第240話 クロの帰還

「あ、加藤さん。お久しぶりです」

「やあ、ユウト君。これ。目黒が、ありがとうと言ってたぞ」


 玄関にいたのはお隣の加藤さんだった。その手には、俺の学生服とジャージ。


 ──目黒さんじゃなかった。


 俺は気まずくなくて少しほっとする気持ちと、ほんの少しだけ残念な気持ちが混じる。

 もちろん残念なのは、壊れてしまったクロのデータを、別のドローンに引き継ぐように対応してくれると目黒さんが言っていたからだ。


 俺は学生服とジャージを加藤さんから受け取りながら、答える。


「ありがとうございます。目黒さんはお忙しい感じですか? 実はクロのことで、目黒さんにお願いしてて」


 なぜか、びくっとして慌てて返事をする加藤さん。顔が少しやつれている。よく考えると、加藤さんと会うのは、前に加藤さんの娘さんが体調を数してタクシーに乗り込んでいくのを見かけて以来かもしれない。


 あまり娘さんの予後が良くないのかなと、心配になる。


「あ、ああ。それも、もちろん預かっているぞ」


 そういって、玄関の外へ半身を出すしぐさをする加藤さん。

 すぐに、一台のドローンを手にして戻ってくる。


「ほら、これだ」

「え、ありがとうございます! すごい。新品みたいですけど、良かったんですか?」

「あ、ああ。その機体は、余ってたと、目黒から聞いてる。気にせずに使って欲しいと」

「本当にありがとうございます。あの、目黒さんにも、直接お礼をお伝えしておきたいのですけど……」


 重ねて聞いてみて、ふと嫌な想像が頭をよぎる。


 ──あれ、もしかして俺、目黒さんから避けられてたりする? う、そういえば、思い当たるふししかないんどけど。でも、あの罰ゲームの数々は早川が発案……いや、でもな。しっかり早川を止めなかった俺にも責はあるよな……それに、目黒さんの、あれらの姿、バッチリ見ちゃってるし……。女性としてはやっぱり……


 俺が少し顔を赤らめながら、ぐるぐるとそんなことを考えている間に、加藤さんもなんと答えたものかといった様子で困っていた。


 ──うわ、やっぱり。加藤さんも何て言うか困っているよね、これ。絶対……


「あー。すいません、目黒さん、お忙しいですよね。あの……お礼に今度また蜂の巣とか取れましたら、お持ちするようにしますね。目黒さん、虫食がお好きですもんね?」


 俺は慌てて自分からそう告げる。


「お、おう。それは──喜ぶと思うぞ。そのときは……喜んでいただくよ」


 気がつけば、加藤さんの顔から、だらだらと汗が垂れている。


 ──あれ、やっぱり加藤さん、体調とか悪いのかな。心労がたまってる? でも、さすがに娘さんのことはきかない方が良いよね……


 そんな感じで最後は少し微妙な空気になりながらも、加藤さんは帰っていく。


 ちょっと加藤さんと目黒さんとのことは引っ掛かるが、それを上回るぐらい、俺は手にした物が気になって仕方なかった。

 俺は自分の部屋に戻ると、服を片付ける。そして待ちきれない気持ちで、ちゃんと直っているか確認しようと、新しいクロの機体の電源をつけるのだった。

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