第39話

 その日の夜。 俺は自分の部屋でベッドに横たわりながらスマホを弄っていた。


「うーん……どうしたもんかなぁ」


 俺はスマホで“高校生 服装 オシャレ”と検索をして、その検索結果をぼーっと眺めていた。


 水瀬さんとの初めての休日デートが決まったのは良いんだけど……でもよく考えたら俺は自分の服装をどうするか全く考えていなかった。


 だってしょうがないじゃん……今まで女子と二人きりで遊んだ経験が一度もないんだからさ。 この世の男子達は初めてのデートの時の服装とかってどうやって決めてるんだろうなぁ……?


「……仕方ない、山田に聞いてみるか」


 という事で俺は彼女がいる唯一の友達である山田に電話をしてみる事にした。 山田に電話をかけるとすぐに繋がった。


『おう、どうした倉橋?』

「あ、急にすまん。 いやあのさ、初めてのデートの時ってどんな服装で行ったか覚えてるか?」

『あ、なんだ?? どうしたよ? もしかして彼女でも出来たのか??』

「い、いや、そういう訳じゃないんだけど……まぁ後学のためって事で」

『ふぅん? まぁいいや。 初めてのデートの時だろ? あぁちゃんと覚えてるよ。 バイト代全部使ってハイブランドで全身を固めて初デートに行ったぜ!』

「え、お前それ凄いな! いやめっちゃ気合入れてデートに行ったんだな! お金めっちゃかかっただろ??」

『あぁ、そりゃあ初デートだから、めっちゃ気合入れるに決まってるだろ。 ……まぁでも彼女には着てる服全然似合ってないねって一瞬でドン引きされたんだけどさ』

「えっ!? お、お前……初デートで会った瞬間に彼女にドン引きされたのかよ……そ、それで? 結局そのデートはどうなったんだ?」


 せっかく参考にしようと思ったのに、まさか開幕から彼女にドン引きされたエピソードが出てきて俺は戦慄した。 や、山田……大丈夫だったのかよ……?


『あぁ、いや、全然大丈夫! 俺の彼女めっちゃ優しいからさ、その後は一緒にウニクロとかZUに行って俺に似合う服装を選んだりして貰って一日を過ごしたよ。 その日は服選びデートみたいな感じだったな』

「あ、そうだったんだな、それなら良かったわ。 いやそれにしても、めっちゃ優しい彼女さんだな」

『あぁ、本当になー。 普通ならドン引きされてそのまま振られてもおかしくなかったのにさ。 なんか今はそういう引いちゃう行為をする男を見ると女の子って急激に冷めるらしいしな。 えぇっと、なんだっけ、蛙化現象っていうんだっけか?』

「あー、なんかそんなのテレビで聞いた事あるわ」


 何かそんな名前の現象が女子の間で流行ってるらしい。 話によると、好きな男子の変な行動とか気持ち悪い行動を見たら一気に不快になってしまい、そのまま急激に冷めてしまう現象らしい。 いや男の俺からしたらそれくらい許してあげてよ……って思うんだけど何か駄目らしい。


『だからさ、もしお前も初デートをする事があったらさ、変に着飾ったファッションとかじゃなくて、普段から着ているような無難なファッションで行った方がいいぜ? もし初手でドン引きされたらもうそこで試合終了だからな』

「あ、あぁ、なるほどな。 いやマジでめっちゃ参考になる意見だな」

『おうよ、俺の失敗談を糧にして友達にはちゃんと成功していって貰いたいからな』

「あはは、やっぱりお前は良い奴だよな、本当にさ。 うん、ありがとう、マジで参考になったわ」

『あぁ、全然いいよ。 それじゃあまた来週学校でな』

「あぁ、うん。 また来週な」


 そう言って山田との通話はそれで終わった。 今まで山田の事は彼女持ちで悔しいなって羨んだりした事も多々あったけどさ……うん、やっぱり持つべきものは友だよな。


「よし、明日はいつも通りの服装でいこう」


 俺はそう決めて今日は早めに寝る事にした。 明日のデートが本当に楽しみだ。


◇◇◇◇


 翌日の土曜日の朝。 俺は待ち合わせ場所で水瀬さんが来るのを待っていた。


「矢内君、おはよう」

「あぁ、うん、おはよう」


 唐突に後ろから声をかけられたのでそちらの方向に体を向けると、そこには私服姿の水瀬さんが立っていた。


(なるほどー、そう来たかー!)


 俺は水瀬さんの服装を眺め始めた。 水瀬さんは黒いスキニージーンズと白いパーカーを着ており、頭には帽子を深めに被っていた。 さらにいつも身に着けていたピアスや指輪等の小物類も今日は全部外してきていた。


「ん? どうしたの、矢内君?」

「え? あ、あぁ、いや、何というか……学校の時とは全然雰囲気が違うね」


 俺は素直にそう感想を伝えた。 水瀬さんの服装は俺が想像していたよりもかなりラフかつシンプルな服装だった。 というかギャルモードを完全に解除した水瀬さんがそこにいた。


「え? あぁ、これの事?」

「うん、そうそう」


 そう言って水瀬さんは自分の身体に手を当ててきたので、俺は顔を縦に振って頷いた。


「いや、まぁここの動物園って動物との触れ合いコーナーとかもあるしさ、今日はなるべく動きやすい服装にしといたんだ。 あとはピアスとか指輪とか動物達が誤って口の中に入れちゃったら大変だから全部外してきたんだ」

「あぁ、なるほどね」


 水瀬さんが笑いながらそう言ってきたので俺は全て納得した。 あぁ、やっぱり水瀬さんは動物が本当に好きなんだな。 でもほんのちょっとだけ……


「んー? あはは、もしかしてさぁ……もっとギャルっぽい服装の方が良かったとか?」

「え!? あ、あぁいや、そういう訳じゃなくて……」


 俺が黙って水瀬さんの恰好をじっと見ていたら、水瀬さんはニヤニヤとしながらそんな事を言ってきた。 どうやら俺の心の中で呟いていた事は水瀬さんには全てお見通しだったようだ。

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