第3章

第18話

 広間を出ると、目の前と左右に廊下が延びていた。広間を真っ先に出たエレナは真っ直ぐに目の前の廊下をずんずんと進んでいる。

廊下は先ほどの広間より暗い。壁からは湿度が漏れ出てきているようで息苦しさも増している。閉塞感がそうさせているのかもしれない。


 よし子は瑠偉の手を握り、左手に道に進む。歩いた先は壁の一部が崩落して塞がっている。暗い中、この石を掘り進んでいくのは不可能だ。道具もない。

また崩落が起きて巻き込まれる可能性もある。

 そのまま広間の扉まで引き返そうとした時に、さっきは気付かなかった空間があるのを見つけた。廊下よりもさらに暗い。

気合いを入れてじっと目をこらすと、空間には急な階段があるのを見つける。試しに上を覗くが何も見えない。ぽっかりと黒い空間が広がっている。


「おねえちゃん、いったん戻ろう」

 瑠偉にぐいと手を引かれて、よし子は来た道を戻ることにした。闇に目を凝らしていると飲みこまれそうだった。あの階段の上は、また後で見てみよう。


 広間へ通じる扉まで戻ると、男性陣が待っていた。

「どうだった?」

隈の質問に、よし子と瑠偉は揃って首を横にふる。

「壁が壊れてて道がふさがってた。途中に階段があったけど暗いし急だし、手ぶらで行くのは危ないと思う」

「向こうの道はお決まりの電子ロックがかかっててびくともしなかったよ。左手にも扉があったけど開かなかった」

隈がよし子たちが進んだ道とは反対の道を指して言う。


「この扉は見ての通り、釘で打ち付けられてて開かない。何か道具がないと」

正面の廊下の左手に2つ並ぶ扉をあごでさしながら和法が言う。確かにどんな災害が来てもびくともしなさそうに、何枚も板が打ち付けられている。

大事なものを守ってるというよりは、これ以上恐ろしいものが飛び出してこないように封じているようにも見える。

「つまり、今のところ行けそうなのは。この道を進んでみよう」

 大吾が歩き出す。エレナが消えていった廊下の先へと進んでいく。みな、ぞろぞろと黙って後ろについていく。


「あ、来るの遅いよー!ねね、ここ食堂っぽいよ。飲み水見つけちゃった。

みんなの分もあるよ。美容にもいい常温の天然水、しみる~」

 扉を開けて中に入るとすぐにエレナが声をかけてきた。どこまでもパワフルだ。どこかからゲットしたペットボトルの水を飲んでいる。

「毒が入ってるかもしれないのに、よく飲めるな」

「毒って、誰がそんなことするのよ」

「ここには得体の知れない殺人鬼がいるかもしれないんだぞ。食べ物、飲み物に毒をいれるなんて常套手段だろ」

 ペットボトルは円卓の上に5本置かれている。その内の一本を手にとって和法が一口飲んだ。

「うまい」

「毒とかいって、自分も飲んでるじゃん。うけんだけど」

 円卓でのエレナと和法の会話を聞いて、瑠偉の喉がなった。

「飲むなら自己責任」

 隈は言うと、室内を回ることにした。

廊下よりは明るさを感じる。心許ない明りでもあると安心する、奥の方の天井の一部が崩落して空が見えていた。

 久しぶりの外気に触れ、頭上に広がる空の存在を思い出す。

「地下じゃなくてよかった」

ぽそっと呟く。


 それぞれが部屋の捜索を始める。

 四角く、二十畳ほどの広さがある。部屋の中央には四角いカーペットが敷かれている。その上には円卓があり、汚いクロスもあった。椅子は6脚、等間隔に置かれている。

 エレナが言っていた『食堂っぽい』という表現に大吾は納得した。円卓の近くには料理を運ぶためのワゴンも置かれている。

 大きな柱時計、ただし動いてはいない。

 壁には雰囲気を出してくれそうな燭台、ただし火は灯っていない。変わりに広間と同じような照明が壁にぽつぽつ設置されている。

 奥には大きな水槽、ただし水は黒く濁り生き物はいない。


 大吾は室内をぐるっと巡る。壁には真っ黒に汚れている大きな絵画が数枚飾られている。自然に汚れたにしては作為的にも感じる。風化というよりも、誰かがわざと汚した印象を受けたからだ。


 空を見ながら佇んでる隈の近くを通る。

「今日は、月明りが綺麗だね」

こんな状況でも、こんな状況だからか。隈には軽く相づちをうって、部屋の捜索に戻った。まだ次のミッションを見つけられていない。

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