第39話

 少し固めの布団が好きで、枕はやたらと多い方が落ち着く。太陽の匂いがしたら最高だと思って、誰かが『布団を干したあとのいい匂いは、ダニの死骸の匂いらしいよ』と言って教室がざわめいたのを思い出す。

 いつも起きる寸前に、変なことを思い出してよし子は目覚める。

「あれ、おうちだっけ」

もそそっと頭を起こして周りを見ると、まだ家に帰れたわけではないことに気付いた。


「起きましたか?」

「んん、その声はサブロー。そうだ、まだゲームの途中だった、あれ、大吾くんは」

「さっき、帰しましたよ。彼の希望通り」

 体を起こすと、まだ頭がくらくらと回る。

「無理はしないでください。血が足りてない、貧血です」

「ちょっと、大げさに足を擦ったからかな」

ぼすんともう一度、枕に頭を埋める。少しひんやりとして気持ちが良い。


「不正出血ですね」

「そうだよねーこの日のためにお薬飲んで体調はちゃんと調整してたのに。やっぱりストレスかな」

「考えられる要因としては、まぁストレスでしょう。

彼は、ご主人はゲームの内容を知っているから緊張がない。なんて言ってましたけど、しっかりストレスは感じていたんでしょう」

 よし子は、まだ鈍痛がするおなかをさする。

「それでも、わざわざ怪我をする必要はないでしょう。あんな不衛生な場所で、出血を伴う怪我、感染症にでもなったら大変でした」

 よし子が布団をめくって内ももを見ると、しっかりと手当をされて白い包帯が見えた。じくじくとした液が沁みている。思っていたよりも、傷は深かったようだ。

「ありがとう。でも、隠したかったの。内ももを怪我すれば、血は紛れてわからなくなるかなって思ったら、すぐ行動しちゃった」

 意外に見切り発車な部分があるんだと、サブローは改めてよし子を見る。そんなご主人のために、たくさんの人間が手をかしている。

「かいつまんで、先ほどのゲームの状況を説明しますね」

 サブローはよし子の好きなハーブティーを淹れて、ベッドサイドにカップを置く。ほんのりと漂う香りに癒される。


「まったく想定通りにはいかないものだね。大吾くんが探偵しだしたのも、隈くんがエレナさんを襲ったり、和法くんも瑠偉くんも。どれも考えてなかったなー」

 少しだけ体を起こし、背中に枕を噛ませてまったりとハーブティーを堪能した。空になったカップの余熱を名残惜しげに両手で包む。

「彼女が殺人鬼としてあんな風に覚醒するとは、少し驚きました。大活躍です。

猫をかぶったまま、協力プレイにでるかもと思ってましたが」

「うーん、でも、私が見ていた感じだと、やっぱり主張の強い子だったし、すべての行動が自分が優位になるようにしていたのは間違いないと思う。

なんというか、同性だから敏感に感じ取れたというか」

 よし子は台の上でぎゃーぎゃーと喚いていた女とエレナを重ねていた。

あの女と違うところ。

エレナは成長する機会も、矯正できる機会もあるところだ。まだ若いのだから。

「最後は、してきたこと相応の悲惨な姿になっていましたよ」

 追加のハーブティーを注ぎながらサブローは笑う。

「あ、そんな風に笑ったら失礼だよ。エレナちゃん、美意識高かったんだから」

そう指摘するよし子も、笑顔だった。


 思い出話も一段落すると、よし子が咳払いをしてから言う。

「大吾くんが帰ったなら、もう次のゲームが始まってるんだよね?」

「ええ、ぼちぼち参加者が起きたところです。まだ特段動きはありません」

 サブローがタブレットを差し出して、ライブ映像を見せてくれる。

「うん、了解です。イチコちゃん達も大丈夫だった?」

「はい、ゴローも手伝っているので、問題ない…いえ、問題があったとしても参加者たちと何とかしてくれると思いますよ。

落ち着いたら、イチローたちと次々回のゲームについての打ち合わせにお願いします。

参加者の選抜、ゲーム内容、色々とアプデが必要ですから。

ね、ご主人」


 デスゲームは、参加者と主催者の協同作業なんですから。

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手探りデスゲームはじめます ぶちお @buchio_torisuki

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