第236話 運命と力点2
「クロさんは、目黒が力に目が眩んで裏切ったと、想定していますか?」
「強き力は、時として運命すらもねじ曲げてしまいます。その、力の近くにいるものの意思など関係なく。緑川さん。
緑川の質問に、明言を避けて返答するクロ。
それは、かつてのクロでは、考えられなかった返答だった。
「猶予をご提示頂く、寛大な返答に感謝いたします。目黒の捜索は、以後もダンジョン公社の総力を持って行わせて頂きます」
そのクロの真意を汲んで、感謝を告げる緑川。
それに、加藤も少しだけほっとした様子をみせ、緑川を労うように頷いている。
「探索はよろしくお願いいたします。ただ、困難を極めるでしょう」
「というと?」
加藤の質問に、他の三人が呆れたように加藤をみる。
「クロさんの話を聞いたでしょう? 目黒本人の意思ではなくても、何者かに強要されている可能性もあるの。つまり、マジカルメイクアップで、姿形が自在に変化しているのを想定して探さないと」
「あ──」
呆れたように説明する緑川にクロが補足する。
「鍵となるのは、同じ力をユウト様より授かりし、貴殿方二人です。加藤、緑川さん」
「え、俺たち? しかし俺の
「──はぁ。それでは成すべきことを」
「はい」「ああ、わかった」
「え、え?」
「──加藤は、ユウト様のジャージと制服を至急クリーニングして、ユウト様にお届けしてください。その際に、潜伏させている分体ドローンを修理した私だとしてユウト様へお渡しするのもお忘れなく」
「お、ああ。任せとけ。あ、目黒のことは何て説明するんだ?」
「お任せします」
よくわかっていないままの加藤にそう指示を出すクロ。
加藤以外の女性陣三名は、それぞれが成すべきことを果たさんと、動き出すのだった。
◆◇
「クロさんっ! オボロっ」
「どうした。マドカ」
「目黒の足どりが一部、掴めましたっ! こちらをっ」
「ふむ、これか。それで、ここはどこなのだ」
加藤とともに現れた緑川が掲げたタブレット。そこに映るのは、誰かの人影だった。
画像はどうやらコンビニの防犯カメラ映像のようだ。店内から外を映したその映像の端に、人影が映っている。
あまり画質が良くない。一見するだけだと、それが本当に目黒だと判別するのは難しいほどだ。
「ダンジョン公社本社の解析では九割がた間違いなく、目黒です。そして、この歩み去った先には、行政特区、いわゆる、難民キャンプ区となります」
「うわ、また厄介なところに……」
「難民キャンプ? なんだそれは」
不思議そうなオボロにクロが告げる。
「虹の地平となったかつての投棄県、四県の住人が避難し生活する区画の一つです。長期に渡る避難生活の果てに、いまでは完全にスラム化し、行政の影響力がかなり低下した地区と言えるでしょう。違法な物品の取引や各種犯罪者の潜伏先となっています。いまでは、投棄県が差別用語とされる主要因でもあります」
「あの、クロさん、それぐらいで……」
「そんなところ、力ずくで排除してしまえば良いのではないか」
「それが、そうもいかない事情もありまして……」
言葉を濁す緑川。
「まあ、なんでもよい。クロ、乗り込むのだろう?」
「当然です。緑川さん、加藤」
「ああ、当然同行させてもらう。」
「はい」
「いや、緑川は残らないとだめだ。ユウト君の近くに一人は居るべきだろう」
加藤が緑川に告げる。
「え、でもっ!」
「いや、マドカ。加藤の言うことは珍しくまともだ。マドカはユウト様のお近くに居てくれ」
「わかったわ。クロさん、よろしくお願いいたします」「め、珍しく──っ!?」
なぜかショックを受けた様子の加藤を抱えるとクロとオボロは帰ってきた時と同様、再び空へと舞い上がるのだった。
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