第20話

 よし子はさっき見つけた階段に続く空間に立っていた。

「瑠偉くんは、もう少し離れたところにいてね。もし崩れたりしたら危ないから。

私に何かあったらすぐ皆に知らせてね」

よし子は壁に手をつけながら慎重に階段を上っていく。一段一段、踏みしめる。ぽろぽろと小石が欠けて下に落ちていく。

 本当は誰かと一緒に、安全なところにいた方がいいのかもしれない。でも、今は多少の危険があっても1人になりたかった。おなかの奥がじくじくとしている。知っている感覚だ。


「大丈夫ですか~」

「うん、今階段の突き当たり?に来たみたい。扉みたいなのがあるから、ちょっと開けてみるね」

 扉を押し開けて中を覗くと、甲冑がよし子めがけて倒れてきた。

「きゃっ」

体勢が崩れて、よし子は背後に引っ張られる。頭から落ちたら死ぬ、よし子はなんとか踏ん張るが足場が悪すぎて階段の下へと落ちていった。


「うわ!!!大丈夫ですか、立てますか」

 心配した瑠偉が慌ててよし子に駆け寄る。よし子はもうもうとたつ埃の中で、あひる座りをしている。

「いや、びっくりした~急に西洋甲冑が倒れてきて。

もしかしたら、この先は倉庫なのかも」

瑠偉を心配させまいと、なんでもない風に応える。瑠偉の手を取って立ち上がると、瑠偉の目がよし子の足でとまった。

「あ、ちょっと内ももを怪我しちゃったみたい。血が出てるけど、平気平気」

「なんとか消毒だけでもできればいいんですけど。食堂に行きましょう。椅子があるからそこでちょっとみましょう」

 自分よりも小柄だからか、瑠偉のことを子ども扱いしてしまっていたが、頬が少し熱くなるのをよし子は感じる。

「うん、戻ろう」

 瑠偉に手を引かれて、よし子は足をかばいながら歩いていく。


 隈は調理場のメッセージを食い入るように見ていた。そもそもここはどこで、この指令じみたメッセージを残しているのは誰なのか。

「指令か?これ」

 和法たちはミッションという言い方をしていたが、本当にそうなんだろうか。何かをしないとペナルティがある。というのであればミッションと言える。指令をこなせなかった場合はここから出られない。指令をこなせばここから出られる。それなら得心する。

 改めて文章を読む。やっぱりミッションとするのは早とちりな気がしてくる。仲間割れを促しているのか。やっぱり主催者の意図が知りたい。そのためには何をすべきか。

「監視カメラ、盗聴器、があったとしても素人には見つけられないよな~

でもロックが解錠されるタイミングは誰かの意思を感じる。たまたま開いてるわけでじゃない。」

 隈はさっきの広間での行為を思い出してしまった。自分の目では確かめていないけど、教師は死んだのだ。縊死したんだ、今一緒に行動をしている人達の手によって。

その行為の後、扉は開いた。だから今、新しいエリアを捜索出来ている。

 本当に人を殺めるタイミングだったろうか。ここで目覚めてからそんなに時間もたっていないのに、さっさと教師を吊った。異常じゃないか。

 主催者側の思惑の検討が、いつしか仲間たちへの疑惑へと変わっていく。

「こういうのが一番だめなんだ!うん、やめよう。さっきの割れた天井使えないかなー」

 隈は調理場の捜索をやめて、食堂に戻ろうとした。

 さくん。

目の前には隈の知っている顔があった。

「あれ、どうした、の…」

隈の視線が下に移動する。

「え、なんで」

ナイフの先が、自分の腹に埋まっている。だんだんとシャツに血が滲んでいく。相手に壁を向かされる。信じられないくらいに力が強い。

 抵抗をする前に、隈の意識はブラックアウトする。驚きすぎると、人の喉は急激に閉まるのだろうか。叫ぶことも、助けを呼ぶこともなかった。

 さくん、さくん。

  グッ…ググ…さくん。

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