第230話 side 白銀のシロ

 白銀のシロが意識を取り戻す。

 シロを見下ろす、ダークコボルドたちの心配そうな顔が目に飛びこんでくる。


「あれ、雪が。きえてる?」


 不思議なことに、あれほど周囲に積もっていた雪が一切ない。


「白銀のシロ様、良かった」「魂の簒奪者に氷漬けにされてたんですよ」「お目を覚まされなくて。心配しました」「他のシロ様たちも目を覚まされたぞ!」


 ダークコボルドたちが、口々に告げる。


「ごめんね、心配かけて。君たちが介抱してくれたの? それで、あの敵は?」


 白銀のシロは七武器である大鋏を握りしめて立ち上がる。その周囲では他のシロたちも次々に目を覚まして立ち上がるところだった。

 そんなシロに手を貸してくれていたダークコボルドたちが、顔を見合わせると再び口々に話し出す。


「偉大なる御方です」「クロ様がオボロ様を助けられたのです」「偉大なる御方が御顕現なさいました」「魂の簒奪者はすべて偉大なる御方によって滅されて──」「でも、あれを──」


 口々に告げるダークコボルドたち。最後に悲痛な表情を浮かべ、皆が一斉に一点を指差す。


 雪が消えて見通しのよくなった平原。その先には白銀のシロが消えたと思っていた雪が空中の一ヶ所に集まっていた。


 そしてその下。


「──いぶ殿っ!?」

「いぶ様」「とても立派でした──」「偉大なる御方を、御庇いになられて……」


 遠目にも、大ケガをしているのがわかる、いぶ。その体の下には、灰色の毛皮が見える。

 あれが、偉大なる御方。ユウトのアバターたるユシかと、白銀のシロは息を呑む。


 これだけ離れていても伝わってくる圧倒的な存在感。大鋏が、いつの間にかカタカタと音をたてている。

 そのあまりの凄みに、気がつけば手が震えているのだ。

 隔絶した力の存在をじかに目の前にして、普段はかしましいシロたちですら、身動ぎも満足に出来ない。


 白銀のシロたちが息を潜めてその挙動を見守っていると、ユウトが足を空中にかける。そのまま、まるで空中に見えない階段があるかのように軽やかに空中を駆け上がるユウト。


「オボロ様のエクストラ、スキルだっ!」「すごいっ」「でも、当然ではある?」「そうだね。ユウト様はオボロの主様だし」「いやいや。いくら主だからって。ユウト様なればこそでしょー」


 白銀のシロの周りに集まっていた他のシロたちがユウトの挙動に、驚きを口々に告げる。


「あっ」「あれ?」「残像?」「ちがうよー。次はクロ様とクロコ様のスキルだよ、あれ」「さすがユウト様。何でもありだねー」


 氷のトゲがその体を貫いたように見えたユシの姿に、一瞬驚きを見せたシロたち。しかし良く良く何度も見ていると、氷のトゲが迫る直前にユウトの操るユシの体がぶれ、実際に氷のトゲが貫くのが義体なのが、徐々にシロたちには見えてくる。


 そのまま、ユウトが敵たる雪ウニの直上に至った時だった。


 シロたちから、無言の悲鳴が上がる。

 白銀のシロも、それを感じた。


 ユウトの振り上げた新聞紙ソード。それに、これまでに感じたことのない根源的な恐怖を覚えたのだ。


 禍々しく。

 痛々しく。

 刺々しく。


 そして何より神々しくて、美しい、何か。


 それ自体がまるで一柱の神かのごとき新聞紙ソードを仰ぎ見て、唯一声をあげられた白銀のシロが、叫ぶ。


「ダークコボルドたちよ、伏せっ──」


 次の瞬間。


 一点の灰色を中心に、世界が白と黒に染まった。

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