「は、はい、撮れたよ」
「うん、ありがとー! あ、それじゃあ矢内君の事もウサギさん抱っこしてる所を撮ってあげようか?」
「え、俺?? い、いやいいよ! だ、大丈夫だから!」
「そう? 別に遠慮しなくてもいいのにー。 まぁでも普通に抱っこくらいはしてあげなよー? めっちゃもふもふだよー?」
「う、うん、そうだね。 せっかくのふれあいコーナーだし、俺も抱っこしてみようかな」
「うんうん、そうしてあげてみてよ! よし、それじゃあ……はい」
「え? ……えっ!?」
水瀬さんはそう言うと俺の目の前にまで近づいていき、今水瀬さんが抱っこしているウサギを俺の方に寄せてきてくれた。
(ちょっ……水瀬さんめっちゃ近いって!!!)
その瞬間、俺と水瀬さんとの距離がほぼゼロ距離になっていた。 こんなに水瀬さんの顔が近いのは初めてかもしれないな……ってか水瀬さんってめっちゃ良い匂いするんだよなぁ……っていやいや! 水瀬さんの匂いを嗅いでる場合じゃねぇよ、変態か俺は!! ……うーん、それにしても水瀬さんってまつ毛も凄い長くてモデルさんみたいだよなぁ……っていやいや! 水瀬さんの顔をガン見してる場合でもねぇよ、やっぱり変態なのか俺は!!
「ほら、この子めっちゃ大人しいからさ、矢内君も抱っこしてあげなよ」
「えっ!? えっ!?」
俺の頭は完全にトリップ状態になっていたため、俺は普通にテンパり出して後ろに後ずさりしてしまった。 そしてそんな俺の変な行動を見て水瀬さんはきょとんとした顔をしだした。
「う、うん? どうしたの矢内君??」
「え!? え、あ、い、いや、何でもないよ! そ、それじゃあその……俺も抱っこしてみようかな」
「あぁ、うん、わかった! ふふ、それじゃあ優しく抱いてあげてね、はいどうぞ!」
俺がそう言うと水瀬さんはにこやかに笑いながら、もう一度俺の元へと近づいていき、水瀬さんが抱いているウサギを俺の近くに寄せてきてくれた。 そしてその瞬間……俺は……
「……かわいい」
「……え?」
俺は無意識の内に……水瀬さんに可愛いと呟いてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます