第12話
最悪、最悪、本当に最悪だ!きれいにブリーチが決まった髪の指通りも最悪だ。ばりがりと絡まっているが手櫛でなんとか整えていく。
ポーチもカバンもなくなっている。盗られた??もう最悪だ!プレゼントでもらったブランドもので、頭の先からつま先まで綺麗にしてくれる魔法のコスメがパンパンに入っていたのに。そのコスメだってハイブランドのラインで揃えた。
買い物に要した時間とお金を一気に失って、がっくりと肩を落とす。
でもちょっと待って、この靴は可愛い。下を向いたことで、自分の足が目に入った。
太ももまである白いソックスに、明るい水色のパンプスはとても似合っている。非日常的な可愛さが詰まっている。
太めのかかとは5cmくらいの高さで低身長を少しカバーしてくれるし、足の甲にかかる太めのバンドは靴がパカパカするのを阻止してくれる。まるくコロンとしたつま先はガーリーさを爆上げしてくれる。
今日履いているミニスカートとの相性もいい。これは誰がくれたんだろう。まぁいいか。もう自分のものだ。
トゲトゲしていた気持ちがしぼんでいき、今はもうこの靴をくれた人に興味が出ていた。
美島エレナ(みしま えれな)は、若いうちにしか出来ないことをとことんやっていきたいと思っている。露出する、若さを武器にする、バカと言われても恥ずかしくない。若いうちのバカは可愛いと同義語だと信じている。バカが通用しなくなる前に玉の輿に乗ってしまえばいい。彼女が思い描く未来はそこはかとなく光輝いていた。
狭く、暗い部屋にはドアの向こうから漏れているかすかな明りしかない。
暗闇になれてきたが目をこらしても、この部屋には何もないという結果しか得られない。とにかく、部屋を出よう。
扉に手をかけて、思い直す。本当にこのまま出ていっていいのか。さっきのように、変なことが起こらないなんて保証はどこにもない。
「とりま、行くっきゃない」
先ほどの記憶を脳が勝手に再放送をはじめてしまう。
エレナは山の中にいた。近くから、遠くから、逃げ惑う人の声が聞こえる。緊急事態だけど、どうすればいいのか。
ひゃく、じゅう、199?110?に電話。と思ってスカートをまさぐるもスマホは落としてしまったようだ。その変わりに、見覚えのないメモが入っていた。
「考えるの、めんど」
誰か全部丁寧にわかるまで教えてよ、と不満に思いながらエレナはあてもなく歩き出した。メモに書かれていた内容はただのイタズラに決まっている。きったない字だ。
でも、自分が今、覚えのない山中にいるということは、イタズラの主はエレナをどうにかしてここまで連れてきたということだ。
気絶している人間1人を連れて、こんな山に入るなんて相当に暇かイカれていることは決定だ。エレナは内心でイタズラの主を罵った。
何かのイタズラ動画だろうか、撮影者はどこにいる?ドローンとか使ってる?と空を見上げるがそれらしいものは飛んでいない。
しばらく歩き続けて、疲れてしまったから適当な木の幹に寄りかかって休むことにした。昨日も夜遅くまで遊んでいて、まだ疲れが取れきっていない。やばい、眠い。
そして気付くとこの石壁に囲まれた部屋に佇んでいた。
エレナは扉の取っ手に手をかけたまま、首を左右に倒して緊張をほぐす。自慢の長髪が、首の動きにあわせてゆれる。
扉をあけて外に出た。
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