第22話

「着いたよ。こっちにも少しだけど明りはある。次の人、上ってきてー」

 瑠偉が恐る恐る手すりにすがるようにしてのぼっていく。勇気を出さないと!と自分を鼓舞するが、もしかしたら落ちるかもしれない階段は恐かった。足下は暗い、手すりのさび付いた感触も、背中がぞわぞわする。

もし落ちたら、どうしよう。手すりだけは離さないようにしないと。大吾のように時間をかけないように上る方がいいのかもしれない。

 軽やかに、体重を感じさせないように。


おぉおおぉおぉぉぉん。るぅうううぉおおおぉぉぉぉん。

 階下から風が鳴るのを、じっと大吾は聞いていた。これからどうするかは、全員がここに辿り着いてからにしよう。

 エレナがスカートを後ろ手に押さえながら上る。その姿に和法は呆れていた。

よし子も黙々と上っていく。


「和法くんは、ちょっと気になることがあるから別行動をとりたいって」

大吾達と合流すると、よし子が皆に伝える。

「えぇー勝手に行動するってどんだけよ」

「たしかに、危険だと思う」

エレナと大吾がよし子を責めるかたちになる。

「何するとか言ってた?」

「私と瑠偉くんが見つけた階段あったでしょ。その先が気になるって。甲冑が倒れたって話したら興味がわいたみたい。

でも危ないとは言ったんだけど…ごめんなさい」

和法の単独行動を止めきれなかったよし子は謝罪した。

「それでもしかしたら、甲冑があった部屋にはお宝があるかもって」

「こんな時に命よりもお宝って。まぁ、本人の責任だ。

俺たちは先に進もう。ここは明りもあるし、改めて」


 くううぅぅぅ。

 大吾の話を遮ったのは、瑠偉のおなかの音だった。ここまで色々なことが起こっていて空腹という概念が吹き飛んでいた。

「ごめんなさい、僕おなか減っちゃって…

あ、そうだ!これ、このポシェットの中にお菓子が入ってるんだった!

みんなで分けましょう」

 瑠偉はポシェットの口を開いて、中を見せる。チョコレート、クッキー、飴を包む鮮やかな色紙が見える。

貴重な食糧は一気に食べることはせず、いったん1人2個ずつ分けることにした。和法が合流したら和法にもあげようと約束する。

「捜索は手分けしてうやろう。隈のことも心配だから、なるだけ早く捜索を終えたい。

4人いるから4方向に分かれよう。

一通り捜索しおえたら、またこの場所で待機。決して無茶はしないこと」

エレナ、よし子、大吾、瑠偉はお菓子を食べ終えると、このフロアの散策にはいった。


 フロアは食堂よりも広かったが捜索できる場所は限られていた。もともとは部屋の仕切りだった壁もあちこちが崩れていた。蜘蛛の巣が頭や顔にかかって、人の気力を萎えさせる効果は絶大だった。

ここにも自分たちにプラスになるような武器も食糧も無さそうだと早々に諦めがついた。


「何か、見つかった?」

大吾が戻ると3人はすでに約束の場所で待機していた。大吾の質問に、3人が首を横にふる。大吾は、各自の顔を観察する。

 瑠偉は顔も黒く汚れ、キャップにも蜘蛛の巣の洗礼をしっかり食らっていた。払いのける元気もないのか、ただ気付いていないのか、膝を抱えている。

 エレナは自慢の金髪のところどころが茶色く汚れている。ネイルやメイクを気にしていたのが懐かしく思えた。

 よし子は懸命に何かを見つけようとして、先ほどよりも満遍なく汚れている。りんごの髪留めだけは、薄く明りを跳ね返してぎりぎりの輝きを保っている。

足の怪我を気にしてはいるが、歩行に問題ないというのは本当のようだ。


「どう、しましょう。まだ和法さんも来ないみたいだし。いったん下に戻りますか…?」

 よし子の提案に続き、大吾が新たな提案をする。

「さっき、あっちの床がもろくなってるところを見つけたんだ。多分、力を加えれば抜けると思う。

戻るよりも、とにかく道を開拓して進みたいんだけど、どうかな」

 大吾の意見が採用される。螺旋階段の下に広がる暗がりには、戻りたくなかったからだ。吸い込まれたら、戻ってこられないような闇だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る