第231話 第5部 エピローグ
「ふぅ」
救援ミッションを終えた俺は、ゆっくりと頭に装着したヘッドセットを外して、ため息をつく。
気がつけば、部屋に一人だ。
「あれ。──時間も遅いし、さすがに早川は戻ったのかな?」
起き上がろうと、ベッドに手をつく。
手のひらに伝わってくる、熱。俺の寝ていた場所の隣のスペースがなぜか、暖かい。人肌ぐらいの温度。
試しに寝たまま手を動かすと、ちょうど俺の隣、人の体のサイズ感ぐらいの範囲が、他の場所より温度が高かった。
不思議に思いながらも、今度こそ体を起こす。無意識に自分の頬を軽く、さする。
少し濡れたそこを、パジャマの袖でごしごしとふく。
「ははは──はぁ……。ゲームだって言うのにな……。良かった、誰もいなくて」
敵は大して強くなくて、印象が薄い。それよりも、気を抜くと何度も脳裏を過ってしまうのが、いぶのことだ。
鼻先を触れた、血まみれの優しい感触。急激に失われていく体温。それがあまりにリアルで。
ゲームだとはわかっていても、思い出す度に拭ったばかりの頬が再び湿ってしまう。
俺は頬を拭うのをあきらめて、ダンジョン&キングダムに、今度は魔王シユとしてログインする。
「やっぱり、ロスト扱い……。でも、復活できるのか」
メニュー画面には、ロストしたユニットに、いぶの名前があった。しかし名前をクリック出来る。どうやら
「使用MPが、いぶを作った時の10倍以上だ──」
幸いなことに、なぜか救援ミッションのクリアに、ボーナスポイントがついていて、それぐらいのMPはちょうど持っていた。
「ゲームとしては別のことに使うのが正解、なんだろうけどな」
俺は自らの鼻先を撫でながら、躊躇することなく、いぶの復活を選択する。
もちろん、そんなことでは俺の感じた思いは払拭出来ない。ほとんど気休めのようなものだ。
それでもゲーム画面を復活したいぶを見て、俺はこっそりと、安堵の息をつく。
「あれ?」
そのときになって、ようやく違和感に気づく。
いぶのリスポーン地点が地上になっていたのだ。その周囲には、ゲームの混沌たちがいた。あだむがリスポーンしたいぶに駆け寄っていくのが映っている。
「大穴は? なくなってる?」
不思議に思いながら、俺はユシのログを辿ってみる。
「なんか、あの短時間で色々とスキルを手にいれてれてるな……。なんだろ、このワラベウタって。これもスキル?」
どうやらログを辿るとこのスキル:ワラベウタという、良くわからないもので、混沌をはじめとした大穴ダンジョン内のユニット達を地上に送ったことになっていた。
俺は首を傾げる。
画面のなかでは、いぶとあだむが、互いを労るように抱き合っていた。
謎は尽きない。しかし、その光景に軋んでいた俺の心もようやく少し落ち着く。
時間が遅いせいだろう、すると急速に眠気が襲ってくる。
俺はあくびを漏らすと、先ほどまで寝ていた場所の隣。まだ少し暖かいところに無意識のうちに横になる。
不思議な暖かさに包まれながら、俺はあっという間に眠りに落ちるのだった。
【後書き】
第5部までかかった大穴編もようやく終了です!
次は地上へと現れた混沌たちのお話になりそうです
書籍版がGA文庫様にて好評発売中ですので、そちらも是非是非よろしくお願いいたします~
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます