第242話 新たなる仲間たち

 私は自身の属するシザーズを代表して、新たに仕えることになった王と女王へと挨拶に来ていた。


 場所は、まだ、作りかけの王宮。未完成ながらもその使用されている素材は、どれも高ランクのモンスターたちのものだ。それらが無造作に使われ、時に、建材としてそこらじゅうに置かれている。


 その端材から発する威圧感だけで、私のハサミはガチガチと恐怖に震えてしまいそうになる。

 そんな本能に支配された下半身のザリガニ部分を、神により、新たに頂いた人型の上半身が理性をもって何とか制する。


 ──初めての謁見。種族を代表して、せめて無様な姿だけはさらさないようにしませんと。我ら敗残のシザーズを受け入れ、さらに理性と半人半ザリガニとしての新たなる姿を授けて下さった偉大なる神へ、顔向けができません。


 下半身の震えを押さえた私は、少女の姿で生えた人型部分の背筋を必死に伸ばして、お辞儀の姿勢を維持する。

 そのままの姿勢で待つことしばし、ついに王たちが謁見の間へと姿を現す。


「あだむだよ。顔、あげて直答していいよ」「私のことはいぶちゃんと」


 落ち着いた声。しかし、歴戦を潜り抜けてきたことが一声で伝わってくる深みがある。

 偉大なるコボルドの王と女王へと向かって、私はゆっくり顔をあげる。


「あだむ様、いぶちゃん様。この度は偉大なる混沌の末席へと加えていただきました我らシザーズを代表し、ご挨拶を申し上げます。我はクリスティーン=シザーズ。灼熱と凍土のダンジョンの元主にして、偉大なる神の最も下賎なる僕でございます。お見知りおきを下さい」

「うん、よろしく。偉大なるお方が君を仲間と認めたからね。それがすべてだ」


 あだむ様からの、ご承認。これで私たちは正式にあだむ様を頂点とする群れの最末端としてお認め頂けたことになる。

 私の下半身のザリガニが歓喜のあまり躍りだしそうになるのを少女の上半身が理性で押さえつける。


 圧倒的な力を持つ存在の群れへの帰属は、獣としての本能をくすぐるのだ。


「クリスは、いぶちゃんたちの三番目の息子、フロストの配下にする。また、B群の装備、使用していいよ。担当のダークコボルドをつかわせる」


 具体的な指示を出す、いぶちゃん様。あだむ様もそんないぶちゃん様を信頼した様子で見守っている。

 こと戦闘と軍事行動に関する実務レベルの決定権はいぶちゃん様にあるようだ。


「ははっ。勿体無きご配慮、痛み入ります!」


 私は少女の声で出せる限りの慇懃さを意識しながら感謝を告げると、そのままじりじりと後退して謁見の間を退出していく。


 部屋の外には、私の副官たるケスティ=シザーズとエメリー=シザーズが待っていてくれていた。

 二人とも新たに少女の上半身を得た、得難い副官だ。

 二人とも、その美しい少女の顔に一瞬、不安そうな表情を浮かべる。我が種族の行く末に関わる謁見だったのだ。結果を訪ねたそうにしつつも、しかしすぐに無表情を維持する二人。


 まだ、ここで何かを話すには相応しくないという判断をしたのだろう。


 獲得したばかりの理性をしっかりと使えている二人に頼もしさを感じながら、私は下半身のハサミで軽く二人の下半身のハサミに触れる。

 ケスティとエメリーも、無表情で下半身のハサミでのコミュニケーションを返してくる。二人から、ほっとした雰囲気が伝わってくる。

 私たちは、そのまま偉大なる王たちの住まう王宮から、仲間のシザーズのまつ場所へと帰るのだった。

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