第40話

「んー? あはは、もしかしてさぁ……もっとギャルっぽい服装の方が良かったとか?」

「え!? あ、あぁいや、そういう訳じゃなくて……」


 俺が黙って水瀬さんの恰好をじっと見ていたら、水瀬さんはニヤニヤとしながらそんな事を言ってきた。


「あはは、別にそんな否定しなくてもいいのにさ。 そんなに見たかったんなら、次にデートする時は矢内君の好みに合わせた服を着てあげるよ。 まぁどんな服装が見たいのかわからないけどさ」

「え!? またデートしてくれるの??」

「え? そ、そりゃあもちろんするけど?」


 まさか次回以降もデートしてくれるなんて思ってもいなかったので俺は大きな声を上げてしまった。 そしてそんな俺の態度を見て水瀬さんは怪訝そうな表情を浮かべていた。 ……あ、でも、そうか。


(よく考えたら俺が噓告白に気が付いてるって事は水瀬さんは知らないんだよな)


 それじゃあ……まぁ、水瀬さんに変に勘繰られても困るので俺はとぼけておく事にした。 それにせっかくの初のデートなんだし楽しまなくっちゃ勿体ないもんな。


「あ、いや、何というかさ、今日が生まれて初めてのデートだからちょっと舞い上がってる感じなんだ、あはは」

「ふぅん、そうなんだ? それじゃあせっかくだし今日は楽しまなきゃだね」

「うん、そうだね」


 俺が笑いながらそう言うと水瀬さんは納得してくれたので、俺はほっとしながら目的地の動物園へと向かって行った。


「うわぁ、めっちゃ懐かしいなぁ」

「あ、もしかしてこの動物園にも来た事あるの?」

「うん、そりゃあもちろんだよ」


 動物園に到着すると水瀬さんは目を輝かせながらそう言ってきた。


「そういえば水瀬さんは最近はもう動物園とかには全然行ってなかったの?」

「あぁ、うんそうだね。 最後に行ったのはもう二年以上前かなー」

「あ、もうだいぶ昔なんだね。 何かずっと行けなかった理由でもあるの?」

「うーん、そうだねぇ……とりあえず中学生になってからは家族と一緒に出かけるのはなんだか恥ずかしくなったから次第に行かなくなった感じかなぁ」

「あぁ、なるほど。 あはは、それは思春期あるあるだね」

「あはは、確かにそうだねー。 それでまぁ一人で動物園行くのも寂しいから結局その後はあんまり行かなくなっちゃったって感じかな」


 俺がそういうと水瀬さんはあははと笑いながらそう言ってきてくれた。


「あ、でもさ、水瀬さんは友達とかめっちゃ多いし、それに彼氏……とかもいたんだからさ、そういう人と一緒に動物園に行こうとはしなかったの?」

「え? あー、まぁ動物園ってさ、ちょっと独特な匂いがする所が多いんだよね。 だから一回だけ女の子の友達を誘った事はあるんだけどさ、まぁその独特な匂いが不人気だったからそれ以降は誘ってないのよ」

「独特な匂い? へぇ、そうなんだ」

「うん、だからそれと同じ理由で元カレとも動物園には来た事ないなぁ……あ、そう考えるとさ、アタシって彼氏と動物園デートするのって、今日が生まれて初めてなんだね、あはは!」

「……っ!? そ、そうなんだ……!」


 水瀬さんにそう言われた時、俺はちょっとだけ嬉しい気持ちになった。 色々な事を経験してきてる水瀬さんにとっての初めての経験を与える事が出来たというのは、何だかやっぱり嬉しい気持ちになるよな。


「……うん、それじゃあ今日は沢山楽しもうよ」

「あはは、うんうん、もちろんだよー、それじゃあ……ほらっ」

「え……って、え!?」


 そう言うと水瀬さんはいきなり俺の手をぎゅっと掴んできた。


「えっ!? あ、ちょっと……水瀬さん!?」

「ふふ、いいじゃん。 今日はデートなんでしょー? それじゃあこれぐらいしていかないとさー」


 女の子に手を握りしめられるなんて初めての体験だったので、俺はかなり慌てふためいた状態になってしまっていた。 そしてそんな俺の慌てている姿を見ながら水瀬さんはニコっと笑っていた。


「よし、それじゃあ早速中入ろう! ほら行くよー!」

「えっ!? あ、うん、わ、わかった、よ……!」


 そう言って俺達は手を繋いだまま動物園の中へと入って行った。

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