第4話
まずは、目を潰してやろう。
虫たちをちょっとずつ、男の眼球に導いてあげる。最初は戸惑っていた虫たちも触感になれて、ついに眼球に噛みついた。
あとは追随するのみ。
虫たちはじゅくじゅくと眼窩の中を縦横無尽に押し開いていく。
激しい痛みで男はすぐに気絶をして、彼女はガッカリした。まだ何もこの男と会話していないのに。男は女より痛みに弱いと聞くが、この男はどれだけ軟弱なんだと苛立ちが募る。
仕方がない。このまま虫たちには目を楽しんでいてもらおう。これくらいで人は死なない。
ひとまず男のことはおいておき、女の方と会話を進めることにしたのだった。
そして今、やっと男と会話をしているのだが彼女は落胆を感じている。
「そんなつもりはない。ハラスメントなんて、していない。
部下からも何も言われていない、人事からだって指導されたことだってない!!!!」
唾を散らしながら、男は頭を左右にふる。少しでも眼窩に詰まっている虫を振り落とそうとしているのだろうか。
やっぱりこの男もただ頭の悪い加害者だった。自分の行いを正当化して、すべて自分の都合のいいように解釈しているのだ。
ハラスメント被害者は、顔に、声に、些細な表情に、嫌な感情を出していただろう。共感性が高い人間なら、わずかな気配でも察知できる。
言い過ぎたかもしれない、今のはよくなかったかもしれない。
年を重ねるほど、寄り添う姿勢や能力が大事なのだと彼女は知っている。
「言われないと分からないし、あんた達みたいなのは言われても分からないんだよね」
台上の女の様子をみる。彼女の位置からだと女の表情はあまり見えない。
が、胸が異常な早さで上下していることは視認できた。耳をすませば、息遣いが荒いことも分かる。
女が2人の会話を聞いて、怯えていることに彼女は満足する。
それでいい。
他人の話を聞くことができない人間が多すぎるし、間違いなくさっきまでの女は聞く耳をもっていなかった。それが今、怯えているのだ。
男の状況を脳内で想像できているということもわずかだが成長だと思う。
でも、この程度で怯えてふぅふぅうるさいと、もし殺人鬼と鬼ごっこをしたら女は居場所がすぐにばれて殺されるんだろうと想像して彼女は笑った。
「さ、それじゃあさっきの続きしましょうか」
仕切り直すため、手をパンッと鳴らす。石に囲まれた部屋の空気が少しゆれる。
彼女は開口器を手にしていた。強制的に男の口をこじ開ける器具だが、男はもちろん抵抗する。きっと今以上に恐ろしいことをされると分かっているから当然だ。
しかし、体を拘束され続け消耗している男の抵抗など通用しない。ほんの数秒後には無様に口内をさらす男は小さく見えた。
「目が見えにくいと思うから、ちゃんと聞いてくださいね。
目でお食事中の虫、わかりますよね。今度はあんたの胃の中に虫をプレゼントします。
あんたの胃腸が元気なら、虫に食い破られることはないでしょう。
虫の食欲が旺盛だったら、まぁ内臓からゴチになりますってこと」
彼女は言い終えるとうきうきとプラケースを抱えて、中にいる虫たちをざくざくスコップですくい、無遠慮に男の喉奥めがけて突っ込む。
男は口を閉じようとアゴに力をいれる。もちろん開口器に阻まれて閉じることは出来ない。
喉奥を刺激されて、涙と鼻水が溢れてくる。反射で何度も男はえづく。
彼女はその様を冷ややかな目で見ながら、プラケースと男の喉の間をスコップが往復する。
ざらざらとした感触が、そのまま男の喉を通過していく。
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