第2章

第7話

 ォォォォォォォンンンン…

   ォォォォォォォォォォォォンンンン…

 風鳴りのような音で、鷹野瑠偉(たかの るい)は目を覚ました。右頬にざらざらひんやりとした感触がある。

 仰向けになり天井に視線を向けると、申し訳ない程度の明りを提供するカンテラが下がっていた。ガラス部分も曇っていて仄かな明りだが、暗闇よりはずっといい。なんとなく懐かしいようにも感じる。

 キィキィとカンテラが左右に揺れる。どこかから風が通り抜けているようだ。

 

 瑠偉はゆっくりと体を起こす。尻にしっかりと石床の冷たさを感じたが、寒さは感じない。

 自分の両手を見て、首をゆっくりと巡らせる。三畳もない狭い部屋に瑠偉はいる。

…ォォォォォォォンンンン…

 瑠偉はどうしてこんな所にいるのか、思いだそうと目を閉じ脳を探る。

ここはどこだ。どうしてここにいる。ここに来る前は、そうだ、いつものスクールバスに乗って帰る途中だった。違う、その後、山にいた?赤い、山を見た気がする。でもそれは何だ?現実味が乏しく、夢かもしれない。


「ダメだぁ、なんかぼぉ~っとする」

瑠偉は声変わりを迎えていないため、中性的な声はすっと溶けていく。大きめの独り言に、誰かが反応してくれたらいいなと思うが、残念ながらどこからも声はかからなかった。

 とりあえず、何かないか部屋の中を確認すると小さなキャップが落ちていた。瑠偉は軽く叩いて埃を払うと、頭に被る。少しきついけど、問題ない。

 茶色のポシェットも落ちていた。大げさなくらい大きいボタンを外してポシェットの中身を確認する。透明な個包装のクッキー、キラキラのフィルムに包まれたチョコレート、有名なメーカーの飴がパンパンに入っていた。

もう一度ボタンをとめて、ポシェットを肩から斜めに提げる。

 まだ幼さの残る瑠偉に、ポシェットは可愛らしさを添えてくれる。瑠偉は「可愛い」と言われることに多少抵抗はあるが、そうやってもてはやされるのも人生という規模で考えればほんの一瞬の期間だと分かっている。


 現時点で、自分の置かれた状況も何も分からない。そんな時にはなるだけ装備を整えるべきというのはゲームでも鉄則だ。

持てるものは持っておく、必要か不必要かは手放す必要が来た時に考えればいい。この部屋の捜索で、防御を少しあげてくれるキャップとポシェットをゲットできたのは大きい成果だと思う。


「もう、ここには何もないかな。行くか」

小さく宣言すると、鍵もかかっていない無骨な鉄の扉を開いて足を踏み出した。


 部屋を出ると、ドーム型の天井をした円形の広間に出た。先ほどと同じく床も壁も石で作られている。光源は壁にぽつぽつ電灯があるが、あちこちにうずくまっている闇の方が優勢だった。

 扉が閉まると、後ろからピッという電子音が鳴った。不釣り合いな音に瑠偉は驚き、振り返る。出る時には気付かなかったが、扉の上に機械が設置されているようだ。ランプの色は赤。

もしかしてと扉に手をかけると、施錠されていてびくともしない。

「オートロックなんだ」

瑠偉は感心しつつ、周囲をもう一度見渡す。

 あぁあああああぁぁぁ。ああおおおおおぉぉぉぉぉ。

窓は見当たらない。石の隙間からかろうじて空気が通り抜けているようだった。暑くも寒くもないが、石の無機質さが瑠偉のテンションを下降させる。


「そうだね、一周してみようか」

 キャップを外し、部屋から出て右手の壁に手をついてゆっくりと歩き出す。なるだけ足音をたてないようにしたのは、どうしてだろう。

触れている石壁は冷たさと、ほんの少ししっとりとしている。水滴がしみ出していないだけマシだなと思いながら、くみ上げられた石の隙間に指を入れてみる。石の隙間をあみだくじのようになぞっていると、先ほどと同じような扉があった。

扉上部に機械があるのも同じ、ランプは赤。

 扉と壁の隙間からはほんの少しだけ明りが漏れている。

「たぶん、僕と同じように人がいるんだろうね」

また壁のあみだくじを再開する。


 一周回って、自分がいた部屋の前に戻ってきた。

瑠偉がいた部屋と同じような扉は全部で6つ。ランプはすべて赤く、中には人がいrかもしれないと期待する明りも漏れていた。

 作りの違う、大きい扉が2つ。両扉仕様になっているため、大きさは2倍以上。その2つの扉は向かい合う位置にあった。

「大きい扉、どちらかは出口だよね。もしかしたら両方出口かもね」

大きい扉の上部にも機械はついていたが、扉の向こうからの明りは確認できなかった。


 瑠偉は床を見る。円形広間の中央は一番暗く、何があるか今いる位置からは確認できない。何もないかもしれないし、何かあるかもしれない。ただ、中央の暗がりに歩いていくのは気がひけた。そう気分の問題だ。

「あと5人はいるはずだよね。僕と同じ状況の人たちが。その人たちが出てきてから、あの中心は確認しようかな」

 呟いて、扉に背を預ける。床の闇から目を背けるようにしてドーム型の天井を見上げる。

「?…何か、ある??」


 ドーム型の天井中央から、人影がぶら下がっていた。

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