第19話

「それにさ、あんまりこういう言い方は良くないと思うけど……矢内君みたいな男の子って、私みたいなのって嫌でしょ?」

「え? い、嫌って?」


 俺みたいな奴は水瀬さんみたいなの女の子が嫌? え、それってどういう事だ?? 俺は頭にいくつもの疑問符を浮かべながら水瀬さんに聞き返してみた。


「うん、えっとさ、さっきアイツと本当にどうしようもない口喧嘩をしたわけなんだけどさ」

「う、うん」

「その時に私がアイツに言った事ってさ、まぁ一応全部本当の話なんだよね」

「う、うん?」

「だからつまりさ、私……処女じゃないよ?」

「うん……うん!?」


 全く想像してなかった発言が飛んできたので、俺は噴き出しそうになってしまったのをすんでの所でなんとか堪えた。


(い、いやそらそうだろよ!)


 俺は心の中でそうツッコミを入れた。 いやだってこんなに可愛くて陽キャなギャルの子に“アタシは処女じゃない”って言われても別に何も不思議には思わないし。 ってかあんなイケメン男の元カレがいたんだよ? それなのに実はまだ一度もエッチした事ないんだよねーって言われた方が逆に不自然過ぎるしさ。


(で、でも……何でそんな事で俺が水瀬さんの事を嫌がってると思われてるんだ?)


「い、いや、その……えっと、水瀬さんが処j……経験済みなのはわかったけどさ、それと俺が嫌がるっていうのはどう繋がってるの?」

「え? いやだってさ、矢内君みたいな男の子って、付き合うのは処女じゃなきゃ嫌っていう感じなんでしょ?」

「えっ!? い、いやちょっと待って! そ、それって一体どこから知った情報なの??」

「え? 普通に学校でもそんな事言ってる男の子いるよね? ほら、矢内君みたいなちょっと静かなグループの男子とかさ」

「えっ!? あ、あー……そういうこと?」


 水瀬さんにそう言われて俺はようやく理解した。 俺らの友達グループにはそんな事をいう奴は一人もいないけど、でも他の陰キャグループには“付き合うなら処女しか無理”とか“中古女に価値はない”とか“ギャルはヤリマンビッチしかいない”とか陰で言ってる奴は少なからずいた。 それを本気で言ってるのかネタで言ってるのかまでは知らないけど……でもそんな最低な事を教室で喋ってたら、そりゃあ陽キャなギャルグループの耳にも届くに決まってるよな。


「うん。 だからさ、矢内君もアタシみたいなのは嫌でしょ? それなら早い内に別れた方がお互いにいいんじゃないかなって思ってさ」


 つまり水瀬さんは「お前も他の陰キャグループの奴と同じで処女厨なんだろ? でもアタシは処女じゃないから早く別れた方がいいんじゃないか?」と、俺に言ってきてるのだ。 いや俺は別にそんな奴らと違って処女厨とかそんなんじゃあないから全然気にしないんだけどさ。 でも……


(……でも今考えてみると……)


 でも今までの事を思い返してみると……水瀬さんからはあんまり感じなかったんだけど、でも他のギャル達から俺や俺の友達への当たりが強いなって思う事が時々あった。 ギャル達が俺の事を“ガリ勉オタク”と揶揄してるのもそうだし。


 でも陽キャなギャルグループの子達からしたら、陰キャグループの奴らに陰でコソコソと馬鹿にした事を言われ続けてきたのだから、そりゃあ陰キャな奴らを嫌いになるのも当然だよな。


 そんで当然俺も陰キャだし、周りにいる友達も物静かで大人しいタイプの奴ばっかりで、どちらかと言えば陰キャなグループだ。 だから俺達のグループもギャル達からしたら嫌われる対象だったって事か。 さっきも言ったけど、俺達のグループは他人を馬鹿にしたりするような酷い事は決してしないんだけど、でもそんなの外から見たらわかんないもんな。


(なるほどなぁ……そういう事だったんだな)


 でもこれで俺が陽キャなギャル達に嫌われている理由がわかったので俺はスッキリとする事が出来た。 それは俺がギャル達に何かやらかしたというわけじゃなくて、単純に彼女達は陰キャな奴が嫌いなだけだったんだな。

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