第6話

何より、石の床に一定の間隔で落ちていく水音がやけに耳につく。

 ピタ…ピタ…ピタ…

 彼女が女の足に何かしていたこと、何をしていたかは教えてくれなかった。それでも金属の冷たさが足裏の皮膚をスッと通っていったことは覚えている。

その時からずっと、水音が聞こえていたように感じる。雫が定期的にポタポタと…。


「あいつ、私の足裏切っていったんだ」

口の中で、今出た言葉が反響する。

 そうだ、彼女は刃物で切っていったんだ。だから出血して、台から床に血が落ちていってるんだ。気付くと、鈍っていた思考がクリアになっていく。そのせいで恐怖もびったりと女に張り付く。

 足を切られてから、どれくらい時間が経ってる…?

 どれくらい、自分の体から血が流れてしまっている…?

 致死量の出血、失血死、来ない救助、拒否できない現実が女を襲う。

「助けてーーーーーーー!だれか来てッッ!!!死んじゃう!!

嫌だ、なんで、こんな、バカみたいなこと、あるわけない!!!!誰か、誰でもいいから!!早く来てよ!!!くそ!!バカ、ふざけんなーーー!」

 最大の声量で、助けを求める。もしかしたら来てくれる、きっと気付いてくれる。本当に僅かな可能性に希望をもって、女は叫び続ける。


 もう、頭上から男の呻きは聞こえなくなっている。女は見えないが、室内の空気で感じられる。

男はもう死んだのだろう。腹を虫に食い破られたのだろうか。男の体を食い尽くしたら、今度は女の体を餌にするかもしれない。ゾゾゾと虫が蠢いているような音も聞こえる。

「あぁぁあぁぁぁぁあぁああああああああああああああああ!!」


 遠くから声が聞こえる。

先ほどの処刑部屋を出て、彼女は私室に戻っていた。私室といっても、ろくに調度品は揃っていない。小さい机と椅子、簡易的なベッドがある。

最新のシャワーが完備されているのがお気に入りポイントだ。古い石作りの屋敷では、気付くと埃やら石粉で汚れていることがあるからだ。髪の毛がバリバリする。


 また風にのって、女の呪詛の言葉が聞こえてきた。

 彼女はうんざりしながら、この後の段取りを確認する。あの男と女について現段階でやるべきことはもうない。

すでに次のゲストがこの屋敷に向かってくれている。丁重におもてなしをしなければ。こんな辺鄙な土地に来てくれるんだから。

「ちょっと時間かかっちゃったな」

 足首にはだるさがたまっている。

準備は万端だったつもりでも、相手の行動によって予定は狂うものだ。

女を叩いたせいで、右腕もだるく、彼女はストレッチをして回復に努める。じんわりと血が流れて温かくなってきた。


「さ、念のため、もう一度道具の確認をして、それから、シミュレーションもおさらいしないと」


 彼女には遠足の前の日のように心が躍っていた。

 彼女は本番のため、部屋を出て行った。

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