第24話
がんっ!!!どさっ!!がんん、ぼろぐぁららららら!!
大吾が見つけた脆くなってひび割れた床に、手当たり次第砲撃を繰り出す。崩れていた瓦礫を何度も何度も放り投げて遂に床が抜けた。下からはささやかながら光も漏れている。
1メートルくらいになったいびつな床穴を、大吾が覗く。小さい手頃な石を放る。
すぐに、軽いコンという音が返ってきた。
「多分、そんなに高くないと思う。これならそのまま下りられそうだけど」
それは運動神経に自信がある者が言える台詞だった。
瑠偉は危なっかしい。よし子は足を怪我している。エレナは運動能力を激減するパンプスを装備している。
「あ、さっききったないけどスツールみたいなのあったよ!スプリングがいきてれば、トランポリンみたく使えるかも。
ごみにしか見えなかったから言わなかったんだけど、持ってくるー瑠偉くんも手伝って」
しばらくして、エレナが瑠偉とともにスツールを運んできた。厚みは申し分なく、スプリングもいきている。ただとにかく汚い。
出来た穴に無理くりスツールをつっこみ、階下に落とすと大吾が躊躇なく飛び降りた。
大吾が穴の真下にスツールを設置し、エレナ、よし子、瑠偉と飛び下りてくる。
人が乗るたびに、ぼずっと音をたててスプリングが軋み、埃を吐き出した。
下りた先は廊下のど真ん中だった。大吾は先頭になって歩き始める。天井にはお馴染みの電灯がついているため、歩くのに困難はなかった。
歩いている途中で誰かが包み紙を開ける音がする。チョコレートの甘い香りが鼻孔をくすぐった。
「ちょっと、疲れたね」
「うん」
「あ、ごめんごめん。少しおなか空いちゃって」
ただ廊下がのびているだけで休める場所は無さそうだ。
「もう、ここらへんで休んじゃおうか」
大吾は疲れを見せないように、ふっと笑った。
「なんか、時間の感覚もないですね。もう少ししたら朝でしょうか」
よし子は廊下にへたっと座り込んだ。この廊下にも窓はない。疲労の連続で体内時間も狂っている。もしかしたら、まだまだ朝は遠いのかもしれない。朝がきたとして助かるわけでもないのに。
「どうぞ」
瑠偉がポシェットからあらたにお菓子を配る。ぱんぱんだったポシェットはかなり軽くなっているようだ。
「甘いもの、たすか~る」
あぐらをかいて座るエレナは、躊躇なくクッキーを頬張っている。
「なんか、不思議な感じだな」
大吾は飴を頬張り、口の中に転がす。
「和法、大丈夫かな」
「もうとっとと脱出してたりして」
「それいいね!隈ももう救出されてたりしてね」
4人の小さな空間はお菓子のおかげか、やんわりとした空気になっていた。もうこんな時間はないかもしれない。
「あ、りんご味の飴好きなんですよ~」
瑠偉がうきうきと飴を頬張る。とても癒される光景だ。
「こんなことなら、とがらないで水も飲んでおけばよかった。こんなところにある飲み物なんて毒でも盛られてるんじゃないかと思ってさ」
「それ、がぶがぶ飲んでたあたしの前で言う~?それに飲んで見せたじゃない。何も起こらなかったでしょ」
「たまたま毒が盛られていないボトルだっただけで、他も安全っていうことじゃないだろ。
瑠偉のポシェットだって怪しいのに、今はこうして食っちゃってる。矛盾だな」
「そういえば、そうですね。僕ももう自分のもののように馴染んじゃってましたけど。あの最初の部屋に置かれてたんですよね。
確かに、犯人が何かしてるのが普通ですね」
「犯人って?」
「もちろんここに僕たちを連れてきた人ですよ!誘拐、監禁した犯人です」
よし子の質問に、瑠偉が口の中の飴を気にしながら答える。
「犯人、ね。あたしはなんかピンとこないな~」
もちゃもちゃとお菓子を頬張るエレナを見ながら、大吾も考える。
瑠偉はエレナと大吾を見て思う。彼らは向こう側の人間なんだ。すでに向こう側に行ってしまった人間だ。
顔に出してはいけない。恐怖を抱いているとばれたら、教師と同じ目に遭うのは自分になるかもしれない。
「あ、飴って最後どうしてます?」
瑠偉は今思い描いていたことを振り払うように、謎の質問をした。
「飴の最後?」
「飴が最後、小さくなった時かじる人っているじゃないですか。僕は最後までちゃんと舐める派です」
「フフフ、あたしも舐めきる派」
「そうですね、かじらないですね。はい」
「俺も多数派って回答で。さ、そろそろ先に進もう」
大吾は疲れを見せないようにすっと立ち上がる。各自が続いて立ち上げる。
よし子は怪我で出血したせいか、顔が白い。元々色白ではあるが、さらに白さが増している。右手でおなかをおさえるような仕草をしている。
瑠偉は全身が汚れてはいたが、心配させまいと明るく振る舞おうという努力が伝わる。キャップを時折、ぎゅぎゅっとかぶり直して気合いをいれている。
エレナが一番、最初に比べると静かになっていた。騒いだせいか電池切れも早いのだろう。ブリーチ自慢の金髪も、所々茶色の汚れが目立つようになっていた。
ここに窓がなくてよかった。ガラスに映る自分の姿を見たら、女性陣は特にショックを受けそうだ。
体は重い。地球の重力が憎い。それでも前に進まないといけない。
少しブレイクしたおかげで、気持ちは前向きになった。早く出よう。
大吾の後ろから、飴をかみ砕く音が聞こえた。
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