第229話 スキル

 空中に浮かぶ巨大な雪の塊に向かって、俺は一歩踏み出す。


 ピコン。


 もう、聞き慣れた音。

 視界の隅に自動で表示されるメニュー画面。


「エクストラスキル『天駆』をしました」


 俺の意識はいぶを害した敵──雪ウニに集中していた。そのため、メニュー画面の表示の微妙な差異を見落としてしまう。


 ただ、踏み出した一歩は空中を足場として、俺の体は天に浮かぶ雪ウニにするすると近づいていく。


 ピコン。ピコン。


 再び鳴り響く音。自動で文字が増えていくメニュー画面。


 そのとき、俺はゲームの中だというのに体が熱かった。そしてそれ以上に、頭が、脳が、沸騰するようだ。


 ただ、何度も何度も先程の場面が繰り返し俺の頭を過る。


 優しく鼻先を触れたいぶの手の感触。急速に熱を失っていくいぶの身体。

 まともに考えられないままに、ただ、俺は自身を突き動かす衝動に突き動かされ、天を駆ける。


「エクストラスキル『分体生成』をしました。ユニークスキル『義体生成』をしました」


 いぶの背中をえぐりとった、雪ウニのトゲ攻撃が、俺を迎え討とうと放たれる。

 これまでに無いほどの高速の攻撃。


 気がついたときには何本もの氷のトゲが俺の全身を貫いている。


 ただ、雪ウニにとって残念なことが一つ。それはユシのワケミタマをワンタイムボディで加工した偽物だったこと、だ。


 ユシの偽の体を貫いている、雪ウニから伸びた氷のトゲの一つ。そこに降り立った俺はそのまま、トゲの上を駆けて雪ウニへと向かう。


 雪ウニからの、再度の攻撃。今度は

 先程の数倍の本数の氷のトゲが迫る。しかし、結局、先程の光景が再現されるだけだった。


「神を自称するわりに低能……? いや、現実に対応できてないだけ、か」


 たいして苦労することなく、俺は雪ウニのすぐ目の前までくる。


 新聞紙ソードを振り上げる。


 ピコン。


 四度目の、音。

 同じ様に文字がメニュー画面を彩る。


「魔法剣士のジョブ固有スキルを獲得。『全力新聞紙振りそは かみを ほふる』」


 俺は振り上げた新聞紙ソードを叩きつけた。


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