第235話 運命と力点
「はぁ、懐かしの我が家って感じがする」
「そうだな。マドカとともに過ごした時間が一番多い場所だ」
「……うん。また一緒に戻って来られて、うれしい」
オボロの優しくも情熱的な瞳を向けられた緑川は、少し俯きながらも素直にそう返事をしていた。
元ダンジョン公社支部であり、ユウトに発見される可能性を回避するため、その監視機能を廃棄したそこは、それでも緑川達の家と呼べた。
久しぶりの緑川達の帰還に、ヤミネコのヴァイスが出迎えてくれる。
興奮のあまり意識していなかった自身の疲労を感じて撫でるのは自粛する緑川。しかし膝をついてヴァイスへと声をかける。
「ただいま、ヴァイス」
一言鳴き声で応えると、ヴァイスはそのままとことこと、部屋を出ていってしまう。
そんなほのぼのしたオボロと緑川達と、対照的だったのは加藤とクロだった。
「ユウト様の制服とジャージを発見しました」
「ぜー、はー、ぜー。ああ。確か、クリーニングして返すやつだな。目黒が借りた」
強風にあおられ続けて、少し酸欠気味の加藤だったが、クロの、ただならない様子を感じとる。
「そうです。早川の自宅への帰還も、確認」
「クロ、分体ドローンを、展開しているのか? ええと、目黒が早川さんを自宅に届けたんだろ?」
「緑川さん。緑川さん。オボロ、邪魔です」
お互いだけの世界に浸っていたオボロと緑川の間を力ずくであけるクロ。
「──うん?」「なんだ」
「話があります。目黒さんへ連絡をとってください」
「え、いいけど」
スマホを取り出す緑川。
「──かからない。圏外か電源を切っているのかしら?」
「それか、破棄したか」
クロのその一言に、その場の空気が一気に引き締まる。
「クロさん、どういうこと?」
「まだ、何もわかりません。ただ、私黒の黒の影として、ここにダンジョン公社へ正式に目黒
「っ!」
弾かれたように動き出す緑川と加藤。
緑川はダンジョン公社の双竜寺課長へ暗号化通信でのホットラインにて、今、クロより告げられたことを伝達する。
加藤も、素早く屋内の探査を行う。
「──これが、ユウト君のジャージと制服だな」
「そうです」
戻ってきた加藤の手にある服をみて、肯定の返事をするクロ。
「ダンジョン公社でも、全人員を動員しての探索を開始したわ。でも現状、早川さんを自宅に送ったあとの足どりが掴めていないわ」
スマホで電話を繋ぎっぱなしにしたまま告げる緑川。
「クロよ」
「何ですか、オボロ」
「お主が焦っておったのは、これか」
「余計なお世話です」
「ふ、まあよい。それでもお主は何を考えている」
「──目黒さんはユウト様のお礼状をお持ちです。そして、今は神であった進化律の力のバイパスであった懐中時計をその身に融合させたクロコのボディをも、手にしました」
「しかし、ユウト様より我が身にお預け頂いた進化律の力は、クロよ。お主が回収したのだろう?」
「完全ではありません。私も、人の身となったことで、取りこぼしてしまったままの物がかなりあるのです」
「では未だに進化律と因果律の二柱の神の力は、分散して存在していると」
「そうです。そして、その力の一つは未だにクロコのボディに宿ったままです」
「クロさん」
クロとオボロの話しに、緑川が意を決して割り込む。少し前までの甘く緩みきった表情は完全に消え、悲壮なまでの覚悟を浮かべている。それは、もっもとユウトの近くで、いくつもの修羅場を乗り越えてきた者の表情だった。
「クロさんは、目黒が力に目が眩んで裏切ったと、想定していますか?」
緑川によって決死の覚悟で放たれたのは、クロの解答によっては今後の人類の命運すらも左右しかねない、質問だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます