第2話





愛せよ。人生においてよいものはそれのみである。


byジョルジュ・サンド










 「じゃあ、こんなのはどうだ?」


 デルタの作戦に、全員は賛同することになった。








 あれから一カ月もしないうちに、またもや異変を感じ取った。


 「思ったよりも早いご帰還だな」


 「帝斗様、そんな悠長なことを言っている場合ではありません」


 以前とは違い、全方向からの嫌な感じを受け取る。


 元帥たちはそれぞれ、各自が受け持つ場所に向かった。


 隕石のように大きな衝撃とともに、それらは姿を見せる。


 「俺の相手はあんたか!」


 「・・・暴食のデルタか」


 東に現れたのは、全身炎に包まれ、まるで血に飢えた獣のような牙と目つきをしていた。


 「青龍元帥、琉峯。これ以上お前達を結界内部に入れることは出来ない。一刻も早く立ち去るか、ここで儚く散ることを選ぶか」


 「何言ってんの?俺、今すげー楽しくてしょうがねーんだけど!へへ!」


 舌をぺろっと出すと、デルタは炎を琉峯に向けて出す。


 それは三つに分かれ、琉峯の前、上、背後からの攻撃に変わる。


 さらに言うと、炎は以前見た時よりも大きいものになっており、琉峯を包んで行く。


 「まるでケルベロスだな」


 琉峯は落ち着いたまま、札を取り出す。


 足で地面を蹴って炎に近づくように飛ぶと、そこから狙いを定めて札をデルタに投げる。


 「!?」


 すると、デルタの身体が固まる。


 「なんだこりゃ!動かねえ!」


 「自然の摂理に逆らうな」


 炎は互いにぶつかって粉砕されたかと思ったが、そのまま琉峯に向かってきた。


 それを避けると、炎はデルタに向かっていった、というよりも、琉峯につけられた札に向かってきた。


 燃えた札の効力が切れると、デルタの目つきが変わる。


 次の瞬間、デルタは琉峯の左側に移動し、琉峯を蹴り飛ばす。


 あまりの速さに驚いた琉峯だが、何とか左腕で蹴りを受け止めることが出来た。


 だが、その威力は通常の蹴りとはケタ違いだった。


 「っ・・・」


 「痛ェだろ?なんせ、俺の攻撃は三倍になるからな!そんじょそこらの攻撃とはわけが違うぜ?」


 「・・・そのようだな」


 多少ビリビリと腕が痺れるが、動かせる。


 琉峯は剣を手に取ると、構えた。


 「ひゅー、かっこいー。まるで薔薇の騎士団みてーだな」


 「・・・・・・」


 「俺、お前みたいな奴、大っ嫌いだ!」


 ヒュンッ、とまたしても、動物以上の脚力でデルタは移動を始める。


 回りをぐるぐるとしながらも、隙を見てすぐに炎を出してくる。


 「へへ・・・!まじ楽しい!いつまでもつかな?その防御!」


 余裕なのか、デルタは口を動かしながらの攻撃を仕掛けてくる。


 厄介なのは、炎にはまるで意志があるかのように、剣に巻きついてくることか。


 札を使いながら、なんとか攻撃を防いでいた。


 「!ぐっ!」


 背後からの炎に気付かず、琉峯は背中に軽い火傷を負ってしまった。


 「ちっ・・・!」


 自分に舌打ちをすると、琉峯は動き回るデルタを目で追う。


 だが、何度かデルタへの直接攻撃を仕掛けるが、その度に炎によって逃げられてしまう。


 「どうしたどうした?まだまだお楽しみはこれからだろ?」


 遊ぶように楽しそうにはしゃいでいるデルタ。


 そして、炎をかきわけ、デルタに刃が届く。


 「!!」


 デルタの顔が、歪んだ。


 だが、すぐに琉峯を見てニヤリと笑う。


 「残念」


 「!」


 ゆらっとデルタの身体が揺れたかと思うと、それは炎によって作られた幻影だった。


 「こっちだこっち」


 バッと後ろを向くと、すぐ目の前まで迫ってきているデルタの顔。


 無意識に剣を前に出すと、それは左右に分かれて琉峯を挟み打ちにする。


 「つまんねえなあ。もっと手応えないと、俺つまんな過ぎてお前のこと壊しちゃいそう」


 ガラガラ、と音を立てて、瓦礫の中から出てきた琉峯。


 その瓦礫の上に座り、足をブラブラしていたデルタは、琉峯を見下ろしていたかと思うと、いつの間にか、琉峯の頭上にいた。


 両膝をつけたままの琉峯の顔面を蹴りあげると、首に手を押しつけて瓦礫に張り付けるように押しあてた。


 「ぐッ・・・」


 「クールなキャラが台無しだな。まあ、俺が相手だったから仕方ないか!てかお前、本気で俺と戦う気あった?」


 「はぁ、はぁ・・・」


 何も答えない琉峯に、デルタは牙を見せるようにして笑う。


 そのまま琉峯の首に噛みつく。


 「!!あああああ!!!!」


 「ペッ。やっぱ美味しくはねぇな」


 どんどん流れてくる血は、首から鎖骨を伝い、琉峯の服を汚しながら地面に吸い込まれていく。






 琉峯は喧嘩が好きではない。


 というよりも、争い全般を好まない。


 それは拳を使ったものだけではなく、言い争いと言った言葉の喧嘩も、見ているだけの他人同士の喧嘩も。


 力が弱いわけでは、決してない。


 元帥にまで選ばれたのだから、どちらかと言えば強い方だ。


 「時には残酷にならないと、誰かを救うことも出来ないぞ」


 煙桜に以前言われたことがある。


 「けど、それでも俺は・・・」


 昔の記憶はほとんどない。


 断片的な記憶の中には、自分の目の前で誰かが倒れて行く姿。


 それが誰なのか、どういった状況なのか、今でも分からない。


 自分を守るためと言う言い訳を作ったとしても、生きるためという口実を作ったとしても、戦う以外の解決策を常に探した。


 「俺が、元帥、ですか?」


 「そ。もう決まったことだから、拒否は出来ないよ」


 「あの、俺は今まで通り、結界の方に専念させていただければ」


 「ダメダメ。実力があるのに、いつまでも結界だけなんてさせられないよ?これから鬼達が襲ってこないとも限らないんだ。君には大事な東を任せたい」


 「いえ、ですから」


 「はーい、じゃあ今後の説明だけど」


 半ば強引に元帥として名があがった。


 「大丈夫。ちゃんと目を開けてごらん。君に宿った力は、奪うことじゃない」






 身体がふわっと浮いたような気がした。


 それはまるで海へと溺れてしまったかのように、水面を見上げている気分。


 自分の吐いた息が泡となって、身体とは真逆の方向へ向かっている。


 海の中では呼吸も出来ないのに、なぜか心地良さを覚える。


 ―・・・い、おい、まだ目を覚まさない心算か。


 ゆっくりと目を開ければ、青く長い鱗の生えた身体を持った生物。


 「・・・青龍」


 ゆっくりと身体を起こすと、デルタが瓦礫から飛び出て来た。


 首を左右上下に動かして、コキコキ鳴らす。


 「ちょっとちょっと、それって卑怯じゃん?」


 琉峯に止めをさそうとしていたデルタは、炎を出して琉峯を焼きつくそうとした。


 炎に包まれていく琉峯を眺め、にやにやと見ていたデルタだったが、瞬間、身体に強い衝撃が走った。


 「おいおい、何それ」


 瓦礫に身体が豪快にぶつかり、背中と頭を強打した。


 そしてまた炎を身に纏ったデルタに、またしても強い衝撃が与えられた。


 そして今に至る。


 ―落ちぶれたものだな。俺の御主人ともあろう男が。


 「・・・勝手なことを言ってくれるな。なりたくてなったんじゃない」


 ―最後の最後まで、拒んでいたからな。


 噛まれた首の部分を摩ると、なぜか、その傷が修復された。


 「マジ?あれ?それに、もしかして火傷まで治ってんじゃん?どーゆーこと?」


 準備運動なのか、身体を動かしながらデルタは呟いた。


 「俺結構本気だったんだけどな・・・。ちょっとショックだわ」


 みるみるうちに火傷も治り、蹴られて青痣になっていた部分も色が薄くなっていった。


 ―手助けがいらないと言うなら、見せてみろ。


 「・・・わかってる。余計なことはするな」


 琉峯は剣を拾い上げ、デルタに向ける。


 「次は仕留める!」


 剣を持った瞬間、すぐにデルタは戦闘態勢に入っており、琉峯の左側に回り込んだ。


 炎で琉峯の動きを封じながら、デルタの攻撃が止むことはない。


 「息の根止めてやんよ!!!」


 頭上に飛び込んできたデルタの拳は、メキメキとコンクリートの地面をものの見事に破壊する。


 拳から炎を出し、割れた隙間を通ってくる。


 地面をまた強く蹴り、デルタは琉峯目掛けて右手に助走をつけさせる。


 思いっきりの力を込めて振り上げて拳は、琉峯の額脇をスレスレで通り抜ける。


 そしてほんの少しだけ隙の出来た懐に、琉峯は剣で軽く傷をつける。


 瞬時にデルタも後ろにはねて、バック転をして着地する。


 「っぶねー」


 「・・・・・・」


 「へへ。でも、今ので決まらなかったんだ。もうお前に次のチャンスは来ねえよ」


 「いや、もう終わった」


 「何何?諦めたってことか?四神とも言われた奴が、馬鹿に素直じゃねー?」


 「・・・もう、終わったんだ」


 琉峯は剣を腰の鞘に納める。


 それはとても静かで、凪の如く。








 「あら、私の相手はお譲ちゃん?」


 「馬鹿にしないで。私、あんたより強い」


 麗翔の前に現れたのは、翼の生えた靴で空を飛んでいるゴアだ。


 麗翔はフェニックスに乗りながら、ゴアに攻撃をしていた。


 だが、札を使ったとしても、ゴアは火を扱うためか、攻撃力は半減以下だ。


 鳥のように小刻みに動き回るゴアに狙いを定め、麗翔は弓を射る。


 「そんなんじゃ、私には届かないし、当たらな」


 「ちょこまかと・・・!」


 おちょくるかのように動くゴアに、弓ではなかなか攻撃出来ない。


 ゴアは空中でくるっと身体を回転させると、ゴアの服についていた鎖がジャラジャラとゆっくり蠢きだした。


 ゴアの背丈ほどしかないと思っていた鎖は、何倍にも長さが伸びた。


 そして、ゴアが指差すと、その方向へと向かって鎖が物凄い速さで動いた。


 瞬時に避けたが、麗翔の頬には掠り傷がついた。


 「!しまった!」


 狙いは麗翔ではなく、麗翔を乗せて飛びまわるフェニックスだった。


 鎖はフェニックスの翼にぐるぐると巻きつくと、まるで重力の重りのように下へ下へとフェニックスを引きずり下ろす。


 ドシン・・・


 見た目以上の重たい音を響かせて、鎖と共にフェニックスは地に臥した。


 「大丈夫!?」


 ―私は平気よ。戦いに専念して。


 「生意気なガキね!」


 くるっとゴアを見ながら、弓は使えないと判断し、麗翔は太ももに隠していた短剣を取り出す。


 短剣には炎を灯し、ゴアを攻撃する。


 ゴアは空中を優雅に泳ぎながらも、麗翔の動きを観察し、攻撃を決めると勢いよく牙を向けて突っ込んでくる。


 牙はとても丈夫なもののようで、瓦礫に当たってもビクともしない。


 それどころか、瓦礫を噛み砕いている。


 「女の子でしょ。瓦礫噛むとか、可愛くないわよ」


 「御互い様。私、弱い人に興味無い」


 「むかつく」


 口を大きく開き、牙をむき出しにして麗翔に飛びかかってくる。


 ガキンッ!!!


 牙に臆することなく、麗翔は短剣一つでゴアの牙を止める。


 開いた口から業火を出すと、札によって粉砕する。


 「そうよね。女だからって、甘く見られちゃたまんないわ」


 ゴアは力任せに口を閉じ、麗翔の腕ごと噛み砕こうとする。


 「!!あああああああ!!!」


 麗翔を短剣ごと噛んで、骨ごと食い千切ろうと、ゴアは更に力を込める。


 その時、麗翔はゴアの服についている鎖を手に持ち、ゴアの首に引っかけた。


 「ッたぁ・・・」


 腕からは血が出ているが、何とか牙から抜け出せた。


 ゴアは絡まった鎖をすぐに解き、麗翔の両腕に巻きつける。


 「逃がさない」


 「逃げないわよ。さっきからタイマン張ってるじゃない!」


 「五月蠅い女、嫌い」


 「私も、口達者な女は嫌いよ」


 ニヤッ、と笑ってはみたものの、正直、この鎖から逃げられる術は見つからない。


 「さようなら」


 「!!!」


 ごおおおおおおおおっ


 麗翔を、業火が襲う。


 その業火はフェニックスも包み込み、近くに瓦礫さえ溶かしていく。


 ゴアは静かに立ち去ろうとした。


 だが、背中から感じた視線に、足を止める。


 「なぜ、死なないの」


 業火の中から生還した、という言い方が正しいのかは分からない。


 しかし、鉄をも溶かす業火は、確実に人体を滅ぼすはずだった。


 「やっぱりガキね」


 「・・・何」


 麗翔は鎖に繋がれながらも札を使って身を守り、さらには業火を逆に利用して鎖を溶かしたのだ。


 フェニックスは火に強い性質なため、鎖が溶けてしまえばなんてことなく逃げることが出来た。


 ―そんな無茶して。


 「あんな子供にやられるくらいなら、男に負けた方がマシよ」






 昔から、とても勝気だった。


 負けず嫌いで、ちょっとしたことでへこたれることもない。


 それは疎まれることと比例的でもあった。


 両親からはもう少し女らしくしろと言われ、周りからも本当は男だ、なんて噂もたてられた。


 まだ幼かった麗翔だが、両親は早く嫁に出すことにした。


 だが、嫁ぎ先でも男勝りな性格が直るわけでもなく、愛想尽かされるのは遅くなかった。


 「絶対男なんだって」


 「まじかよ。調べてみる?」


 「おもしろそ!」


 そんな、罪という言葉も知らない子供たちによって、一人の少女の心が荒んでしまうことも知らずに。


 近所の悪ガキ三人に呼ばれた麗翔は、またいつものように喧嘩をするのだと思っていた。


 「あんたたちなんか、一人で相手してやるわ」


 そう言って、ふん、と鼻を鳴らした。


 「ほんっと、弱いのね。男のくせに」


 「てめ!今日は許さねえ!」


 「何が?またやられたいの?」


 その日は、違った。


 二人の悪ガキが麗翔の両腕を掴むと、身体を倒した。


 「!?ちょっと!何するの!?」


 「てめぇが女か確かめてやるんだよ」


 「は!?馬鹿じゃないの!?止めなさいよ!!!」


 バタバタと足を動かして抵抗してみるものの、一度捕まってしまうと、こうも男女の力の差が出てしまうものか。


 残りの一人は麗翔の服を上下ともにズラし、麗翔を裸にした。


 「お。確かに女みてーだぞ」


 「ほんとだ!」


 「止めてよ!さいてー!」


 「大人しくしろよ!」


 力一杯、殴られた。


 初めて痛いと感じたし、恥ずかしくて、力がないことを悔しいと思った。


 「なあ、写真撮ろうぜ」


 「誰かカメラもってるか?」


 「俺あるぜ」


 「止めてよ!!!止めて!!!」


 「うるせえよ!!!」




 「ま、これからは大人しくしてろよ。この辺のボスは俺たちだからな」


 悪ガキたちは、麗翔をボコボコにして、去って行った。


 悔しくて、泣いた。


 だから女なんて嫌いだと、女に産まれた自分を呪った。


 親元を逃げ出して、気付けばこんなところで戦っていて。


 「私、元帥になりたいの」


 「元帥?いいよ」


 あっさりと、その男は言った。


 今まで男しかなったことのないという元帥という立場になれることは、麗翔にとって自分を誇示することだった。


 「私、女だけどいいの?」


 「実力主義な世界だよ、ここは。女性だろうと子供だろうと。実力があれば問題なしだね。でも、なんでいつも俺達と似たような格好してるの?」


 経緯を話せば、聞いてきたくせに興味なさそうに返事をされた。


 殴ってやろうかとも思った。


 「スカート穿いてよ。目の保養に」


 なんて、馬鹿なことを言われた。


 だからスカートを穿いたわけじゃない。


 「もったいないよ。折角綺麗な顔してるのに、男みたいな格好してさ。俺達なんて、スカート穿きたいと思っても穿けないんだよ?穿いてたら気持ち悪いでしょ?」


 「・・・穿きたいと思うんですか」


 「思わないけどね。寒そうだし。お腹冷えそうだし」


 そんなくだらない理由か、と罵ったけど、お婆さんになったら余計に穿けないと言われて、なんとなく穿きたくなった。


 そんな、どうしようもない理由。






 「また動きを封じれば良いだけ」


 そう言って、ゴアはまた鎖を麗翔とフェニックスに向かわせる。


 だが、ゴアの鎖は、当人の鎖によって動きを留まらせてしまった。


 麗翔が、弓に鎖を巻き付けてゴアの攻撃に向かって射たのだ。


 ゴアのもとへと戻っていく鎖を掴み、弓に括りつけて射ていた。


 狙いをつけて射れば、今度はゴアの身体に鎖が巻きついていく。


 「鎖に触れるのはあんただけじゃないのよ。自分の武器のことくらいちゃんと把握してからかかってきなさい」








 「やれやれ。大人しくしてりゃあ良かったものを」


 「それはこちらの台詞」


 虎に乗って、手には大鎌を持っている煙桜のもとに現れたのは、エレナとネイド。


 エレナは腕から蛇を出し、煙桜に向かって毒を出していく。


 ネイドも俊敏な動きで高くジャンプし、針を一気に数十本投げてくる。


 虎に向けても針、とは言っても毒針だが、それを投げているのだが、ちょっとやそっとの針では虎の厚い皮膚は弾いてしまう。


 こまごまとした攻撃に、煙桜は札を使って煙幕をつくる。


 すると、エレナもネイドも、ぴょーんと煙幕の無いところの高さまでジャンプする。


 「エレナ、大丈夫?」


 「人のこと気にしてる場合じゃないわよ」


 辺りを見渡し、煙幕のかかっていない場所へと着地しようとする。


 すると、煙の中から声が聞こえた。


 「気をつけろ。そこ、錆びてるぞ」


 ガッシャ――――ン・・・・・・


 落とし穴があったわけではない。


 煙桜の札によって錆びていたそこは、とても崩れやすくなっていたようだ。


 エレナとネイドは、見事にそこに足をつけてしまった。


 そして、派手な音を立てながら、数メートル下へと落ちてしまった。


 「いてて・・・」


 ひ弱そうなネイドは、頭を小さく摩る。


 「あー。落ちちゃったね」


 へへ、と困ったように笑い、ぽんぽんと服についた汚れを落とす。


 「ネイド、本気になるのは構わないけど、私まで殺さないでよ」


 「大丈夫だよ」


 エレナは落ちたときの衝撃で腕に怪我を負ってしまった。


 それを見つけ、ネイドはゆっくりとエレナに近づく。


 目を細め、口も口角を上げて笑うネイド。


 真っ赤な舌をペロッと出すと、エレナの傷口に舌を這わす。


 ちゅっ、とリップ音を出して口を離すと、ネイドはエレナを抱えて地表へと出た。


 すでに煙幕は消えており、虎に乗った煙桜だけがそこにいた。


 ネイドはエレナを下ろすと、腕に巻いていたバンダナを頭に巻いた。


 すると、今までおっとりとしていた瞳は、鋭利な刃物へと変わった。


 「来るか」


 先程までとは全く違うネイドの放つ殺気に、煙桜も早々に気付く。


 だが、身体が反応するよりも早く、ネイドが針を投げてきた。


 そして、毒のついた針を投げながら、ネイドは煙桜との距離を縮めてくる。


 一定の距離まで近づくと、今度はジャンプし、そこから針を投げる。


 大鎌を振って針を弾いていた煙桜。


 その背後には、ネイドと同じく毒を持った生物が近寄ってきていた。


 「いただきます」


 「!?」


 かぷ、とエレナは煙桜の首筋を噛む。


 エレナの身体に溜まっている毒は、傷口から徐々に体内に侵入し、煙桜の身体を蝕む。


 毒の抗体を持っているエレナ自身は、口元を拭い、煙桜が虎から落ちるのを眺める。


 「毒か・・・」


 神経毒なのか、身体の痺れが襲ってくる。


 「毒に犯され、死ね」


 虎から落ちた煙桜を狙い、今度はネイドが毒針を一気に数本投げた。


 煙桜の身体に突き刺さった毒は、手足の動きを悪くさせる。


 「経験差から言うと、俺たちは勝てないだろうけど、やり方次第で勝敗は変わる」


 「・・・ああ、そうだな」


 頭上で冷たくこちらを見ているネイド。


 そこにエレナも現れ、長い黒髪をさらっと靡かせる。


 二人は煙桜の苦しむ姿を、まるで観賞するかのように見ている。


 煙桜の周りにはエレナの毒蛇がうじゃうじゃいて、ネイドも毒針をさらにさしていく。


 足、腕、ついには意識までももっていかれそうになる。


 「「!!!!!」」


 辺りに突如として感じる、おぞましいほどの鬼気。


 ここまでに強い鬼気を発するのは、鬼の中でも選ばれし存在。


 煙桜の視界には、一人の男。






 「煙桜にはついていけねーよ」


 「俺も。一人でやってろってんだ」


 いつも一人で戦っていた。


 別に仲間を信じていなかったわけでもなく、ただ、一人で事足りたからだ。


 「またか、煙桜」


 「すみません」


 「いや、まあ、結果オーライだがな」


 当時の煙桜の上司、西の元帥は、次の元帥にと煙桜を推薦していた。


 だが、煙桜はなんでも一人でやってしまうところがあり、強調性というものが欠けている。


 「俺はこのままでいいんです」


 「そう言うな。その強さがありながら、お前は何を迷ってる?」


 「迷う?」


 煙桜自身、何を言われてるか分からなかった。


 他人を信用出来ない、というよりも、いつも神経を張らせている感じだろうか。


 他の人に怪我をさせないよう、一番強い自分が先頭にたって戦う事は当然なことと思っていた。


 そんな中、その上司が死んだ。


 煙桜が代理となると、それまでの部下たちは皆揃いも揃って出て行った。


 だが、一人でも充分だと思っていた煙桜の前に、奴が現れた。


 「笑っちゃうほど人望がねーんだな」


 無視していたら、その男は煙桜に煙草をさしだしてきた。


 久しぶりの煙に、煙桜は癒された。


 男は煙草に火をつけることなく、咥えたまま喋り出した。


 「ま、どうでもいーか」


 「俺は元帥に向いてない。代わりの奴を探してくれ」


 煙草を吹かしながらそう言うと、男は即拒否してきた。


 「元帥ってのは、誰よりも命を懸けて真っ先に戦う精神が必要だ。だからって、自分を見殺しにするわけじゃねぇ。人望なんて後からついてくんだよ。だからよ、とりあえず、やってみろよ。んでもって、それでも無理だってんなら、そんときゃあ考えるさ」


 そして、部下が三人、各々マイペースなのが現れた。


 「都空っす!大師匠と呼ばせていただきます!」


 「宙奎です。お見知りおきを」


 「蘭蝶と申します。よろしくー」


 「・・・・・・」


 一人は阿呆っぽくて、犬っころみたいな奴。


 一人は眼鏡をかけてて、理屈っぽい奴。


 一人はニコニコしてて、なんだか読めない奴。


 とにかく、放任主義だった。


 世話が焼けるというか、面倒臭いというか。


 そもそも大師匠ってなんだ、とか色々言いたいことがあった。


 「最近、楽しそうだね」


 「ああ?何言ってんだ?」


 三人が来てからしばらくして、またあの男が声をかけてきた。


 「阿呆に説明するのは大変だ」


 「そうなんだ」


 「屁理屈野郎を丸めこむのも体力がいる」


 「へー」


 「ニコニコしてるわりには細けェことグチグチと姑みたいに言ってくるし」


 「そりゃ災難だね」


 「お前が連れてきたんだろ」


 ケラケラと人事のように笑う。


 「まあ、暇な日常送るよりはいいだろ?」


 「・・・・・・まぁな」


 まったく、離れて行ってくれた方が気楽だと言うのに。


 自分を慕う者がいる以上、前を向くしかないことを。






 「な、なんだ?」


 おぞましい鬼気は、あっという間にその場を霧で覆い尽くす。


 今まで感じたことのない鬼気に包まれながら、エレナとネイドは必死に目を凝らす。


 ―お。珍客じゃねえか。


 その正体に、虎は身体を横たわらせる。


 「・・・余計なことしやがって」


 ―気まぐれに来ただけだろ。


 鬼気は気配を発することないまま、二人に近づいていく。


 「ガキの遊びだな」








 帝斗の前には、ワ―グラとグリムがいる。


 グリムは身軽に飛びながら粉を撒き散らしていく。


 「なんだこりゃ」


 今頭上から落ちてくる粉が毒ではないことを確認する。


 だが、ワ―グラは少し距離を置いていることから、碌なものではないだろう。


 「さぁさぁ、私の魅力にひれ伏しなさい」


 少し肺に入ると、手足が軽く痺れたことから、それが痺れ粉だと分かった。


 だが、帝斗は口元を腕で押さえながら、グリムよりも高く飛びあがり、札を投げる。


 すると、グリムは地面へと叩きつけられる。


 「女をぶちのめす趣味はねぇけど」


 すとん、と綺麗に着地すると、帝斗はトンファーを取り出し、両手に握る。


 起き上がったグリムを狙い、振りかぶるが、当たらなかった。


 離れたところにいたワ―グラが、グリムを横抱きにして逃げたのだ。


 グリムをそこに適当に投げると、ワ―グラが一気に帝斗に向かってくる。


 「(速い)」


 思ったよりも速かったワ―グラの蹴りを、トンファーで受け止めると、トンファーは土に変わりボロボロと崩れてしまった。


 「なるほどな」


 「女ぶちのめす趣味がねぇのは、御互い様だな」


 互いにニヤッと笑うと、ワ―グラが次の攻撃を仕掛けてくる。


 片方のトンファーまで土にされては困るのか、帝斗はそれを避けるばかり。


 だが、その表情は楽しそうだ。


 「!」


 ワ―グラの攻撃を避けていた帝斗だが、その足場がぐらついたのを感じる。


 まるで地震が起こっているかのように。


 「ありゃりゃ」


 「俺と戦う時は、空でも飛べるようにしておくんだな」


 バランスを崩した帝斗に、ワ―グラは土を変形させて金棒を作り、それを思い切り振りかぶる。


 ひょいっと簡単に避ける帝斗だが、着地した途端にぐらついてしまう。


 その瞬間を見逃すはずがなく、ワ―グラは何度でも帝斗を狙って攻撃してくる。


 「大人しくしててくれよ。楽に逝かせてやるから」


 こんなにアンバランスは場所でも、軽業師のように動く帝斗に、ワ―グラは言った。


 「ん?」


 そんな帝斗の動きを封じるべく、ワ―グラは土を操って帝斗の足を掴む。


 すると、帝斗の足は沼に沈んで行くように、ズブズブと落ちる。


 「なんだこりゃ」


 「冥府への入り口さ」


 「そりゃ御免だな」


 なんとか身を捩って逃げ出そうとした帝斗だったが、背後にもう一つの忘れていた影を感じた。


 ゆっくりと自分の口と鼻にあてがわれた、女性の細い指。


 「じっくりと吸い込んで。今度は痺れ薬なんかじゃなくて、毒薬よ。これで安心して死ねるわ」


 「グリム、俺んとこにまで粉撒き散らすんじゃねーよ」


 「あらごめんなさいねー」


 グリムの指先だけではなく、その呼気からも放たれる毒粉。


 抵抗しようにも、ワ―グラの力によって自由に身体を動かせない。


 思わず、眉間にシワが寄ってしまう。


 「ヤワねぇ」


 ガクン、と身体を前のめりにして倒れていく帝斗。


 ワ―グラも力を解くと、グリムは帝斗から離れ、クスクス笑う。


 「ねえ、止めはどっちがさす?」


 「お前に譲るよ」


 「やったー!」


 地面にうつ伏せになって倒れた帝斗。


 その帝斗に、さらに毒粉を集中的に撒き散らせていく。


 すると、毒粉によって帝斗の姿さえ見えないほどになった。


 「あれだけ毒吸えば、死んだだろ」


 粉を巻き続けること数分、グリムはふと何かを感じた。


 本能的に今いる場所から急いで離れた。


 それはワ―グラも同じで、未だ毒霧ともなってしまったその場を見つめる。


 「何かしら?」


 「さあな」






 「だから嫌だったんだよ」


 「お前、いつまで生きてんの?」


 「こいつ生意気な目してんだよな。さっさと殺して沈めちまおうぜ」


 帝斗の母親は、妾だった。


 父親は帝斗の母親を抹殺し、帝斗の存在も消そうとした。


 それは、自分の威信のため。


 一人で逃げていた帝斗は、どこへ行っても不器用だった。


 手先は器用なのだが、なんというか、母親譲りの綺麗な顔立ちはどうしようもなく。


 男たちは帝斗を女として、男を騙して金を取ろうとしたり、そういう男が趣味の男を相手に金を巻き上げたりしていた。


 利用されていることが分かってはいても、帝斗には居場所がなかった。


 だから、何でもやった。


 窃盗、放火、詐欺、誘拐の手助け・・・。


 そうやって何が何でも生にしがみ付いてきた。


 だからといって、いつまでも必要とされるわけではなかった。


 成長するに従って、帝斗は男らしくもなり、これまで帝斗を利用してきた男たちの女はみな、帝斗にばかり声をかけるようになった。


 そうなれば、捨てられるのは帝斗の方だ。


 人を殺したことはなかったが、その時も抵抗なんて馬鹿なことはしなかった。


 殴りたいだけ殴らせて、自分は絶えていればいいんだと、そう思っていた。


 「君、そんなところで何をしてるんだい?」


 「・・・・・・」


 変な男が、そこに立っていた。


 男たちに殴られ、ゴミのように捨てられたまま、呆然としていた。


 「君、なんで泣いてるの?」


 「・・・泣いて、ない」


 「じゃあ、目から涎でも垂らしてるのかな?」


 その男は、正直言って鬱陶しかった。


 「五月蠅い。消えろ」


 「口の悪い子だね。でも嫌いじゃないよ」


 変な男の口車に乗せられたのか、たんに癪に障って、いつかぎゃふんと言わせてやると思ったのか、今はもう覚えていない。


 だが、男は帝斗を連れて行き、そこで武術や剣術を学ばされた。


 何の為にこんなこと、と思っていたが、身体を動かすことは気持ち良かった。


 「随分と上達したじゃん」


 「いつかお前なんかぶっ潰してやるよ」


 「ハハハ。それは頼もしいね」


 帝斗に煙草を差し出すと、帝斗はプイッと顔を背けた。


 「ガキにはまだ早ェーか」


 「ガキじゃない」


 「まあまあ、そうすぐにムキになるなっての。お前には今後、北の元帥を目指してもらうとして・・・」


 「は?」


 男は何の悪びれもなく、「言ってなかったっけ?」なんて言っていた。


 肩を揺らして笑う姿に、帝斗はグッと力を込めて蹴りを入れた。


 いや、正確には入れようとした。


 だが、そんな蹴りはいとも簡単に止められてしまっていて、代わりにニコリと笑ったその男の拳がふってきた。


 完全にノックアウトされた帝斗の顔は包帯だらけになっていた。


 「ミイラ男みたい」


 「あんたのせいだ」


 「いやいや、先に手ぇ出してきたのは君だからね、帝斗」


 勝てると思っていただけに、帝斗は恥ずかしいような、悔しいようなそんな口調だった。


 男と二人で、遠くの空を見ていた。


 向かってきた風は頬を撫で、髪を躍らせる。


 「俺、元帥なんて興味ない」


 「だろうね」


 「じゃあ、なんで」


 「なんでって言われてもねー。充分強くなってきたし、元帥の素質あると思うし。それにね、今度の四神は特別な集まりだから、帝斗も馴染めると思うよ」


 馬鹿にされてるのかと思ったが、聞いてみると、確かにみんな変わっているようだ。


 「きっとそのうち楽しくなるさ」


 「何が?」


 「人生ってやつさ」


 「・・・阿呆らしい」


 「だからまあ、笑っとけ。そうすりゃ、福が向こうからやってくるってね」


 何を考えてるのかわからないが、それから帝斗の表情は変わったとか、変わらないとか。






 「ちょ・・・嘘でしょ」


 「あーあ。やっぱ一筋縄じゃあいかねーか」


 徐々に毒霧が晴れて行くと、そこには帝斗の姿はなく、いたのは巨大な亀だった。


 「げっ。亀・・・」


 亀が苦手なのか、グリムは表情を引き攣らせる。


 のそのそと動き出すと、亀の下から帝斗が姿を見せた。


 「はあっ・・・。助かったよ」


 ―随分と派手にやられたな。


 「へっ。心配してくれてんのか」


 ―馬鹿野郎。さっさと倒しやがれってんだよ。


 亀が帝斗を覆っていたためか、グリムの毒粉はほとんど帝斗に届いていなかったようだ。


 「けっ。言ってくれるねぇ」


 帝斗が立ち上がると、生温い風が吹き、髪を揺らした。


 「さてと、福ってやつが本当にくんのか、運試しだ」








 「うおっ。まじ!?」


 清蘭の部屋の前、鳳如はジョーカスと戦っていた。


 ジョーカスは全身札が貼られているが、その状態のまま鳳如とやりあっていた。


 体術は得意な鳳如だが、ジョーカスの動きは思ったよりも機敏だった。


 ヒュンッ、と風を切ってジョーカスに蹴りを入れる。


 「隙、みーっけ」


 ジョーカスの攻撃を避けながら、鳳如はほんの少しの空間を見つける。


 そこに向けて拳に力を入れる。


 「!?」


 だが、まともに入ったはずの鳳如の攻撃は、ジョーカスの服についている札によって吸収されてしまった。


 それからも、元帥相手にしても傷が幾つかつくほどの攻撃をしたが、札が全てを吸い取ってしまっているようだ。


 「・・・ふーん」


 「・・・・・・ふぁ・・・」


 戦いの真っ最中だというのに、ジョーカスは眠そうに欠伸をする。


 それでも、ジョーカスの目は鳳如の動きひとつ見逃さない。


 札によって攻撃を受け流されている一方で、ジョーカスの腕はまるで刃のように鋭く、少しでも当たると危ないもの。


 コンクリートの壁も、スパッと綺麗に切れてしまう。


 「っぶねーな」


 「逃げてばかりじゃ俺には勝てない」


 「分かってるよ、そんなこと」


 だが、こっちの攻撃は効かないというのに。


 鳳如はひょいひょいっと、何とか攻撃を避けていた。


 部屋中をまんべんなく使って、鳳如はちらっと辺りを見渡す。


 ストン、と床に足をつけたところで、ジョーカスが頭上から鳳如を狙って飛び込んできた。


 「むやみやたらと、他人の部屋を暴れるもんじゃないぜ」


 「!!!」


 ふと、ジョーカスは空中に浮いている自分の身体に異変を察知する。


 しかし、気付いたところでどうにもならなかった。


 瞬間、ビリビリビリビリッ、と身体中を電気が走る。


 札によって守られているとは言っても、断続的な電流は居心地が悪い。


 身体を移動させて逃れようとするが、部屋中に何か仕掛けてあるようで、動いても動いても身体に纏わりついてくる。


 その間、鳳如はジョーカスに少しでもダメージを与えようと攻撃を続ける。


 顔、頭、首などの札がついていない場所は勿論、他の場所も。


 ジョーカスの攻撃を避けながら部屋に設置していたトラップ。


 札同士は見えない電流によって繋がっており、鳳如の意識によってトラップが発動する。


 それは、どんなに素早い動きをするものであっても、例え強固な身体を持っていても、避けることの出来ないもの。


 「まだ元気っぽいな」


 「・・・つ!」


 ひらりと宙を舞うと、ジョーカスの身体にまた別の札をつける。


 すると、次の瞬間、その札は大爆発を起こした。


 トラップの札も全て剥がれ落ちる。


 だが、まだそこにある殺気。


 「・・・あれでまだピンピンしてるたぁ、大した御札様だな」


 煙の中から鳳如に向かって歩いてくる影は、殺気を増すのみ。


 そして、顔を動かして自分の歯で、自分の身体につけられている札を剥がした。


 一枚剥がすと、パラパラと次々札が取れて行く。


 「チッ」


 「俺を捕まえられるか、試してみるか」


 「!!!」


 札が剥がれた途端、ジョーカスの動きはさらに速まった。


 再び部屋にトラップを仕掛けたが、そのトラップさえも当たらないほどに、俊敏に、小刻みに移動してくる。


 「、のやろっ!」


 半ば適当に一蹴すると、今度はその攻撃が直接ジョーカスに効いた。


 「あー、そういうこと?札がなくなって、攻撃は効くようになったってか・・・でも」


 「・・・・・・」


 「その分、速さも強さも倍増ってか」


 今までやる気のない、しまらない顔だったジョーカスが、ニヤリと笑う。








 「清蘭様、あやつらなら大丈夫じゃ」


 「ええ、信じているのですが」


 「元帥たちのみならず、部下たちだって必死に結界を張り続けておるのじゃ。主が気を乱してはいかぬぞ」


 「ええ」


 「ワシも信じておるぞ、奴らを」


 座敷わらしは、清蘭の髪を梳きながら呟く。


 「しっかりせい」






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