第243話 潜入準備
「ここからは、歩いた方がいい。あと、そこで少し服を買っていこう」
向かい風に負けないように声をはりあげて告げる加藤。
空を飛ぶクロとオボロ、そして相変わらず荷物のように運ばれていた加藤の眼下には目的地たる難民キャンプが見えてきていた。
それは巨大な人工島だった。避難特区という正式名称を持つそこは、上空から見ると人工的に形成された島だということが、よくわかる。
埋め立てにより形成された人工島特有の直線的な島の形。そして本土と人工島を結ぶ、一本の橋がかかっていた。
クロは一瞬考え込むも、加藤に言われるがままに降下していく。
「あそこのコンビニが、目黒とされる人影が最後に確認された場所だ。その向かいのファストファッションの店に入ろう」
「どうして服などいるのだ、加藤?」
不思議そうに尋ねるオボロ。
「あなたは配信者として有名ですから。難民キャンプ区は、今ではすっかり治安も悪化してるので、出来るだけ無用な騒ぎが起きないように目立たない格好をしましょう」
オボロを見ながら告げる加藤。騒ぎが起きて目立つと、当然、目黒の探索の差し障りになる。
そして、クロも特に異論はないのか無言だ。
「仕方ない。そういうことであれば」
「……服を買ったことがありません」「それは私もだぞ。だが、加藤が見繕ってくれるのだろう?」
ポツリと呟くクロ。オボロが楽しそうにコメントをかぶせる。
「うへぇっ!?」
「当然だろう? 言い出したのは加藤なのたから」「そうですね。よろしくお願いいたします」「あとでコーディネートをマドカに見てもらうからな。マドカが失望するようなものにしてくれるなよ。よろしくな」「私もユウト様にホログラムに反映させて、確認して頂きます」「責任重大だぞ、加藤」「そうですね。義父としての実力が問われるかと」
「そ、そんな……いやでも、クロもオボロもそれぞれ好みがあるだろ? それにそって、あとは今回の捜索ように出来るだけ目立たないように……」
そういいながら、クロとオボロを交互に見て、口をつぐむ加藤。
女性の服を選ぶ経験の乏しい加藤でも、目の前の二人の女性の服を選ぶことがとても難易度が高いミッションになることは明白だったのだ。二人ともそれぞれ系統の違う美女だと明言出来る。
その魅力をさらに引き出しつつ、潜入任務に相応しい格好にしないといけないのだ。
しかも、これからいくのはファストファッションの路面店。基本的には、店員にコーディネートをお願いする感じの場所ではない。
そもそも、目立たないことを主眼にしているのに、店員に声をかけてコーディネートしてもらうなんて本末転倒だった。
つまり、どうあっても加藤が二人の服のコーディネートをしないといけない、ということだった。
その双肩に、重い責任を背負って、加藤はとぼとぼとファストファッションの店へと向かう。その足取りは大穴ダンジョンを進むときの比ではないほど、重たかった。
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