第18話
水瀬さんに手を引っ張られながら公園にまで連れてこられ、そのまま俺はベンチに座らさせられた。 そして水瀬さんはハンカチを水に濡らして俺の額にそっと当ててきた。
「痛っ……!」
「ほら、やっぱり大丈夫じゃないじゃん。 それに少し腫れてるわよ」
血はそれほど出てないからと安心してたんだけど、どうやら少し腫れているらしい。 鏡がないから自分の傷の状態は確認出来ないのだけど。
「え? ひょっとして……結構重症だったりする?」
「うん、めっちゃ腫れてるよ、これはもしかしたら骨までイっちゃってるかもね……」
「えっ!? ま、まじで!? そ、そう言われてみたら何だか段々と痛くなってきた気が……」
「……ぷっ……」
「痛くなってきた気が……って、え?」
「ぷ、ぷははっ! 嘘だよ、嘘。 全然たいした事ないよ。 まぁ少し赤くはなってるけど、一日も経てばすぐに治ると思うよ」
「え? え?」
俺があまりにも不安がった表情で怯えだすと、水瀬さんはそんな俺の様子を見て大きく笑いながら冗談だと言ってきた。
「え、じょ、冗談って?」
「あはは、だから重症だってのは嘘だよ。格闘家でもない普通の人に素手で殴られただけで骨までイっちゃうわけないじゃないの」
「え? じゃ、じゃあ腫れに関しても?」
「うん、全然問題ないよ。 家に帰ったらシップでも貼って休めばすぐに治るわよ」
「そ、そっか。 それならよかった」
水瀬さんにそう言われて俺はほっと安堵した。 というか水瀬さんがそんな冗談をいうなんて初めての出来事だったので、俺は完全に騙されてしまった。
「いやでも、水瀬さんが冗談をいうなんて珍しいっていうか初めての事だったから普通に騙されたわ」
「はは、まぁアタシに心配かけた罰ってことにしといてよ」
「う……ま、まぁ、それは……うん、心配かけてごめん」
「うん、大丈夫だよ」
俺がそう言うと水瀬さんはケラケラと笑いながらそんな事を言ってきた。 まぁ心配をかけてしまったのは本当だろうから、俺は甘んじて罰を受けようと思う。 そんな事を思っていると突然……
「……あのさ」
「うん、どうしたの?」
ケラケラと笑っていた水瀬さんは一転して今度は神妙な顔つきをしながら俺に喋りかけてきた。
「アタシ達さ、その……別れよっか」
「……え?」
突然、水瀬さんは別れようと俺に告げてきたのであった。 あまりにも唐突な出来事だったので、俺は混乱しながらも理由を尋ねた。
「え、な、なんで?」
いやまぁ近い内に別れを告げられるのはわかっている。 だってこの恋人関係は嘘なんだから。 これは水瀬さんの罰ゲームで俺と付き合って貰っているという事を俺は知っている。
だからいつか水瀬さんから別れを告げられる事はわかっていたんだけど……でもタイミングはあまりにも突然過ぎたため、俺は頭の中が混乱状態になってしまっていた。
「いや、その……今日は矢内君に迷惑かけちゃったじゃん? その……私の元カレがさ……」
「え? あ、あぁ、それはまぁ……」
俺は先ほどのイケメン男のことを思い出す。 今思い出してみても中々に腹立たしい男だ。 冗談でも水瀬さんの事を殴ろうとしたのは同じ男としては許せないな。
「それでさ……今日矢内君が怪我しちゃったのってさ、半分はアイツのせいだけど……もう半分はアタシのせいじゃん?」
「え? ど、どうして?」
「いやだってさ、もしアタシが矢内君と付き合わなければ、矢内君がアイツと出くわす事も無かったし、アタシの代わりに殴られるなんて事もなかったわけじゃん? だから今日矢内君が怪我をしたのはアタシのせいでもあるって思うんだ」
「い、いやいや! それは水瀬さんのせいじゃないでしょ! どう考えても悪いのはあのイケメン男でしょ! だからマジで水瀬さんは今日の事は何も気にしないでいいって!」
水瀬さんは申し訳なさそうな表情をしながらそんな事を言ってきたので俺はしっかりと否定した。 だって今日の責任は水瀬さんには決してないのだから。
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