第6話おまけ【入れ違い】


ハーメルンの笛吹き男と子供たち

おまけ【入れ違い】






 それは、ライアが捕まる前のこと。


 奴隷ばかりがいる牢屋に、一人の男が捕まってきたそうだ。


 「まじかよ。俺今日から奴隷なの?」


 男は銀色に髪を輝かせ、眼帯をしていた。


 見張りは男を蹴飛ばすと、眼帯を外せと言ってきた。


 「外してもいーけどよ、吐かない?」


 「何を馬鹿なことを」


 「いやいや、結構コレ外すと、気持ち悪いって吐く奴が続出するわけ。こんなところで吐かれたら、溜まったもんじゃねーっしょ。俺達はここで寝泊まりするんだぜ?」


 「・・・・・・」


 「自分で見てもおえーってなるんだけどなー。・・・それでも見る?」


 「もういい」


 男は奴隷として捕まったにも関わらず、平然としていた。


 同じ牢屋にいる男たちは、じろじろと見ている。


 「俺さ、女の子に見られるのは好きだけど、男に見られる趣味はねーし、嬉しくねーんだけど」


 そう言うと、牢屋の隅の方に行き、横になった。


 「あんた、名前は?」


 「あん?俺に興味あんの?お前男色?」


 「いや、そうじゃなくてよ、もしかして・・・」


 「おい、そこのお前!」


 ようやく寛ごうとしていた男だったが、見張りによって呼ばれた。


 最初はしらーっと聞こえないフリをしていたが、五月蠅いのでしかたなく見張りの方に近寄った。


 真っ直ぐに立った男は、思ったよりも身長が高く、見張りの男はグッと仰け反る。


 「お、お前を呼べとのことだ!早くしろ!」


 「俺?なになに?俺、重労働は苦手な人よ?」


 「違う!伯爵家のお譲さまがお呼びだ!その、相手をしろとのお達しだ!」


 「・・・・・・ああ、女相手?まあ、それならいっか!」


 うーんと背伸びをすると、男は見張りに連れられて牢屋を出て行った。


 男が連れて来られた場所は、地下を通ってなので、よくわからない。


 「こちらだ」


 急激な明るさに、思わず顔をしかめてしまう。


 だが、慣れてくるとそこは超がつくほどゴージャスな部屋だった。


 ある一室の前まで案内されると、中からは男女の営み中とは思えないほど、悲鳴が聞こえる。


 「わお。デンジャラス」


 男がノックもせずに部屋に入っていくと、そこには女王様気取りの女と、女に縛られ鞭を打たれて苦しんでる見苦しい男がいた。


 「お邪魔したかな?」


 男の方を見て、女はニヤリと笑う。


 「いいえ。丁度飽きてきたところなの。こっちに来てくださる?」


 顔から出るもん全部出てるんじゃないかというほど、男は苦しそうだ。


 そんな男を部屋の外に放り出すと、女はテーブルの上に用意してあったワインをグラスに注ぐ。


 「いかが?」


 「じゃー、お言葉に甘えて」


 そう言って、女の手からグラスを受け取ろうとすると、女はわざとグラスを落とした。


 カーペットについてしまったシミを見て、もったいないと思ったのは、また別の話。


 「じゃあ、私の可愛いペットちゃん。好きなだけ舐めてよろしくてよ?」


 ―とんだドSだな。


 はあ、と男はため息を吐くと、テーブルの横にあった椅子に腰かける。


 「俺ぁ、そんな趣味はねぇんだよ」


 まだ中身のあるワインを掴むと、そのまま口へと運んだ。


 ごくごくと口に含むと、男は立ち上がって女に近づく。


 「ん」


 女の後頭部を支えると、自分の口にあるワインを女に飲ませる。


 口の隙間から零れていくワインは、女の肌に吸い付くようだ。


 「随分なじゃじゃ馬譲ちゃんだな」


 そんな男の言葉に、女は頬を染めながら両腕を男の首の裏に巻き付けて行く。


 「たまには、男の怖さってもんを知ったほうが良いぜ」


 口説いているのか、男は巻きついてきた女を軽々持ち上げ、ベッドに投げた。


 男が女に覆いかぶさり、口づけようとしたその時。


 男は隠し持っていた薬を女に嗅がせ、眠らせた。


 「お前みたいな女は趣味じゃねーつの」


 部屋を見渡すと、そこにあった電話を手に取り、どこかにかける。


 しばらくすると、男は部屋の窓を開けた。


 「おさらばおさらば」


 ひゅんっ、と窓から飛び降りると、屋敷の塀も簡単に飛び越えた。


 そして一つ目の角を曲がると、そこに立っていた少年に声をかける。


 「待ったか?」


 「・・・まさか捕まっているとは思いませんでした、イデアムさん」


 「ハハハハ。まあまあ。それより、さっさと正体バレる前にずらかるぞ」


 「誰のせいだと」


 「俺かな?」


 「ん?」


 馬に乗って颯爽と走っていると、赤く燃える街が見えた。


 「おい、ちょっと寄り道するぞ」


 「え?あ、はい」








 「なんとか間にあって良かったですね」


 「あれだけの被害があって、間にあったわけねーだろ」


 「すみません」


 「それにしても」


 「はい?」


 「・・・面白い奴がまだいたな」


 「?」




 革命家イデアムが世に与えた影響は、歴史の影に覆われるのは、まだ先のことだ。




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ハーメルンの笛吹き男と子供たち maria159357 @maria159753

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