手探りデスゲームはじめます

ぶちお

第1章

第1話

 石の床は、予想以上に足首に負担がかかるなと彼女はたった数分だけど気にかかっていた。

オシャレは足下からだ、と気合いを入れてヒールの高さが8cmもある靴を選んでしまった。ヒールは視界をグンと高くして、付加効果として彼女に自信も与えてくれる。しかし、この後の行程を考えると部屋に戻って靴を替えた方がいいか、と一瞬悩んだけど、やめておく。

 今は室内にいる二人の人間の対応が先だ。


 彼女は部屋の中央に置かれた木組みの台に近づいていく。カビていて、木の色も変色している粗末な台の上には1人の女が寝かされていた。

 女の頭の方へ移動して、声をかける。

「アナタ、本当に評判がよくない」

声には落胆が滲んでいる。

腕組みをして、出来る限り自分を大きく見せるようなポージング。今の彼女は自信がある。


「なんで、そんなに屑でいられるのか聞きたいんだけど」

彼女の質問に対し、台上にいる女は強気な瞳で睨んできた。ギッという音さえ聞こえてきそうだ。

「そんなことより、何なの、これ。仕事で忙しいの。今何時よ、定常の数値を取らないと明日のレポート作成に間に合わないじゃない!あんたに構ってる暇なんてない!てか、普通に訴えるから」


 女は両手首を粗い縄で拘束されて頭上にまとめられている。両足首も同様にまとめられている。粗い縄の先は、木組みの台の足下に繫がれている。キーキーと文句を言いながら体をゆするせいで、早くも縄の摩擦で女の皮膚は赤くなっている。

 女の言う通り、監禁の実情を外部に訴えられてしまっては、彼女の立場は悪くなるだろう。というか、普通に逮捕されるだろうと分かっている。

この女が外部に訴えることが出来るのなら、だが。


「うん、やっぱり人と会話をするのにも問題がある人なんだ。さすが、嫌われ者はファーストスピーチからパンチ効いてるね」

 腕組みの体勢は崩さず、女の顔をまじまじと観察する。

有名ファッションショーで見るような、奇抜といってもいい派手な色使いの服とメイク。

拉致する際に多少汚れてしまったが、ぱっきりとした蛍光色の乱用を見ていると、自然界にいる有毒生物を想起する。

 強い毒をもっている生き物ほど、周囲への警戒色がどんどん派手になる。相手を殺してしまう前に、警戒色で教えてくれるんだから優しいと思う。

 特性を逆手にとって、ただのハッタリとして警戒色をまとっている生き物もいる。何の力もないことを隠す為、自然界の法則を自己都合でいいように使っていてずる賢いと思う。

 さて、目の前の女はどっちだろう。


「早く、ほどけよ。絶対に訴える」

 ツバをまき散らしながら、同じような文句を繰り返している。飛んだツバは自分の顔にかかっているだろうに。

「人の話はちゃんと聞いてほしい。アナタ評判がよくない」

 言うと彼女は、いつの間にか手にしていたハンマーを女の右腿に振り下ろした。

「っいったぃいいい!!!何すんのよ!このバカ!絶対に許さない」

 彼女は黙ってもう一度、ハンマーを振り下ろす。無駄な力は入れず、ハンマーの重さを活かすように、すとんと真下に下ろして殴打する。

「やめろ、バカ!いたい!!骨折れる!!!!」

 肉が分厚い腿に、こんな小さいハンマーを下ろすだけ。本当に骨まで損傷するのかと彼女は気になってくる。でも、今はそんなつまらない検証をする時ではない。

 女が文句を言うたびに、ハンマーを振るう。そのくり返し。ただの反復作業。

しばらくすると、女は静かになった。右腿はしっかりと腫れ上がっている。


「やっと話せる状況ですか?」

叫び過ぎてか、腿の痛みのせいか、女は黙って首を縦に振る。

「アナタと対話が出来るまで、15分もかかりました~」

教室で、騒いでいる生徒が黙るのに何分もかかったと嘆く教師のモノマネのつもりだ。


「こっちもしんどいのよ。こんな小さいハンマーでも何回も振るって」

彼女は持っていたハンマーを、台の横にある作業台の上に置いた。ハンマーは軽くコンッと乾いた音をたてた。

「さ、やっと会話の時間。もう一度言うけど、アナタは評判が悪い。とにかくアナタの周囲の人はアナタという存在にうんざりしている。

自覚はある?」

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