第2話
女は叫び過ぎて多少の疲れが顔に出ている、それでも負けん気が強いのか精一杯敵意を込めて答える。
「評判って何、誰がそんなこと言ってるの。みんなが言ってるとか言わないでよ。抽象的な情報源なんて何の価値もないんだから。
もしかして職場の人?それならこっちだって言いたいことあるし。どいつもこいつも仕事が出来なさすぎるのよ。苛つくのは当然でしょ」
彼女は黙って聞く。目は女の顔を真っ直ぐに見つめている。
「今時、他人の評判なんて価値ないでしょ。自分で世の中をコントロールしていく推進力の方が大事よ。
それに、私は別に一人だっていいの。自分がやりたいようにやるし、周りがついてこれないならこなくていいと思ってる」
言いながら、女は過去の記憶を辿っているのだろう。思い出しながら段々とヒートアップしていく。
「それであんたは何?誰かに頼まれてこんな事してるの?殺し屋か何か?その割には小っさいし、威圧感っていうの?そういうのも一切感じないし。
今ならまだ許してあげるから、早く解放しなさいよ!!!」
最後はまた力を絞り、大音量の威嚇の声をあげる。両手足も力をこめて、縄がギギと鳴いた。
彼女はため息まじりに先ほどのハンマーを手にすると、躊躇なく右腿に振り下ろした。同じ箇所を狙って、同じ力で。
「ッッッガァァァァ、いったいってば!!」
何度も殴打された箇所に、また殴打。女の口からは文句よりも悲鳴が出る。いっそ叫ばせていた方がいいかもしれないと思うが、それでは会話にならない。
「アナタ、評判が悪いのは本当みたいね。実証してくれてありがとう。あと付け加えるなら、馬鹿でもある」
ドムッ、ドムッと鈍い音を聞きながら、女がまくしたてた文句を彼女は反芻してみる。自己弁護、虚栄、配慮の欠如、などなど。
とにかくこの数分間で、この人間がいかに生きていてはダメかを実感する。
この女は間違いなく、近くにいる人間を確実に不幸にするタイプだ。
「アナタ、孤独ね」
彼女の口元には、うっすらと笑みが浮かんでいる。
「これ以上、生きていてもやれることないでしょう。他人に迷惑だけかけるんだし」
作業台の上にある道具を手にとり、女の足下へ移動する。
石床を打つヒールの音は、やっぱり気持ちいいと思う。
女の靴は脱がしてあったので、深紅に塗られたペディキュアが目を刺激する。ここにも警戒色があるとは。
黙って、女足裏に道具を押し当て、引く。
「冷た」
金属特有の冷たさに、女がすぐに抗議の声をあげる。彼女は道具を作業台に戻す。
「あとは、時間とアナタの問題」
もうこの女への関心が無くなったのか、彼女は台から離れていく。まだギャーギャーと騒ぎ立てる女の声は、ノイズキャンセルしてやろう。
「で、お次はこちら」
寝かされている女の頭側にある壁に彼女は視線を向ける。
もちろん壁の様子など女の視界には入らないので、彼女の発言、音、すべてに注意する必要性がある。さすがの女も文句を言うことをやめ、見えない頭上に目を向ける。
「あんたも、この女と同じ。かなり評判がよくない」
彼女は石の壁に鎖で磔にされている男に向かって静かに言った。
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