第17話
イケメン男が水瀬さんに殴りかかろうとしてきたので、俺は咄嗟に水瀬さんの前に出て庇おうとした。
―― バシンッ!
「……っ……!」
「お、おい……!」
「ちょっ! アンタ何してんのよ!?」
その結果、イケメン男の拳は俺の頭に直撃して、ちょっとだけ体がクラっとしてしまった。 水瀬さんはビックリとしたような表情で俺の体を支えてくれながら、イケメン男の方を睨みつけていた。 そしてそんなイケメン男は若干焦ったような表情をしながら俺の事を見てきた。
「い、いや、コイツが勝手に前に出てきただけだろ! 俺のせいじゃないだろ!」
「ふざけんなよ、アンタがアタシの事を殴りかかろうとしてきたから止めに入ってくれたんじゃない! それなのにアンタのせいじゃないってどういう事よ!」
「いや俺だってお前の事を本当に殴ろうだなんて思ってねぇよ! 途中で止めるつもりだったさ。 それなのにコイツが勝手に前に出てきてぶつかってきたんだろうが! だから俺は何も悪くねぇだろうがよ!」
「ア、アンタ……! ふざけ――」
「水瀬さん、俺は大丈夫だから一旦落ち着いて」
「っ……や、矢内君……」
俺は頭を抑えながら水瀬さんにそう言って落ち着かせた。 あまりこの二人を怒らせた状態にしてしまうと、また殴り合いに発展してしまうかもしれないからさ。
まぁそれにイケメン男の言っている事はあながち間違いではないと思う。 確かに俺はイケメン男に頭を殴られた。 でもその殴りはそこまで痛くは無かったので、イケメン男のいう通り、おそらくだけど水瀬さんの事を本気で殴りかかろうとしたわけじゃないのだと思う。
(いやそれでも水瀬さんの顔を狙って殴ろうとしてきた時点でヤバイんだけどさ)
「……まぁ俺が咄嗟に前に出てきたせいで、偶然にもアンタの拳が俺に当たっちゃったっていう言い分は理解しますよ。 アンタも本気で殴るつもりはなかったって言うのも本当だと思うしさ。 だから俺が殴られた事に関しては全然不満はないし、アンタに非があるって責める事もないっすよ」
「矢内君……」
「だろ? だよなぁ、俺のせいじゃないよな?」
俺がそう言うとそのイケメン男は焦った表情から一点してケラケラと笑ってきた。 俺がそう肯定したから心に余裕が出たのかもしれない。 でも……
「いやアンタのせいではないとは言わないけど、まぁ別に非はないという事でいいっすよ。 でも……例え嘘だとしても、女の子を殴りかかろうとするのだけは良くないんじゃないっすかね?」
「はぁ? だから俺は由美の事を殴るつもりはなかったって言ってんじゃん」
「いやつもりはなくても殴りかける素振りを見せるのは絶対に良くないだろ。 ってか万が一にも水瀬さんに怪我させてたらアンタどうするつもりだったんだよ、責任取れんのか?」
俺が少しだけ語気を強めにしてそう言うと、イケメン男はちょっとだけ言葉に詰まった表情をしてきた。 でもすぐにイケメン男はウザったそうな表情になり、俺と水瀬さんに対して暴言を吐いてきた。
「んだよ、フェミ男ぶってんじゃねぇよ。 はぁ、お前らと話してると気分悪くなるわ。 もう帰るわ。 由美も二度と俺に関わってくんじゃねぇよな、このブス」
「ちょっ! 待ちなよ! せめて一言謝りな……ってちょっと!」
そんな捨て台詞を吐いてイケメン男は俺達を見る事なくさっさと改札の中に入っていった。 水瀬さんはそんなイケメン男の態度に激怒した様子だったけど、でも去っていくイケメン男を追いかけることはせず、そのまま俺の方に近寄ってきてくれた。
「……ごめん、アタシのせいで迷惑かけちゃったね」
「いやもう全然大丈夫だから気にしなくていいよ」
「そ、そうは言っても……って、ちょっと! 額から血が出てるじゃん!」
「え? あぁ、本当だ」
俺は水瀬さんにそう指摘されて額を触ってみた。 すると確かに手には血がついていた。 でもそんなに痛みは感じないから俺はあっけらかんとした態度でそう答えた。
「本当だって、そんな能天気な……」
「いや、まぁ痛みは全然無いから大丈夫じゃないかな?」
「痛くないからって大丈夫とは限らないでしょ! ちょっとこっち来て……ほらっ!」
「えっ? あ、あぁ、うん」
水瀬さんはそう言って俺は手をぎゅっと握りしめながら、そのまま近くに公園へと移動していった。
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