第14話

「おれは矢井田隅っていいます。えっと、さっきは驚かせてごめん。ちょっと広間の様子を見ようと思ってただけなんだ」

 少し照れくさそうに隣のよし子に謝罪する。扉の隙間から隈が覗いていたのに気付いてよし子は声が出ないくらいに驚いていた。そこにエレナの挨拶が響いて、うやむやになっていたのだ。

 隈のふくふくとしたフォルムは、謎に安心感を与えてくれる。

「あ、いえ。全然気にしないでください」

よし子も隈につられて頭を下げた。


 瑠偉の番になる。

「瑠偉です。こう見えても高1です」

そう言った途端、エレナがカットイン。瑠偉の全身を何往復も視線が行き来する。エレナはわざわざ瑠偉の方に近寄っていった。

「高1!?見えないね!いいな~童顔、憧れる!」

 瑠偉は学校の中でも小柄なグループにはいる。小学校時代は平均だったが、中高とあがるにつれて、どんどん周囲の友達に追い越されていった。

まだ伸びしろはある、と瑠偉本人は固く信じている。

 ただ身長よりも深刻に思っていたのは、エレナにも指摘された童顔だった。女子と間違われることもしょっちゅうだ。

ひげが生えてくる気配も、声が低くなる兆しもまだない。まったく気にしていないと言えば嘘だが、同年代女子に面と向かってはっきりと『童顔』と言われるとこたえた。

「あはは、は。えっと、多分みんなと同じ状況だとは思うんだけど、ぼくも気付いたらこんな所にいたんだ」

 ギュギュっとキャップを耳まで被ろうとおさえる。

オォォオオォ~ンと不気味な風鳴りがまた聞こえてきた。


 次は瑠偉の横にいる大吾の番だ。

「剣崎大吾。早く家に帰りたい。ここから出られるなら何でも協力するよ。よろしく」

「わお、イッケメンだぁ!」

 エレナはどんどん地が出て、何にでもガヤを入れ始める。

イケメンという単語をどう捉えるかは個人の自由だが、少なくとも大吾はその単語に微かに眉根を寄せる。

「何もわからない。みんなと同じだと思う。いつもみたく家に帰ってる途中だったのは覚えてるんだけど…ハッキリしないんだ」


 最期は和法だ。

「仲良く自己紹介、なんて柄じゃあないが。佐藤和法。

俺はお前らと違って、覚えていることがある。ここに来る前の記憶がな」

 誇らしく胸をはる和法の様子は、昔ながらのガキ大将感を感じる。短髪の黒髪、上背も高く、体つきも筋肉でごつごつしている。

「本当か、覚えてること教えてくれないか」

「うんうん、今は情報が欲しいから」

大吾と瑠偉がぐぐっと和法に近づく。よし子と隈も、離れたところからしっかりと耳をたてている。

「いや、まだ教えられない。お前らが味方かなんて分からないからな」

 ぺろっと舌を出す和法の姿に、隈は少しだけ苛ついた。

「最初から話すつもりがないなら、そんなこと言わなければいいのに…」

だから、心の声がぽろりした。

「あぁ?」

自分に向けられた悪口は、どんなに小さな声でも聞き漏らさない。


「その腕っぷしに期待してるわ、カズノリ」

 ケンカが開幕する前に、エレナがお得意のカットインをする。

ここはエレナをたてて、和法も隈もこれ以上揉めるようなことは出来なかった。

「ちゃんとお前らが信用に足ると判断したら、教えるよ」


 これで広間内にいる全員の自己紹介タイムが終了した。皆が十代、学生、ここに来る前の記憶が曖昧という点について、ほぼ全員合意した。

もちろん、全員がすべてを話しているわけがない。和法は何かを知っているような素振りを見せた。

こんな短い時間で互いを分かりあうなんて不可能。だけどなるだけ穏便に、6人の輪を崩さずにここから脱出しようという結末にも合意した。

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