第4話ひとつとふたつ



ハーメルンの笛吹き男と子供たち

ひとつとふたつ


われわれの人生は織り糸で織られているが、良い糸も悪い糸も混じっている。


シェークスピア










 「はぁッ。そろそろ、次の街に着いても良いと思うんだけどな」


 ライアは、山道を歩いていた。


 「疲れてきた」


 体力に自信がないわけではないライアだが、こうも山道だらけだと、さすがにキツイようだ。


 一つ前の街の宿の主人に貰った非常食もとうの昔に食べ終え、腹も減っていた。


 「はあ・・・」


 休憩する為に適当に腰を下ろすと、ライアは急に何かを感じる。


 がさっ、と小さな物音がし、そちらの方を見る。


 「がー!!!!」


 「!?子供?」


 まるで野生児の如く、少年は木の上からライア目掛けて下りてきた。


 ひょいっと避けると、地面に顔面から落ちた。


 しばらく起きて来ないので、心配になったライアは声をかける。


 「おい、大丈夫か?」


 「うがー!!!」


 「わ」


 威嚇してくる少年だったが、ぐるるるるーとお腹を鳴らしながら倒れてしまった。


 近くに小川を見つけ、水を掬って少年に与えた。


 グビグビと勢いよく水を飲んだ後、少年は性懲りもなく、またライアに飛びかかった。


 これでもかというくらいに大きく開かれた口は、顎が外れそうだ。


 だが、少年は襲ってくることなく、そのままパタン、と倒れてしまった。


 ぎゅるるるるとお腹が鳴っている。


 「お腹空いてるのか?」


 少年はブンブンと首が飛びそうなくらいに頷いた。


 「でも俺も何もないしな。街にでも行って何か貰ってくるか」


 よいしょ、とまだ疲れの取れていない身体を無理に動かしだす。


 「待て」


 まるで犬に躾けるように、ライアは少年に向かって掌を向ける。


 すると、少年はちょこんと木の影に隠れるようにして座った。


 街へと下りて行くと、何百人住めるのだろうというほどの屋敷があちらこちらに建ち並んでいた。


 ほー、と感心しつつ、自分の今の格好を見てため息を吐く。


 「すみませんが、残り物でも良いので、何か恵んでいただけませんか」


 「・・・・・・」


 まるで汚物を見るかのような視線。


 特に返事をすることはなく、ただただ本当にゴミとなるものをライアに向かって投げつける。


 惨めだとか恥ずかしいとか、そういうことはさほど感じなかった。


 何件か声をかければ、もったいないくらいの量の残り物が手に入った。


 山へと戻ると、少年は大人しくしていた。


 「ほら」


 少年に果物や魚などの残りを出せば、がむしゃらに喰いついた。


 街の人間からしてみれば、きっと滑稽な光景だろう。


 「名前は?親はどうした?」


 そう聞いてはみたが、少年はひたすらに胃袋を満たすことに集中していた。


 ライアも少し腹を満たすと、木に寄りかかってふう、と身体を休めた。


 しばらくすると、少年がライアの前に仁王立ちしていた。


 「リョウ」


 「リョウ?・・・ああ、名前?」


 「リョウ」


 「リョウか。俺はライア。で、親は?」


 「捕まった」


 「捕まった?誰に?なんで?」


 少年の名はリョウと言うようだ。


 リョウの話によると、リョウは幼い頃に山に捨てられたという。


 この山の主とも言われていた犬に育てられたようだ。


 犬が主ってどういうことだとか、そこはひとまず良いとしよう。


 だが、二週間ほどまで、老犬ともなっていた犬が捕まってしまったようだ。


 しかも、この街一番の地主の元に。


 特に街を荒らしたわけでもないのだが、夜な夜なゴミを漁っているところを捕まってしまったようだ。


 リョウの為だと言っても過言ではないのだが。


 歳をとっていることもあり、死ぬまで解放はされなさそうだ。


 それを知ってか知らずか、リョウは一人で木の実を採ったり野兎を刈ったりして生き長らえてきたのだろう。


 「(あまり関わりたくない街だが)」


 正直、ライアはこの街の雰囲気が好きではない。


 だが、リョウのことを放っておけない。


 なにせ、犬とはいえ親代わりなのだから。


 「リョウ。ちょっと俺は街へ行って、話をしてくる。それまで待っていられるな?」


 コクン、と頷いたリョウの頭を撫でると、ライアは眉間にシワを寄せながら山を降りた。


 どこもかしこも立派な屋敷で、見分けがつかない。


 しかし、思いのほかすぐに見つかった。


 「ここか」


 馬鹿なのか、何なのか、大門のところに『猛犬確保中』などという貼り紙がしてあった。


 探す手間が省けたので、ライアにとっては良かった。


 カンカン、とチャイム代わりのノックをすれば、機械越しの返事。


 《はい、どちら様?》


 「あの、ここにその、犬が捕まっているということで、その犬を見せていただけませんか?」


 《どちら様が存じませんが、お引き取り下さい。これ以上は、何もお話しできません》


 「あの、でも・・・」


 ブツッ・・・・・・


 こうなることは予想していたが、顔さえ出さないとは、身分とはこういうことなのか。


 ここで居座ったところで、今度はライアが捕まりそうだ。


 踵を返して山に戻ろうとしたとき、屋敷のニ階奥の部屋のカーテンが開いた。


 「え?」


 そこから見えたのは、瓜二つの少年の顔。


 「リョウ?」


 いや、まさかそんなはずはないのだ。


 何十秒かしてカーテンは閉まってしまい、ライアはそれ以上確認することが出来なかった。


 自分は何を見たのだろうと、山へ戻れば、そこにはリョウがいた。


 しかも、両手にキジだかなんだかをゲットしていた。


 「ん。美味しい」


 火を焚いて、リョウがゲットしたキジだかなんだかを食べた。


 横でむしゃむしゃと食べているリョウを見ていると、やはりあの少年とは関係ないように思う。


 ある程度お腹が一杯になり、リョウはごろんと横になった。


 それにつられるように、ライアも寝そべる。


 「リョウ。明日、一緒に行ってみるか?お前の親犬に会いに」


 目をキラキラさせて、リョウはまた首が取れそうなくらい、首を上下にさせる。


 夜になって空を見るが、木々の隙間から覗く星空も悪くはないものだ。


 リョウはさっさと寝てしまっていた。


 朝になると木漏れ日をなり、良い目覚まし代わりだ。


 「眩しい」


 目が眩みそうなほどの刺激を受ける。


 今何時だろうとか、今日何をするとか、脳はまだそこまで起きていない。


 リョウもまだスヤスヤと寝ている。


 「身体痛いな・・・」


 ふかふかのベッドで寝ているわけではないのだから、当然だ。


 根っこが出ている場所で横になれば、そうなる。


 身体を起こしてすこし捻れば、ボキボキと音が鳴る。


 昨日の残りの果物を少し口に含み、小川から水を持ってくる。


 するとリョウもやっと起きてきたようで、目を擦っていた。


 「おはよう」


 「んん」


 寝惚けていても、水は飲むし食べ物も口にする。


 「リョウ、もう少ししたら、行ってみよう」


 太陽がてっぺんに昇るその前に、ライアはリョウを連れて先日の地主の屋敷まで来ていた。


 カンカン、と二度目となるノックをすると、またしても機械の向こうからの返事。


 《はい、どちら様?》


 「昨日の者です。御主人にお会いしていと思いまして」


 《旦那様はただいま外出しております》


 「では、待たせていただけますか」


 《後でまた来ていただけると》


 「それでまた外出中ですなんて言われたら、こっちも無駄足になるので」


 こうして強気で言えるのは、嘘をつかれていると分かっているから。


 失礼な奴だと罵られても、旅をしているライアにとってはそんなことどうでも良かった。


 ただ、自分自身疲れているのもある。


 《・・・わかりました。お待ちください》


 ギィー、と重たい音を立てて門が開く。


 玄関まで随分と距離があるが、すごいという感想より、無駄に長い、と感じていた。


 玄関の前に着くと、自然と扉が開く。


 「・・・大変お待たせいたしました。こちらへどうぞ」


 「・・・どうも」


 すごく、すごーく嫌な顔をされた気がしたが、気にしない。


 ライアはリョウが走ってどこかへ行かないよう、しっかりと手を握った。


 「こちらでお待ちください」


 応接間だろうか、ソファに座ると思わずすぐ寝てしまいそうだ。


 リョウも隣に座らせると、ライアの横で大人しく腰を下ろした。


 足はブラブラ動かしているが。


 それからどのくらいの時間が経ったころだろうか。


 「いやいや、待たせてしまいましたね」


 「・・・・・・」


 二人の前に現れたのは、紳士というほどの風貌ではない、歳のいった男。


 だが、外装だけはしっかりとしている。


 顔はシワもあるし、髪は生まれつきなのか、癖っ毛だ。


 「・・・!」


 そして何より、リョウを見て驚いた。


 「昨日、ここに来た時、カーテンから見えたんです。ここにいるリョウと似ている男の子を」


 「ハハハ。そんなわけないでしょう」


 「なら、ここに連れてきてください」


 「誰をです?」


 「ここに来る時にも、多くの人がリョウを見て驚いていました。その中で、リュウと呼ぶ人がいました。リュウとは貴方の息子さんだと」


 「・・・・・・」


 黙り込んでしまった男は、家政婦に紅茶を持ってくるように頼んだ。


 あまり似合ってはいなかったが、蝶ネクタイも取り外し、来ている洋服のボタンも二個外した。


 まだ熱いだろう紅茶を口に含み、「あち」と言っていた。


 「そろそろ、話す気になっていただけましたか?」


 「・・・・・・」


 ちりんちりん、とテーブルの上に置いてあったベルを鳴らせば、再び家政婦がやってきた。


 ちょんちょんと人差し指で家政婦を自分の近くに寄らせると、コソコソと何かを伝えた。


 「はい、すぐに」


 少しだけ冷めた紅茶を飲むと、男はリョウをチラッと見た。


 「妻が体調を崩していてね。養子にと貰った子なんだ」


 「リュウですか?」


 「ああ。もともと妻は子供が出来にくい身体で。しかしこの家を潰すわけにもいかず、その時丁度リュウが養子に出されていたんだ」


 「父上、お呼びですか」


 「リュウ、ここに座りなさい」


 自分の隣に座る様に言うと、リュウはそれに従った。


 ライアを見てお辞儀をし、リョウを見て、当たり前だが目を丸くした。


 「でも、リュウが養子に出されていたなら、リョウだって出されていたんじゃ?」


 「ああ。この子たちの親は金に困っていたようで、二人とも売りに出されていたんだ。リュウは私達が引き取ったが、リョウくんは養子先も見つからず、捨てられてしまったそうだ。親の所在もわからない。まさか、こんな再会を果たすとは・・・」


 リョウとリュウは互いに見つめ合っていた。


 その間、何を感じたのかは誰にもわからないが。


 リョウとリュウを二人きりにし、ひとまず応接間を出た。


 十分という時間が設けられただけだが。


 ライアは特にすることもなかったため、食糧や飲み物の確保をしにキッチンへと向かった。


 袋一杯にして戻ると、二人も部屋から出てきたところだった。


 男もパイプを吸いながら玄関に立っていた。


 「リョウくんには申し訳ないが、あの犬は子供たちを怪我させたこともあるから、逃がすわけにはいかないんだ」


 「・・・・・・」


 「リョウ、行くぞ」


 「・・・・・・」


 男のことを睨んだようにも見えたが、リョウはライアの後を追った。


 二人が出て行ったあと、リュウはゆっくりと部屋に戻っていく。


 そして、部屋のカーテンを開けて、遠くなっていく影を眺めていた。


 「リュウ」


 「はい、父上」


 リュウに部屋に入ってきた男は、カーテンを閉めながらこう言った。


 「さあ、今日のことは忘れて勉強しなさい」


 「・・・はい」


 一方、山に帰ってきたライアとリョウ。


 貰って来たものをリョウに渡すと、ライアは横になってしまった。


 まだ夕方にもなっていないというのに。


 「疲れたから寝る」と言って。








 翌日、街は大騒ぎになっていた。


 また自然の目覚ましで起こされたライアは、大きな欠伸をした。


 街が騒ぎになっていることなんて知らないまま、今日は街を通って先に進もうと思っていたのだ。


 ガヤガヤといつも以上に騒ぐ街人を尻目に歩いていると、昨日会った地主の男がライアを呼びとめる。


 「?」


 「犬が逃げたんだ!!!鍵が壊されてて!まさか、あんたがやったんじゃないだろうな!!!」


 「へ?逃げた?」


 少しの間拘束されたライアだが、一緒に探すと言って拘束は解かれた。


 「しかし、何処行ったんだ?」


 朝、ここに来るまでに犬を見かけていないから山には行っていないだろうと思っていたライア。


 屋敷にもお邪魔して、犬が捕まっていた檻を見せてもらった。


 餌はちゃんともらっていたようだ。


 鍵は壊されたように見えたが、ちゃんと開けて脱出させたようにも見える。


 「・・・・・・」


 うーん、と考えたライアは、一旦山に帰ることにした。


 もしかしたらリョウのところに帰っているのでは、と思ったからだ。


 「やっぱり」


 案の定、犬はリョウの隣で寝ていた。


 誰が逃がしたなんて今はどうでもよくて、今にも死にそうに呼吸をしている犬を見ると、捕まえる気にもならない。


 リョウが目を覚まし、ライアを見て悲しい顔をする。


 「捕まえるの?」


 「・・・捕まえないよ。最期くらい、一緒にいると良い」


 ライアは笛を出し、犬が息を引き取るまで、ずっと奏でた。


 風によって響いた音は、他の動物たちまで和やかにした。


 街ではきっと血眼になって探しているだろう。


 そして、ゆっくりと逝ってしまった。


 リョウは泣いていた。亡骸に縋りつくように、声を荒げて泣いていた。


 ライアはリョウの両肩をそっと包むと、ソレから離した。


 「ちゃんと埋めてあげよう」


 あまり人間が足を踏み入れない、静かな場所に墓を立てた。


 二人の手は土で汚れてしまった。


 「泣くな」


 小川で手を洗いながら、ライアはリョウに言う。


 「最期をお前に身取ってもらえて、幸せだったさ」


 その後、ライアは街に下りて犬が死んだことを告げた。


 これでもう子供が襲われる事はないと、街の大人たちは無様に喜んだ。


 リョウの事が心配だったライアは、少しだけ山で生活することにした。


 一カ月ほどしたころ、もう大丈夫だろうと山を下りることを決めた。


 だが、またしても事件は起きてしまった。


 「火事!?」


 夜中なのに明るいと思って起きれば、街で火事が起きていた。


 しかも、あの地主の家が、だ。


 そして、どう話が進んだのか分からないが、リョウが犯人なのではという噂がたっていた。


 「リョウ!」


 山に戻ってみたが、もうリョウの姿はなかった。


 「このガキか!!!」


 「死人が出なかったから良かったものの!」


 「処刑だ!こんなガキ!」


 リョウの公開処刑が決定したのは、すぐのことだ。


 地主の元へと交渉に行こうとしたライアだが、会う事は赦されなかった。


 一週間後に決まった処刑までに、なんとかならないかと考えた。


 だが、解決策は見つからない。


 ―愚かな人間が何を悩む。


 「・・・・・・いつもいつも嫌なタイミングで出てくるな」


 ―それは褒め言葉として受け取ろう。


 「今はお前と遊んでる暇はない」


 山だから仕方ないと諦めるしかないのか、そこには足を奪われた哀れな姿の生物。


 ―お前が手出ししなくても、子供とは、時に大人よりも残酷なことを考えるものだ。


 「?何を言って」


 もう一度視線を動かしたときには、すでにそこにはなにもいなかった。


 その日の夜、ライアはもうひとつ不思議なものを目にした。


 「あれは、リョウ?」


 捕まっているはずのリョウが、走って通り過ぎたのだ。


 もしかしたらリュウかもしれないが、きっとあのボサボサなのはリョウだろう。


 追いかけて見たが、もうそこには人影もなかった。


 「?」


 辺りを見渡して見ても、誰もいない。


 「気のせいか?」








 そしていよいよリョウの処刑日当日。


 街全員が来たのではないかというくらい、ゴミゴミとしていた。


 ライアは全く前には進めずいた。


 「あそこなら」


 処刑の場所がよく見える、建物の屋根へと足を進めた。


 鐘が鳴って、処刑が始まることを報せる。


 すぐにリョウが出てくるものだと思っていたが、待てど暮らせど出て来ない。


 何かあったのかと、ライアは屋根から下りて、リョウが捕まっていた場所へと走った。


 コソコソしても見つかってしまうもので、笛を鳴らしては看守や見張りを眠らせた。


 すると、声が聞こえた。


 「何を言っている!?あの野生児との区別がつかないわけないだろう!ちゃんと調べろ!!!」


 怒っているのは地主の主人だろうか。


 ライアのいる場所からではよく見えないため、天井にある通気口から近づくことにした。


 「(狭い)」


 身体をなんとか縮ませて、声のする方へと向かう。


 「(ここか)」


 やっと辿りついたそこには、見覚えのある姿が二つ、あった。


 リョウと、多分リュウ。


 多分というか、多分。


 二人とも髪がぼさぼさになっており、着ている洋服もぼろぼろだ。


 もともと双子らしいから、余計に見分けなんてつかない。


 「このままでは、処刑は無理です」


 「どうにかしろ!」


 「もし間違えたりしたら・・・!」


 「(それで未だに・・・)」


 リョウを処刑出来ないでいる理由がわかったところで、ライアは通気口から出た。


 真下にいた見張りの上に乗っかって気絶させると、二人の前で両膝を折る。


 「・・・・・・」


 二人して、何も言わない。


 どちらが考えたことなのか知らないが、間違っているとも言えない。


 「何も言わなくても良い。ただ、確認したいことがあっただけだ。リョウにも、リュウにも」


 ライアは二人をじいっと見つめ、二人もライアを見つけた。


 「お前らは本当に、互いのことを知らなかったのか?」


 「・・・・・・」


 「もしかしたら、俺がリュウの屋敷に行く前に、もう互いのことを知ってたんじゃないのか?それか、俺が連れて行ったことで再認識したか、だな」


 「・・・・・・」


 決して、目線も逸らさない。


 決して、声を発さない。


 決して、互いの手を離さない。


 「俺には本当のことは分からない。あのリョウを育てた犬を逃がしたのが誰かも、リュウの家に火をつけたのは誰かも、今捕まってるのがどっちがどっちかも」


 「・・・・・・」


 「お前らが本当は、普段から入れ換わって生活していたのか、そうじゃないのか。犬に育てられたのは片方なのか、両方なのか。もっと遡れば、あの地主に拾われたのが、本当にリュウだったのか、リョウだったのか。それとも、俺は歪んだ目で見てしまっているだけなのか。何もわからない」


 「・・・・・・」


 「それとも、お前らを、自分達の都合で勝手に引き離した大人への、復讐なのか。単なる困らせるだけのお遊びなのか。真実はお前等にしか分からない」


 「・・・・・・」


 「どんなに似てても、お前等は別人だ。今回の処刑をどうにかしたいなら、このまま二人で二人を演じ続けるか、それとも、ここから逃げて違う場所でそれぞれの存在として生きるか。お前等が決めることだ」


 「・・・・・・」


 互いの顔を見つめ合ったリョウとリュウは、瞳だけで会話をしているようだ。


 それはライアには分からないことだが。


 ここにずっといるわけにもいかないので、ライアは先送りにしていた旅を続けようと腰をあげた。


 「もし・・・」


 微かに聞こえた声の主がどちらかは分からないが、ライアは二人に顔を向ける。


 「もし僕たちがどっちかわかったら、また別々になるでしょ?“リョウ”は殺されて、“リュウ”は自由になれないままでしょ?」


 どちらが話しているのかと考えることはもうせず、ライアはただ答える。


 「多分ね。でもこのままでもいられないよ」


 「どうしたらいい?僕たち、どうしたらいいの?」


 すっとライアは笛を取り出し、やんわりと微笑む。


 「なら、二人で自由を掴めばいい」


 ライアが笛を吹くと、二人が入っていた檻の鍵が静かに開いた。


 笛を奏でたまま、ライアは足を進めた。


 そんなライアの笛の音に吸い込まれるように、リョウとリュウは後をついていった。


 その後、その二人がどこに行ったのかは、誰にもわからない。


 ただ、仲良さそうにしている二人のほかに、もう一人。


 魔術のような笛の音を聴いた者は、地平線を渡っていったという。


 二人を連れて行った男は、世に受け継がれる悪魔と呼ぼう。


 街の大人は子供たちを探したが、一生、帰ってくることはなかった。








「リュウ、僕たち、また失敗したね」


「大丈夫だよ、リョウ。きっとこれから上手くいくよ」


 天使たちの落とした羽根は、黒く染まって行ったなんて、きっと御伽噺でしょ?





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