第13話
「おこーんにーちはーーーーー!」
扉を元気に開き、髪の毛をふわっとなびかせながらエレナが円形の広間中央に踊るように出てきた。薄ぼんやりとした照明でも、エレナの自慢の金髪は目立つ。
エレナよりも先に広間にいた5人は、一斉に彼女に注目する。広間の中央に注目したことで先にいた5人も対角線上にいた互いの存在を認識したのだ。
「えっと、ごめんね。ここ何だか分かる?道?に迷っちゃってさ」
エレナは左右に視線を向けながら、いつもより明るい声を出した。こういう時、構えすぎるよりも、楽観キャラでいく方がやりやすいことを知っているからだ。まぁヤバイ奴に襲われることになっても、その時は腹をくくるしかない。
小部屋の外の空間も、内と同様に石壁、石床で作られている。壁には申し訳ない程度だが明りが灯されている。圧倒的に照明の数が足りていないことと、ドーム状の天井が高いことが原因だろう。
瑠偉はふっと天井を見た。さっき見た吊された可哀想な影は、まだある。
明りが乏しいが、そこまで広くはない円形の広間内にいる互いの顔は見える。ただエレナが堂々と立っている中央の床だけは影が濃くて何も見えない。そんな暗いところを気にせずに、あっけらかんとしているエレナがどういうキャラなのか隈は興味をもった。自分にはあんな振る舞いはできないし、外の状況も分からないのにこんにちはって、昼だという確証でもあるのか。いや、何も考えていないだけかもしれないが。
エレナの右手に2人、隈とよし子がいる。左手に3人、和法、瑠偉、大吾がいる。
「あの、聞こえてるかしら?何か反応して欲しいんだけど…」
エレナの声に応えて、よし子が手を上げながら返事をする。
「あ、すみません。私もあまり理解出来てなくて。あ、こんにちは!」
「ありがとう~そうなんだ。皆状況わかってないって感じかな」
よし子に数歩近づいて、エレナは目を合わせる。よし子も可愛いと思うが、自分の方が可愛いとインプットした。
そんな品定めをされたことにも気付かず、よし子はにこにことしている。同性がいることにも安心した。
「とにかくこんな所から早く出たいの。スマホもなくって、こんな状況耐えられない」
改めて服を探るが、手に馴染んだあの形の感触はかえってこなかった。各自もつられたように服をぱたぱたと触ったが、誰からも吉報はない。
「出られるなら、とっとと出てる」
エレナはよし子と、今発言をした和法を交互に見る。室内にはまだあと3人いる。どうするか、エレナが頬に手をあてて考え始めた時、右奥にいる影がズイッとエレナに近寄ってきた。
大きい影だが、ゆっくり左右に体をゆすって歩く姿には愛らしさがあった。
「あの、まだ何も分からないし、お互いの名前も。どうしてここにいるのかも。
だからどうかな、まずは自己紹介しようよ」
よし子の横に並んだ隈の提案に、エレナは秒で同意した。
「自己紹介って、このクソ状況わかってんのかよ」
和法がうんざりといった様子ですぐに抗議した。こんな事をしている間にも、あの殺人鬼が襲いかかってくるかもしれない。いや、殺人鬼がこの中にいないという保証もないからだ。
「でも、このままじゃ何するにも大変だよ。おい、とか、お前とかって呼び合うのは非効率だよ?分かることは少しでも共有する方がいいとおれは思う」
「そうそう、少なくともここから出られるまでは一緒なんだからさ!名前もだしSNSアカウントくらいは知りたいでしょ~」
「簡単になら、自己紹介してもバチは当たらない」
大吾も肯定に回ったことで、自己紹介の是非は決した。
「じゃあ、まずは私からね」
エレナはびしっと元気に右手をあげる。今からはじまる自己紹介タイムも、彼女にとってはショーのようなものだ。
「美島エレナ、16歳。結構フォロワーもいる人気者なんだよ~ここから出たら、みんなアカウントフォローしてね!
あ、見て見てこの髪色、きれいにブリーチ決まって嬉しいんだよね~トリートメントも高いの使ってるんだけど、艶髪大事だから仕方ないんよ。
ほら、日本人離れしてるヘアメイクにこだわっているの。化粧品にもこだわってるんだ~それから」
このまま、永遠に自分語りが終わらない予感がしたが、よし子がそっと助け船を出す。
「エレナちゃん、ありがとう。よくわかったよ。ほら、今日の自己紹介は短めで大丈夫だから、うん。もう充分エレナちゃんが可愛いの伝わったよ。
あとで、私にもお化粧の仕方教えてほしい」
エレナの自己承認欲求を上手に満たすよし子に、他の面々は感心している。
「あ、しゃべりすぎちゃった、ゴメンネ。じゃあ次はアナタ、どうぞ!」
司会者のように、エアマイクをよし子に向ける。
急に拳を向けられて少し驚きながら、よし子の自己紹介がはじまる。
「あ、と。白雪よし子です。私もエレナちゃんと同い年、です」
名前と年齢だけでよし子の時間はあっという間に終わってしまった。簡潔すぎて味がしない自己紹介に、エレナは突っ込もうとしてやめた。
よし子はエレナとは対極のようだった。漆黒の髪色でミディアム。前髪にはリンゴモチーフの髪留めをしている。緊張からか、時折髪留めを触る仕草も愛らしかった。化粧もバッチリ、照明も整っていれば、白雪姫を地でいけたかもしれない。
そのまま、エレナの位置から反時計回りに自己紹介が繋がっていく。よし子の次は、隈の番だ。
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