第28話

 数メートル進むと、立て看板が現われた。昔の人相書きでも書かれていそうなボロボロの木で出来ている。これもお馴染みとなってきた汚い文字でミッションが書かれていた。


《扉を選んで進め。ただし、1つの扉に2人まで》


 立て看板の先には、3つの扉があった。各扉の上には懐かしさすら感じる電子ロックが設置されている。

「今回は、まともな指示だな」

立て看板に顔を近づけて、大吾は呟く。

「2人ずつ、どうやって分ける?」

瑠偉が後頭部をさすりながら、問う。

「男女で分かれるか、グーパーか。

俺たちは4人だから2組出来る。扉は3つだから、正解があるのか…」

 大吾は指示の内容に考えを巡らしている。

「1つの扉に2人まで、ということは1人で進んでもいいんですよね」

よし子が意見を添える。そう、1人ずつ入ることも問題ない。要はどのようにこのパーティメンバーを分けるかなのだ。

 殺人鬼、と思われる危険人物がいる中、たった1人になりたいと思えるか。誰かと一緒に入りたいと思った場合も、誰をパートナーに指名するかが大事だ。ここで間違って殺人鬼をパートナーに選んだら終わる。詰む。

パートナーが殺人鬼でなかったとして、3つの扉のうち死に直結する扉がないとは書かれていない。

 この立て看板1つで、いくつもの命の選択が潜んでいるのだ。

「出来るだけ、生き残る確率をあげる方がいいと思う」

瑠偉も意見を添える。


「わたしは、瑠偉くんと一番奥の扉に入る!」

エレナが唐突に提案する。

「どうして?」

 よし子が目をパチパチさせながら、エレナに質問するがエレナは聞こえていないのか、瑠偉の手を引いて一番奥の扉に進んでいく。

「え、ちょ、エレナさん。待って、こういうことはみんなで納得して決めないと」

最年少の瑠偉の方が、エレナよりもよっぽど大人だろう。

「納得って、だって何がベストだなんて分からないから納得なんてないわよ。

わたしが瑠偉くんと一番奥の扉がいいなって直感で感じたんだもの!

理由を説明するなんて無理ーあはは!ほら、行こう行こう。それに…」

 エレナが取り残された大吾とよし子をちらっと見る。

「大吾くんとよし子、結構いい感じじゃない?」

 瑠偉の耳元でそう囁くと、エレナは扉をあけて大吾とよし子に大きく手を振り瑠偉とともに中に入っていった。

その直後、扉の上から電子ロックの施錠の音が響く。もう一番奥の扉から入ることは不可能になった。


 反論の隙もなく、取り残された大吾とよし子は目を合わせた。

「じゃあ、行こうか。どっちの扉がいい?白雪さんにも直感で希望があれば聞くよ。

あ、もちろん、何が起こったとしても責めたりしない。それになんなら棒倒しとかで決めてもいいし。

白雪さんが1人で行きたいのであれば、その気持ちも尊重する」

 大吾の笑顔を見て、よし子も笑顔になった。

「じゃあ、手前のこの扉に一緒に入りましょう。なんとなく、これがいいです」

大吾とよし子が一番手前の扉から中へ入ると、先ほどと同じ電子ロックの音が鳴った。


 エレナと瑠偉は一番奥の扉から繋がる通路を進んでいく。エレナは瑠偉の手を握ったまま、つかつかと進んでいく。

「エレナさん、ちょっと歩くの速くない?何があるか分からないし、もうちょっと慎重に進んだほうがいいと思います」

「………」

 エレナは答えず、歩くスピードも落とさない。瑠偉は足をバタバタと回してなんとか転ばないようにするのが精一杯だ。

扉を入ってから、エレナは少し様子がおかしいかもしれない。瑠偉はエレナの横顔を盗み見る。

 その表情、振る舞いに、瑠偉は背筋が寒くなった。


 ひたすらに一本道。もうさっきまで自分が脳内で作っていた地図もぐちゃぐちゃになっている。

 ここは、どこだろう。もう地上なのか、それとも地下なのか、なんとなく坂を上っているような、下っているような。自分の感覚が信用できない。

つくった穴から落ちた時?螺旋階段を上る前、違う。寸胴に真っ赤な隈さんが入れられていた時だ。誰も追求しなかったけど、あれは絶対に僕たちの中にいた誰か?いや、もしかしたらまだ遭遇していない第三者の可能性もある。

部屋のほとんどが闇に覆われていて、死角が多すぎるんだから。

 おぉぉぉぉおおお、るぅうぅうううう。

あぁ、また鳴いている。次はなんだ、何があったというのか。今は静かにして欲しいのに、この危機的状況をわかって欲しいのに。

どうして鳴くんだ!


「瑠偉、そいつ、ヤバイから逃げて」

 脳内に聞こえた女の子の警告に、瑠偉の体は強張った。

「今、確信した。そいつは人を殺してる。何人も。瑠偉を殺すかは分からないけど、一緒にいない方がいい。なるだけ距離をとって」

女の子の警告は、瑠偉の処理スピードでは追いつかない。足の動きも止まっていた。

「どうしたの?」

 瑠偉を見ることもなく、黙ったまま手を繫いだままのエレナ。今、彼女はどんな顔をしているのか。

「瑠偉、気取られたらダメ。あくまで何も気付いていないふりして。そうじゃないと危ないから」

「そんなこと、今更言うなよ!」

 瑠偉は女の子への抗議の声を、言葉として発してしまった。

「誰と話してるの?」

 ゆっくりとエレナが瑠偉を振り向こうとした時、通路の先から眩しい光が入ってきた。

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