第33話
台風にようにエレナが瑠偉を引っ張って行ってしまった。残された大吾とよし子も、手を繫いで一番手前の扉をくぐる。エレナが瑠偉の手を引いていたのを倣いたかったのかもしれない。
扉は勝手に閉じて、ロックがかかる。通路は狭く、人が1人やっと通れるくらいだった。それでも手を離すことはしなかった。
一番息の詰まるような石で囲まれた空間に1人なんだと思うと、石棺に葬られたような気がしてくる。だから、少しでも他人がいてくれるという手の温かさが勇気になる。
進み続けると、また扉があった。電子ロックはかかっていない。開けると、石床にカーペットが敷かれた廊下に出た。
「空調が効いてるみたいですね」
ジメジメとした湿気もなく適温に感じる、そういえば時折聞こえていた風鳴りもない。
「カーペットもキレイですね。泥の汚れもほころびもあまりない、それに布1枚あるだけで足の負担が違います」
大吾は何度か足踏みをする。
「とりあえず、あの部屋に入りましょうか」
大吾は廊下の先にある、1つのドアを指さした。
「他にも部屋はあるみたいですけど、どうしてその部屋なんですか」
よし子は左右にも数枚の扉があることに気づいて言った。
「カーペットをよく見ると、癖がついてるのが分かります」
よし子は腰を屈めてじっと目をこらしてカーペットを見る。
「よく、わかりません」
「こう、光の加減ですが何度も誰かが通ったくせがついているんですよ。
そして、この部屋に入って行っているようです。
手当たり次第ドアをあけるより、何かがあると思いませんか」
濃い茶色の木で出来た扉のドアノブは抵抗することもなく、すんなりと開いた。
大吾は臆せずに入っていく。
室内にはダブルサイズのベッドと大きなタンス、1人用のテーブルと椅子が置かれていた。そしてすりガラスの窓がある。もちろん逃走を阻止するかのように、厚い木の板で封鎖されていた。
「もし罠とかあったら詰むけど、人はいない…」
大吾はひとまず無事を確認すると、よし子を手招きして導いた。やっぱり誰かが使っている印象はあるが、家探しをすることはやめておいた。どこに罠があるか予想もつかない。
「あれ、机の上になにかある」
大吾が机に近づくと、お決まりの紙が置かれていた。
《答えはでましたか?》
確認して大吾はため息をつく。振り向くと、ベッドによし子が腰掛けていた。
「ちょっと疲れちゃった。みんな大丈夫かな」
小柄なよし子がさらに小さく見える。大吾もよし子の横に座る。膝が触れあう程の距離に。
「俺も心配だけど、多分…いや、白雪さんこそ大丈夫?ここまで色々と大変だったから。怪我も、まだ痛むよね」
内ももを見ると、血の跡が
大吾によし子が抱きつく。よし子の体の熱を左半身に感じる。
「ごめんね、急に、でも恐くて」
そう言いながら、大吾の顔を覗くよし子の瞳は潤んでいる。唐突なロマンス展開。緊張状態が続き、また別の緊張に追いつかない。
「あ、うん、えっと、そうだよね」
「少しだけ、少しだけこうしてくれればいいから」
よし子の吐息を頬に感じて、存在を忘れていた心臓のドラム乱打がはじまる。大吾はよし子の頭をなでた。彼女が言う、少しだけが終わるまで。
大吾はグッとよし子の体を自分の体から剥がす。
「さっき、あの机の上でミッションを見つけた。俺なりの答えは出たよ。
白雪さんに答えを言えば、このイベントは終わって帰れるかな」
よし子は目をぱちくりさせた。
サブローは、簡単にベッドメイクをすませると、用意してあった紙を机の上においた。もうすぐこの部屋に、参加者たちがたどり着く。このメッセージを見てどう動いてくれるだろう。
「黙殺されたら、悲しいな」
紙に踊る文字は、シロー渾身の汚文字だ。なるだけ汚く、でも読めなければ意味がないんだと言って、たくさんの悪筆を参考に夜なべして書いていた。塗料も市販されているものだが、血の色に寄せたくて何度も調合をしていた。
この紙切れ1枚に、シローの並々ならぬ努力がつまっているのだ。
サブローは振り返ることなく、部屋を出ていった。
「さ、キレイになったよーこのあとは?」
「ここまでのタスクは完了だ。戻るか。
お、サブローがお前が忘れたメモを部屋に置いてくれたってよ。ちゃんと感謝しとけよ」
「あ、サブローさすが!
だってだって山は火事になるし、予想よりもケツカッチンになったからやること抜けちゃったんだよ。仕方ないじゃん」
「いつも言ってるだろ、自分の仕事はちゃんとやらないと。次回のゲームでは反省をいかすように」
「はーい」
「でも、そのタフさには助かった。なんだかんだでみんなで揃って、最後を見られるからな」
「そうだね!早く行こう」
ジローとゴローは仲良く歩いていく。
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